48 / 51
第2章
第48話 総領主グルーセシア
しおりを挟む
「グルーセシア様、少しお時間をよろしいでしょうか。」
「ソニア嬢。構いませんよ。」
俺たちはソニアに連れられてフロアの奥にあるグルーセシアのテーブルに来ていた。
丁度他の貴族との会談がひと段落したタイミングだったようで、グルーセシアも快く応じてくれた。
「ありがとうございます。それでは早速ですが、この者たちが今回私の護衛を受けてくださっております狩猟者の方々です。」
「そうでしたか。彼らが件の……。ソニア嬢を護ってくれて感謝する。彼女にもしもの事があれば国際問題に発展しかねなかったからね。」
そう言って頭を下げたグルーセシア。
思ってた印象と大分かけ離れていた。
もっと猛々しい人物を想像していたけど、どちらかと言えば文官の様な雰囲気を漂わせていた。
「いえ、これも依頼ですので。私は狩猟者のリクト。それとリルとリリーです。このような席にお招きいただき、感謝いたします。」
俺のお辞儀に合わせて二人も頭を下げる。
この辺はサラリーマンとして鍛えたスキルが役立っている……はずだ。
「私はこの総領を任されているグルーセシアと申します。せっかくの夜会ですので是非楽しんでください。」
大人の余裕的な笑みを浮かべるグルーセシアの視線は俺に向いてはいなかった。
終始リルに向けられていた。
リルもその視線に気が付いていたのか、ずっと不機嫌そうにしていた。
グルーセシアとの挨拶も終わり、立ち去ろうとした時だった。
グルーセシアはおもむろにリルに近づいてきた。
「そうそう、折から出られた感想を後で聞かせてはくれないか……フェンリルよ。」
小声でリルに呟くと、ニヤリと笑って見せた。
やっぱりこいつは気が付いていたらしい、リルがダンジョンボスのフェンリルだってことを。
正体を隠すつもりはあまりないが、公にされても後々面倒だと思っていた。
だがこうしてばれている事を考えると、今後もこういったことが起こりえるかもしれないな。
「ふん、おしめがやっと取れたばかりの小僧が偉そうに我を語るな。我を従えられるのは魔王様と主殿だけよ。」
いつもとは違いドスの利いた声のリルに一瞬驚いたものの、グルーセシアはやはり余裕の様子は崩れることは無かった。
リルもつまらなそうに鼻を鳴らし、その場を離れていった。
俺たちもその後を追うようにその場を後にしたのだった。
「リル……機嫌悪そうだな。」
「すまぬ主殿。少しばかり感情が表に出てしまった。」
いや普段から感情爆発させてないか?って突っ込みはしてはいけない空気だなこれ。
普段とは違う雰囲気にのリルにどう声をかけていいか戸惑っているソニア。
リリーは……いつも通りだな。
普通にテーブルの料理に舌鼓を打っていた。
「ソニア、すまない。この事は内密にしてほしい。リルが天狼族の銀色種だっていうのがばれるとめんどくさそうだからさ。」
「天狼ぞ……天狼族って、幻と言われる幻獣ですよ⁈リルが幻獣⁈」
俺のお願いに驚きを隠せないソニア。
一瞬大きな声を上げそうになるも、なんとか堪えて小声で話を続ける。
数人が集まってこそこそと話をしていればそりゃ注目を浴びるよね。
「我は隠すつもりはさらさらないが、リリーと話をしてそう決めたのだ。主殿にも迷惑はかけたくないからの。」
「そう、リルが……でも私の友達であることは変わりないわよね?」
そっちの心配なの?
ソニアって実は肝座ってる大物なのかもしれないな。
まあ、そうでなければこんな場所に来るはずもないか。
——————
なるほどな。
あの青年がダンジョンの踏破か。
「グルーセシア様。お時間です。」
「分かった。」
そのことは今は考えるのはよそう。
あとで時間を作ってじっくりと話を聞けばいいだけの事。
今はソニア嬢との会談について公表せねばなるまい。
「この度は私の呼びかけに応じてくださり、感謝の念が堪えない。こうして皆と顔を合わせる事が出来たこと、うれしく思う。」
私の声で会場が静まり返った。
此処に集まったのは私の寄子や、支援者たち。
まぁ、身内と言っても過言ではない者たちだ。
彼らの協力なくしてはこの荒廃寸前だった南の領地を立て直すことは難しかっただろう。
そしてようやく長い年月をかけてここまで回復して見せた。
経済も立て直し、奪われつくした技術もまた成長を見せている。
あと少し、あともうひと頑張りでこの領地は繁栄を迎える。
そんな折、もたらされた情報……
技術帝国【ガルテッツ】及び神聖国【ルミナリア】からの侵攻。
現在はまだ本格化されていないが、【ガルテッツァ】の皇帝が代替わりしたタイミングで、戦争に突入するのは明白だった。
そういった情報もあり、議会では戦争への対応について話し合いが本格化された。
もちろん戦争などしたところでこちらの旨味は全くない。
領土が増えたところで運営などまともにできるはずもない。
ならば戦争は回避するに限る。
だが、日頃からの鬱憤が溜まってきていた強硬派議員たちが、出兵論を振りかざしてきた。
たちまちそれが主流となり、戦争不可避となるところであった。
しかし、こうしてソニア嬢がこの地を訪れてくれた。
これによって不可避だった戦争が、回避可能に変わってきたのだ。
「皆も知っての通り、【ガルテッツァ】との戦争について……行わない方針である。」
もちろんここにいるのは戦争反対派のモノたちだ。
至る所から拍手が起こり、会場を包んでいる。
「そして私はここに宣言をする。私はソニア嬢の提案を受け入れ、同盟を結ぼうと思う!!」
「ソニア嬢。構いませんよ。」
俺たちはソニアに連れられてフロアの奥にあるグルーセシアのテーブルに来ていた。
丁度他の貴族との会談がひと段落したタイミングだったようで、グルーセシアも快く応じてくれた。
「ありがとうございます。それでは早速ですが、この者たちが今回私の護衛を受けてくださっております狩猟者の方々です。」
「そうでしたか。彼らが件の……。ソニア嬢を護ってくれて感謝する。彼女にもしもの事があれば国際問題に発展しかねなかったからね。」
そう言って頭を下げたグルーセシア。
思ってた印象と大分かけ離れていた。
もっと猛々しい人物を想像していたけど、どちらかと言えば文官の様な雰囲気を漂わせていた。
「いえ、これも依頼ですので。私は狩猟者のリクト。それとリルとリリーです。このような席にお招きいただき、感謝いたします。」
俺のお辞儀に合わせて二人も頭を下げる。
この辺はサラリーマンとして鍛えたスキルが役立っている……はずだ。
「私はこの総領を任されているグルーセシアと申します。せっかくの夜会ですので是非楽しんでください。」
大人の余裕的な笑みを浮かべるグルーセシアの視線は俺に向いてはいなかった。
終始リルに向けられていた。
リルもその視線に気が付いていたのか、ずっと不機嫌そうにしていた。
グルーセシアとの挨拶も終わり、立ち去ろうとした時だった。
グルーセシアはおもむろにリルに近づいてきた。
「そうそう、折から出られた感想を後で聞かせてはくれないか……フェンリルよ。」
小声でリルに呟くと、ニヤリと笑って見せた。
やっぱりこいつは気が付いていたらしい、リルがダンジョンボスのフェンリルだってことを。
正体を隠すつもりはあまりないが、公にされても後々面倒だと思っていた。
だがこうしてばれている事を考えると、今後もこういったことが起こりえるかもしれないな。
「ふん、おしめがやっと取れたばかりの小僧が偉そうに我を語るな。我を従えられるのは魔王様と主殿だけよ。」
いつもとは違いドスの利いた声のリルに一瞬驚いたものの、グルーセシアはやはり余裕の様子は崩れることは無かった。
リルもつまらなそうに鼻を鳴らし、その場を離れていった。
俺たちもその後を追うようにその場を後にしたのだった。
「リル……機嫌悪そうだな。」
「すまぬ主殿。少しばかり感情が表に出てしまった。」
いや普段から感情爆発させてないか?って突っ込みはしてはいけない空気だなこれ。
普段とは違う雰囲気にのリルにどう声をかけていいか戸惑っているソニア。
リリーは……いつも通りだな。
普通にテーブルの料理に舌鼓を打っていた。
「ソニア、すまない。この事は内密にしてほしい。リルが天狼族の銀色種だっていうのがばれるとめんどくさそうだからさ。」
「天狼ぞ……天狼族って、幻と言われる幻獣ですよ⁈リルが幻獣⁈」
俺のお願いに驚きを隠せないソニア。
一瞬大きな声を上げそうになるも、なんとか堪えて小声で話を続ける。
数人が集まってこそこそと話をしていればそりゃ注目を浴びるよね。
「我は隠すつもりはさらさらないが、リリーと話をしてそう決めたのだ。主殿にも迷惑はかけたくないからの。」
「そう、リルが……でも私の友達であることは変わりないわよね?」
そっちの心配なの?
ソニアって実は肝座ってる大物なのかもしれないな。
まあ、そうでなければこんな場所に来るはずもないか。
——————
なるほどな。
あの青年がダンジョンの踏破か。
「グルーセシア様。お時間です。」
「分かった。」
そのことは今は考えるのはよそう。
あとで時間を作ってじっくりと話を聞けばいいだけの事。
今はソニア嬢との会談について公表せねばなるまい。
「この度は私の呼びかけに応じてくださり、感謝の念が堪えない。こうして皆と顔を合わせる事が出来たこと、うれしく思う。」
私の声で会場が静まり返った。
此処に集まったのは私の寄子や、支援者たち。
まぁ、身内と言っても過言ではない者たちだ。
彼らの協力なくしてはこの荒廃寸前だった南の領地を立て直すことは難しかっただろう。
そしてようやく長い年月をかけてここまで回復して見せた。
経済も立て直し、奪われつくした技術もまた成長を見せている。
あと少し、あともうひと頑張りでこの領地は繁栄を迎える。
そんな折、もたらされた情報……
技術帝国【ガルテッツ】及び神聖国【ルミナリア】からの侵攻。
現在はまだ本格化されていないが、【ガルテッツァ】の皇帝が代替わりしたタイミングで、戦争に突入するのは明白だった。
そういった情報もあり、議会では戦争への対応について話し合いが本格化された。
もちろん戦争などしたところでこちらの旨味は全くない。
領土が増えたところで運営などまともにできるはずもない。
ならば戦争は回避するに限る。
だが、日頃からの鬱憤が溜まってきていた強硬派議員たちが、出兵論を振りかざしてきた。
たちまちそれが主流となり、戦争不可避となるところであった。
しかし、こうしてソニア嬢がこの地を訪れてくれた。
これによって不可避だった戦争が、回避可能に変わってきたのだ。
「皆も知っての通り、【ガルテッツァ】との戦争について……行わない方針である。」
もちろんここにいるのは戦争反対派のモノたちだ。
至る所から拍手が起こり、会場を包んでいる。
「そして私はここに宣言をする。私はソニア嬢の提案を受け入れ、同盟を結ぼうと思う!!」
85
お気に入りに追加
543
あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる