勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

文字の大きさ
上 下
42 / 322
第1章 ここから始まるDIY

十九日目SS② エルダの仕事

しおりを挟む
 一通り泣きはらして、私は仕事に戻ることにした。
 そう、「カイト・イシダテの身辺警護。及び情報収集」の任務中なのだから。

 私は、カイトが好きそうな「エルダ」を再度演じ始めた。
 これは数日カイトを見張っていたギルド職員による分析の結果を再現している。
 そうすることでカイトとの距離を一気に縮めてしまおうという作戦だ。
 つまり、カイトの前にいる私は私ではなく、カイトのための私なのだ。
 
 カイトの好みの女性その1、「小動物的かわいさ」。

 私は泣き止むと、気合を入れなおしカイトの顔を一度見た。
 そしてすぐさま顔を伏せてうつむいて見せた。
 それを数回行うと、狙った通りの反応がカイトから返ってきた。

 そう、隣に気持ち悪いほど悶絶しているカイトがいるのだ。
 なんだかよく分からない声を上げつつも、身体が変な方向に捻じ曲がる。
 今までこんな動きをした人を私は見たことがなかった。

 そして、私はカイトの気を引くために【森のアナグマ亭】でのエピソードを話して聞かせた。
 それもだいぶ盛った話だったりするけど、カイトにはわからないから問題ないはず。

 ある程度話を聞かせていると、カイトの顔はみるみる悲しそうになっていった。

「これから先、絶対にエルダには笑顔でいてもらおう。」

 私は一瞬ドキッとしてしまった。
 カイトがあまりにも思いつめた顔で、この言葉を発したから。
 そう、プロポーズととられてもおかしくないから。
 私はこれにのることにした。
 そのほうがきっと彼の中に入りやすいと思ったから。

「カイト……。あなたは思ったことを口に出す癖……直した方がいいと思う……」

 私はうつむきながらカイトにそう告げると、カイトは慌てふためきながら顔を七変化させていた。

「え、えっと、その……。はい。エルダを悲しませると、メアリーさんに絶対殺されます。」
「たしかに……ね。」

 カイトが真面目に答えてくれた内容に、私は思わず笑みがこぼれてしまった。
 おそらく、メアリーさんがカイトを脅したんだと思うから。
 メアリーさんのやさしさが伝わってきたから。

 それからしばらくして、私たちは冒険者ギルドへと向かった。
 もちろん私は彼が好きそうな「エルダ」を演じたままで。
 カイトの服のすそをちょこんとつまみながら歩く。
 それだけで彼は照れたように顔をそむけてしまった。
 うん、うまく行ってるはず。

 さすがに冒険者ギルドの中までそんなことをするわけにはいかないから、通常の「エルダ」に戻ってギルドに入っていった。
 中に入るとなんだか様子が変だった。
 冒険者仲間とかもなんだかニヤニヤとしている感じだった。
 まさか……ね?
 そして、予感は的中してしまった。
 たまに一緒の依頼を受けるイライザが、ニヤニヤしながら私の元に来て耳打ちをしていった。

「よかったわね、エルダ。『これから先、絶対にエルダには笑顔でいてもらおう』なんて言ってもらえて。このままゴールインでもするの?」

 やってしまった。
 どういうわけか、ここに来るまでの一連の流れがギルド内に伝わっていたのだ。
 私は自分の失態に恥ずかしくなり、その場にうずくまってしまった。
 ”穴があったら入りたい!!”
 今までかつて、依頼でここまでの失態を演じてしまったことは無かったから。
 さらにイライザは、カイトにまで何かを話しかけていた。

「エルダを泣かせたら冒険者一同あんたを叩きのめすからね?覚悟しておくんだよ?」

 カイトはイライザの言葉に、強いまなざしでうなづきかえしていた。
 もうやめて。ひきかえせないじゃない。

 ほんと、この依頼を受けて後悔しかなかった……

 カイトはギルドの受付で鍵の受け渡しを行い、新居へと足を運んだ。
 ギルドを出るまでのみんなからの祝福は、私にとって拷問でしかなかった……



 新居についた私たちは、荷物の開封作業に追われていた。
 私は自室を確保し、カイトにスキル【クリーン】を全体にかけてもらった。
 備え付けの家具があらかたそろっていたので、買い足しはほとんど必要がなかった。
 ただ、収納スペースが大分狭かったので、私の服が入りきらなかった。
 さすがにただの木箱に入れっぱなしにしておけなくて困っていると、カイトがスキル【DIY】で収納箱(簡易)を作ってくれた。
 さらっと作ってくれたので、ただしまえたらいいかな?くらいにしか思っていなかった。
 でも、ギルマスの懸念が的中するとは思いもしなかった。
 その収納箱の性能が、あまりにも規格外過ぎてしまったから。
 箱の大きさ自体は、縦50cm横150cm高さ100cmくらいの大きな蓋つきの収納箱に見える。
 でも性能が……
 箱の入り口から入るサイズなら生物以外なんでも入れられる。
 しかも明らかに見た目の収納容量をオーバーしていても問題なく入る。
 カイトに聞いた限りだと、『10枠までなら何でも入るよ。1枠辺り1アイテムで、個数は20個まで。もっとすごい性能期待してたんだけどね。』といっていた。
 これは絶対に表に出してはいけないもの。
 私にでもわかる。
 国や商人に知られたら、戦略物資に位置づけられる代物だから。

 もう、私……ここでやっていける自信がなくなってきた……
しおりを挟む
本日 5/2(木)より新作掲載開始しました!!もしよろしければそちらも立ち寄っていただければ幸いです!!手加減必須のチートハンター ~神様の計算を超えて、魔王の手から世界を護ります!! https://www.alphapolis.co.jp/novel/911619238/145877156
感想 77

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。