勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

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第2章 これから始まる共同生活

二十日目② 異世界転移前日談 記憶の中で

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 俺の意識は完全に回復し、ここが病院のベットであることが理解できた。

 それからはいろいろな人が俺を訪ねてきた。
 母方の親族や父方の親族。
 警察関係者もいた。

 警察関係者から今回の件のあらましが聞くと事ができた。

『見通しの良い直線道路での正面衝突事故』

 これが俺が今ここにいる理由だ。
 そして、これが俺から家族を奪った理由だ。
 そう、この事故で俺の両親は死んでしまった。

 俺は後部座席にいた為、辛うじて軽傷で済んだ。
 しかし、両親はボディと座席に挟まれる形となり、即死だったらしい。

 事故の原因は、相手方トラックの居眠り運転によるセンターラインオーバー。
 しかも、酩酊状態での運転だったらしい。
 どうやら、過剰労働が続き休む間もなく運転していた。
 そして、少し前の仮眠の際にビール500ml缶を4本空けたそうだ。
 相手運転手も大けがを負い、今は警察病院にて治療を受けていた。

 今回の件の裁判は難航した。
 毎回傍聴をしていたが、争点は飲酒運転だけで終わらず、過剰労働が原因ではないかということになってきた。
 俺としてはそんなのどっちでもよかった。
 ただ、両親さえ戻ってきてくれるならそれでよかった。
 裁判は刑事・民事双方で争う形となり、相手方には危険運転致死傷罪が適応された。
 ただし、過剰労働を鑑みて刑が情状され、懲役10年となった。
 また、相手方企業にも責任がおよび、裁判は終了となった。
 俺はこんな結末なんて望んでなかった。
 ただ、両親に会いたかったんだ。



 しかし、俺の苦しみはこれで終わらなかった。
 むしろ俺は両親と一緒に死んでいた方がよかったんじゃないかとさえ思えた。
 
 両親の残した生命保険。
 慰謝料。
 そして自己資産。
 
 それなりのまとまった金額になってしまったのが、俺の不幸の始まりだった。
 
 俺が高校生であることを良いことに、資産管理の名目で、ほとんどあったことのない親族が群がってきた。
 俺を養子に迎え入れたいだとか、後見人になるだとか。
 中には見も知らない親戚らしき人物も紛れていた。
 
 正直うんざりだった。
 俺が退院する事も待たずに両親の葬式は執り行われ、喪主は父さんの兄であるおじさんが努めてくれた。
 そこまではよかったんだけど、その香典を丸々奪っていったらしい。
 おかげで費用が賄えず、両親の遺産の中から支払われることになったらしい。
 らしいというのは、それを知ったのは俺が退院してからの事だったからだ。

 そのほかにも家の権利書を勝手に持ち出した奴までいたそうだ。

 俺は自分で対応ができないと判断し、民事裁判の時お世話になった弁護士先生を頼ることにした。
 全て弁護士を通して対応すると、親族に通達をした。
 しまいには金に困っていた親族が、俺を事故死に見せかけて殺そうとまでしてきたのだ。
 さすがにこれには絶望しかなかった。



 俺は大学進学に際して、地元を離れることにした。
 行先は誰にも告げず、誰も知り合いがいない町へと引っ越しをした。

 大学は寮も完備しており、衣食住の心配もなく過ごすことができた。
 一流大学とはいかないものの、地方ではそれなりに大きな大学だったので、卒業後の就職先もそれほど心配はなかった。
 大学在学中に何度か弁護士先生から連絡があり、まだ俺の親族はあきらめていないようだった。
 本当に、金は嫌になる。
 この金は俺の両親の命の値段だっていうのに……
 ただ、その金で俺は大学へ進んでいる。
 俺は両親の命で生きている。
 そう思うと、親族と何が違うのかわからなくなってしまった。


 
 大学を卒業し、大手の商社への就職も決まった。
 配属先はコピー機のリースなどを扱う部署だ。
 新規契約先の開拓。
 既存契約先のアフターサービス等々。
 大変だけど、それなりにやりがいを感じて仕事をすることができた。

 25歳になるころには係長に抜擢され、部下の教育なども行っていた。
 私生活も順風満帆とはいかないが、それなりに楽しんで暮らしていた。
 趣味で始めたDIYが仲間内では有名となり、「超一流とまでは言えないけど、一流には負けないレベル」と地味な評価を賜っていた。
 そのほかにもいろいろと趣味に手を出したせいか、「器用貧乏」なる称号を与えらてしまった。
 さすがにこれには反対をしたかったが、よくよく考えると否定もできずに、結果としてそれが定着してしまった。
 会社内では〝困りごとは石立へ〟が浸透してしまっていた。
 俺は〝なんでも屋〟じゃないんだけどな。



 そして、運命のその日がやってきた。

 後輩と一緒にいつもの外回りを行っていた。
 さすがの暑さに二人ともダウンし、近くの公園で涼むことにした。
 正直後輩はさぼっていいのかって思ったらしいけど、上司の俺が休むと決めたのでそれに従ってくれた。
 ただ、後輩の顔を見る限り嫌ではなく、むしろ助かったって表情だった。
 冷たいコーヒーを飲みながら、この後の予定の確認を行っていた。

 しばらく打ち合わせを行っていると、座っていたベンチの足元からいきなり光に包まれたのだ。
 慌てた俺はその光の円から後輩を突き飛ばした。
 後輩も慌てた様子で態勢を立て直し、俺に手を伸ばして光の円の中に飛び込んできたのが見えた。
 あのバカ、せっかく俺が突き飛ばしたのに入ってくる奴がいるかよ。

 そして、俺の意識はそこで途切れたのだった。
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