勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

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第1章 ここから始まるDIY

十九日目② 旅立ち的な?役得的な?

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 微妙な距離感のまま、エルダと二人で住民街の一角にある宿屋へと向かった。
 移動中、ほとんど声をかけてもらえなかった……

「エルダ……えっと、今日はいい天気だね?引っ越し日和で何よりだ。」

 無理やり会話をしてみても、「えぇ、そうね。」「へぇ。」としか返ってこなかった……
 さすがにそろそろキレてもいいよね?

「ついたわ。中に入って。」

 エルダから声をかけられると、そこには『ザ・宿屋』って感じの宿屋が建っていた。
 【森のアナグマ亭】……
 それがこの宿の名前だ。

カランコロンカラン

 何とも言えない、ノスタルジックな音が響き渡る。
 エルダが扉を開けて中に入ると、一階は酒場兼食堂が設置されていた。
 酒場のカウンターが、宿屋の受付も兼ねているようだ。
 エルダがカウンターへ近づくと、奥から声が聞こえてきた。

「あ、おかえりエルダおねぇちゃん。ちゃんと合流できた?」

 出てきたのは10才前後の女の子だった。
 おそらくこの宿の子供なのか、エルダと仲良くおしゃべりをしていた。
 しばらく話し込んでいると、さらに奥からガタイの良いおっちゃんが姿を現した。

「お、エルダちゃん。男連れ込むたぁ~、隅におけないねぇ~。」
「ダニエルさん!!リリーちゃんの前で何を言ってるんですか?!」

 あのおっちゃんはダニエルっていうのか。
 そして、女の子はリリーって言うんだね。
 うん、覚えたよ。
 でもさ、そろそろ俺を放置するのやめてくれるかな?
 そろそろ悲しくなってきたよ?
 あまりの悲しさにウォーターバレットを待機状態にして、周囲をくるくるさせて遊んじゃったよ。

 無駄に器用なことをしていると、リリーちゃんが物珍しそうに魔法を見ている。
 いろいろ動かすと、目が魔法の動きを追っていた。
 あまりの面白さに、緩急付けて動かしてしまった。
 それを見ていたダニエルさんは感心していた。
 それを見ていたエルダはジト目をしていた。
 うん、俺は悪くない!!

「エルダちゃんよ、そろそろそいつを紹介してはくれないか?さすがにかわいそうになってきた。」
「あ、ごめんなさい。彼が昨日話していたカイト。ギルマスからの護衛依頼の対象者よ。」

 さすがにダニエルさんも見かねたのか、助け船を出してくれた。
 エルダも紹介し忘れていたことに気が付き、慌てて紹介してくれた。
 うん、忘れられていたのかと思って心配していたよ。
 はははっ。
 はぁ~。

 とりあえず、エルダの案内で宿の部屋へと移動した。
 内装も『ザ・宿屋』って感じで、いい雰囲気を出していた。
 俺が泊っていた宿舎に比べたら雲泥の差だった。
 エルダ曰く、ここは内装の割にリーズナブルだって。
 店主のダニエルさんが騎士団に居た為、冒険者との繋がりがあったそうだ。
 で、苦労している冒険者を助けたいという思いから低価格にしているらしい。
 やばい、ダニエルさん漢気半端ない。

「ついたわ。ここよ。」

 そうこうしているうちに、エルダの部屋の前に付いた。
 なんだろ、めっちゃ緊張する。
 エルダを見ると耳まで真っ赤だった。
 もしかして今まで機嫌悪かったのって恥ずかしかったからかな?って勝手に妄想してしまうではないか!!

 扉を開けるとそこは花園でした。
 はい、女の子の部屋に入るのは緊張します。
 そして、なぜだろうか……いい匂いがするんだよね。

 それはそうと、エルダに持ち出すものについて確認をした。
 すでに荷物はまとめてあり、部屋の中央に木箱など並んでいた。
 それらをすべてアイテムボックスにしまうと、部屋はだいぶすっきりした。
 エルダに聞くと、この部屋はもともと女性専用の部屋で、ほかにも何部屋かそういう部屋があるそうだ。
 男性が使った後はどうしても汚れが目立つそうで、専用部屋を備え付けたみたいだ。
 エルダに許可を取り、部屋全体にスキル【クリーン】をかけた。
 やはりさほど汚れてはいなかったみたいで、変化が見られなかった。
 俺がいた部屋は新居みたいになったのにな。

 部屋の片づけを終え、一階の酒場に戻るとトンプソン一家(宿屋の家族の名前)がお見送りに出てくれていた。
 中におっとりとしてきれいな女性がいた。
 どうやら、ダニエルさんの奥さんらしい。

「エルダちゃん、何かあったらここに駆け込むのよ?必ず助けるからね?」

 ちょっと待て、それは俺が野獣になるとかそんな感じなの?
 無いから。
 そんなことして仲悪くなって、同じ家にいるとかどんな拷問ですか。
 絶対ないから。

「メアリーさん、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ?カイトはヘタレですから。」

 何気に傷ついて四つん這いになってしまった。
 ダニエルさんがそっと手を肩に添えてくれたことが、余計に悲しさを増してくれた。

「ダニエルの妻のメアリーです。エルダちゃんはこんなだけど、よろしくお願いしますね。あと、何かあればその時は………ね?」

 こわっ!!まじこわッ!!絶対なにもないです。
 俺は背中に流れる大量の汗を感じた。
 モンスターと対峙したときだって感じたことのない感覚だった。

「だ、だいじょうぶですよ。あははははっ。まちがいなんかおこるわけないじゃないですか。」
「えぇ~?!エルダちゃんの魅力がわからないの?!なんて男なの!!」

 俺にどうせっちゅうねん!!

 とまぁ、こんな冗談を言い合いながら終始和やかなお別れとなった。
 3人は俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
 エルダも見えなくなるまで手を振り返していた。
 そして見えなくなると、涙が止まらなかったみたいだ。
 そっと背中をさすると、エルダが抱き着いてきた。

 エルダが泣き止むまで……このままでいてあげよう……




 でもねエルダさんや……
 ここ、住宅街のど真ん中の噴水前なんだぜ?
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