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第4章 ここから始まる勇者様?

三十九日目③ 故郷を思い出して……

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 大道芸は非常に楽しかった。
 なんていうんだろうな、元の世界を思い出させてくれた。
 なんだろうな、胸の内からこう……湧いてくる感情がうまくコントロールできない。

「カイト、泣いてる?」

 エルダが俺の顔を覗き込んできた。
 泣いてる?俺が?
 そっと自分の頬に触れると、涙が流れていた。

「カイト、大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫……。大丈夫だから……」

 大道芸も終わり、観客がスタンディングオベーションで一団を称えていた。
 この辺はこの世界でも同じなんだな。
 俺も習って拍手を送った。
 スタンディングオベーションはなかなか鳴り止まなかった。
 それにこたえるように、出演者がステージへ登壇した。
 まだまだ続く拍手のシャワーを浴びながら、出演者たちが深々と頭を下げている。
 俺もこれでもかってくらい感謝の気持ちを込めて拍手を送った。
 ここに見に来た甲斐があったな。
 デイジーたちには感謝しかないな。
 ありがとう。

 拍手が止みステージ上の役者がはけると、観客も皆まばらに会場を後にしていた。
 観客がパラパラと散っていく中で、やはりまた彼女と目が合った気がする。
 さすがにこの世界に知り合いなんていない……
 いや、西森はいるけど、あの子じゃないはず。
 じゃあ一体……

 すると、俺の後ろの席から一人の男性が立ち上がった。
 ゆっくりとした足取りで、ステージに近づく男性。
 彼女もまたステージの前に移動していた。
 手を取り合い、そして二人は抱きしめ合っていた。

 くそ!!違うのかよ!!

 って何を期待していたんだろうな……
 一瞬にして焦燥感は消えてしまった。
 とりあえず、なんだかなぁ~って気分になった。

「いくわよ?」
「あぁ。」

 今度こそ本当に会場を離れたのだった。



 時間も大分過ぎ、お昼の時間になったようだ。
 屋台村にはたくさんの人がいて、それぞれがお気に入りの屋台に並んでいた。
 お気に入りの屋台料理を持ち寄り、テーブルは色とりどりに彩られていく。
 友達同士、家族同士、恋人同士、おもいおもいの料理に舌鼓を打っていた。
 
 俺がレシピを教えた屋台は……遠目から見てもいまだ大盛況らしいな。
 屋台が2軒並んで対応している。
 店員も増えているので、順調そうだ。
 周りを見渡すと、似たような店もちらほら見受けられた。
 それだけ人気なんだろうなと思った。

「カイトのレシピ大人気だね~。」
「そうだな。あの料理は本当にうまかった。片手で食べられるのもいいな。」

 なんだか居た堪れなくなってしまった。
 別に俺のオリジナルじゃないんだが……
 この世界では発案者になってしまったようだ。
 きっと昔の【勇者】や【賢者】もこんな気持ちだったんだろうか。

 俺たちはあーでもないこーでもないと言いながら、いろいろなお店を回ってみた。
 うまい店もあればそうでもない店もあった。
 串肉もうまいし、ピザに似た料理もあった。
 終いには、ケバブっぽい料理まであったのだからビックリしてしまった。
 俺が驚いていると、デイジーは首をかしげていた。
 どうやら、この世界では普通の料理らしいです。

「やばい、食べ過ぎた……」

 俺は一人ダウンしてしまい、屋台村中央の休憩スペースのテーブルを陣取って、ぐったりとしていた。
 さすがに食べ過ぎに効く薬はない様で、我慢して耐えるしかない。

 しばらく一人でだらけていると、一人の女性が俺の方に向かって小走りで近づいてきた。
 どうせさっきみたいに俺じゃないんでしょ?
 ってことで、気にせずダラダラしている。

「カイトさん!!見つめました!!一体どういうことですか?!」

 かなりお怒りの様子のミオさんがやってきたのだ。
 薬師ギルドを離れて大丈夫なのだろうか?
 あ、お昼休みかな?
 ってボケっと考えてだらっとしていると、机を「だんっ!!」って感じで叩かれてしまった。

「今薬師ギルドが大変なことになってるんですからね?!責任取ってください!!」
「はい?」

 いったい俺が何をしたって言うんだ。
 確かに朝に解毒ポーションで二日酔い治るから、薬師ギルドで買えるんじゃないか?とは伝えたが……
 もしかしてパンクした?

「とりあえず今すぐ来てください!!」
「ちょっと待って、今みんなを待ってるの!!ね?まってって。」

 ミオさんはだらけて突っ伏していた俺の左腕を掴むと、引き摺ってでも連れていく覚悟で、引っ張ってきた。
 さすがの俺も、すぐにイエスと言えないので待ってほしいと伝えるも、聞く耳持ってもらえなかった。

「あれ?カイトどうしたの?ってミオさんじゃん。どうしたのそんな怖い顔して。」

 デイジーたちが戻ってきたようで、引き摺られかけている俺を見て声をかけてくれた。
 だが、そのデイジーの言葉にすら反応してしまうほど、ミオさんは怒り心頭だったようだ。

「あなた達ねぇ……。今ギルドが…てんやわんやなの。話を聞くと、昨日飲み過ぎたって……うらやm、じゃなかった、おかげさまで二日酔いの人たちが押し寄せて、製薬が間に合ってないのよ!!」
「いやほらミオさん。一人一本だったら全然問題なく間に合ったんじゃ?」

 俺は反論してみたが、火に油だったようだ。

「そうね、一本だったら問題なかったわ。でもね、念のためって数本とかまとめて買いに来られてごらんなさいよ!!間に合うわけないじゃない。しかもよ、冒険者クラン「ミステリオス」がまとめて200本注文とか、殺す気なの?!」

 それって俺関係なくない⁉
 俺は抗議の声を上げようとしたが、ミオさんは後ろの三人を睨みながら伝家の宝刀を抜ききった。

「邪魔するのなら、あなた達にも手伝ってもらうわよ?」
「「「どうぞ!!」」」

 俺は三人に裏切られました……
 畜生!!

 そうして俺はミオさんに連れられて、薬師ギルドの新製薬工場へと向かったのであった。
 どうしてこうなった!?
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