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第2章 これから始まる共同生活

二十七日目⑧ 懐かしき味とメアリーさん

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「カイト……泣いてるの?」

 え?

 俺が泣いている?
 頬に手を当てると、暖かな一筋の涙が流れていた。

 そっか、俺は恋しかったんだな……
 納豆もそうだけど、地球に未練がありまくりだったんだ。

 俺はそっとドンブリに手を添えて持ち上げる。

 あぁ、この香り……この見た目……
 見紛うこと無き牛丼だ。

「いただきます。」

 手にした箸でひとすくい……
 はふっ

 ……
 …………
 ………………

 ウマ~~~~~~~~~~~~~!!
 マジでうまい!!
 再現度半端ない!!
 これはあれだ……えぇっと……そうYOSHI牛!!

「うまい!!」
「そうだろそうだろ!!俺の自信作だ!!」

 俺の箸は止まらなかった。
 ひたすら口へと掻き込んでいく。
 止まらない。
 止まらない!!

カラン……

 気が付くとドンブリの中身は空になっていた。

 俺はドンブリを見つめ虚しさを感じてしまった。
 形あるものはいずれ失われる。
 まさに俺の手の中にあるドンブリのように……

「あんちゃん、良い食いっぷりだな。もう一杯行くか?」
「おなしゃす!!」

 俺はためらわずお替りをした。
 もう誰も俺を止められない!!

 それから俺は黙々と牛丼を掻き込んでいった。

パン!!

「ごちそうさまでした。」

 俺は満足いくまで牛丼を食べに食べた。
 って言っても3杯しか食べられなかったんだけど。
 エルダはそんな俺を呆れてみていた。
 きちんと自分の分のお子様ランチを食べていた。

「ダニエルさん、ごちそうさまでした。」
「ごちそうさま。」

 ダニエルさんは厨房から顔を出すと、ニカッとしたスマイルとサムズアップで答えてくれた。

「おにいちゃん、たくさんたべたね?」
「リリーちゃんだったよね?ものすごくうまかった。ありがとう。」
「お父さんの料理は世界一なの!!」

 自信満々で答えたリリーちゃんがかわいらしく思える。
 エルダも目を細めてリリーちゃんをなでていた。

「本当にダニエルさんの料理はおいしいわよね。」
「なあ、エルダ。どうせ同じ街中なんだしたまにはいいよな?」
「そう……ね。たまにはいいわよね、こういうのも。」

 エルダの言葉に嬉しそうに反応するリリーちゃん。
 エルダもそれにつられてにこにこ笑顔だ。


 
 食後の余韻を楽しんでいると、宿の奥からメアリーさんが顔を出してくれた。

「あら、二人ともいらっしゃい。ゆっくりしていってね?」
「お邪魔しています。」

 エルダの目に涙がにじんでいた。
 やっぱりエルダにとってここも家族なんだろうな。

「あれからどう?うまくやってるの?」
「はい、エルダにはいろいろ世話になってます。本当に頼りになる相棒ですよ。」
「そう、それはよかったわ。何かあったら……ね?」

 メアリーさんの声が怖い……
 何故だろう、一気に体感温度が下がった気がする。
 鳥肌が収まらない……

「メアリーさん。カイトはこう見えてきちんとしてくれています。今朝も”家族になろう”って言ってくれたんですよ?」
「へぇ~。」

 ちょ、エルダさんや!!いきなり何言いだすんですか!?
 メアリーさんの表情からどんどんハイライトが消えていってるじゃないですか!!

 エルダを見るとちょっとだけ舌を出して笑っていた。
 こいつ、わかってやってるな⁉

 メアリーさんの方を振り返ると、そこにはメアリーさんがいなかった。
 辺りを見回しても見つからなかった。
 そしてメアリーさんが居た場所は……



 俺のすぐ後ろだった。

「ワタシメアリー、アナタノスグウシロニイルノ」
「は、は、はい!!」

 俺の首には何か冷たい金属のようなものが触れていた。
 おそらく針状のモノだと思う。
 やめてメアリーさん、それ以上押し込んだら刺さっちゃうから。

 ぷすっ
 痛い!!

 すでに金属が俺の首に刺さっている……
 どうなってんのこれ?!

 エルダを見ると……
 やっちまったって顔とおびえる顔が同居していて、意味の分からない顔になっていた。

「やめねぇか、メアリー!!」

 メアリーさんの体が一瞬ビクッとした途端、俺の拘束する力が弱まったのを感じた。
 それと同時にメアリーさんから漏れていた殺気も落ち着いていくのがわかる。

「だってあなた!!」
「だってじゃねぇ!!わりいなにいちゃん。どうにもエルダの事になると見境がなくなっちまうみたいでよ。勘弁してやってくれ。」

 ダニエルさんが申し訳なさそうに頭を下げていた。
 それにつられるようにしてメアリーさんも頭を下げた。
 その横で、なぜかリリーちゃんまでも頭を下げるもんだから、怒る気力もなくなってしまった。

「あぁ、もう。これで文句付けたら俺が悪者じゃないですか。ほんとこれっきりにしてくださいね。」
「すまねぇな。代わりと言っちゃなんだが、今日のお代は無料にさせてくれないか?」

 え?ちょっと何言ってんだこのおっさん!!
 そんなの料理人への冒涜だろうが!!
 うまい食事を提供した料理人に対して、食べた人間が出来る唯一と言っていいほどの感謝の行為。
 それが代金を支払うってことだ。
 それを無料何て言ったら、いくらダニエルさんだからと言っても俺は許さない!!
 ってなんでこんなに熱くなってんだ?
 
「それは出来ません!!こんなうまい飯にお代を払わないなんてあってはいけない!!」
「お、おう。」

 ちょっとダニエルさんがドン引きしているけど、そんなことは関係ない!!
 
「いいですか?このお代はダニエルさんの飯の価値なんです。提供されたモノに対して、俺が満足したって証なんです。だから無料はあり得ません!!」

 いったいこの人は何を言っているんだ。
 まったく。

「カイト……。言ってることはわかるけど、それだとダニエルさんが困っちゃうわ。」
「そこでダニエルさんにお願いがあります。俺に料理を教えてください。それでチャラです。」

 そして俺はダニエルさんの弟子になった。
 だって食べたいじゃん?牛丼……
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