フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~

華音 楓

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第2章

第48話 総領主グルーセシア

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「グルーセシア様、少しお時間をよろしいでしょうか。」
「ソニア嬢。構いませんよ。」

 俺たちはソニアに連れられてフロアの奥にあるグルーセシアのテーブルに来ていた。
 丁度他の貴族との会談がひと段落したタイミングだったようで、グルーセシアも快く応じてくれた。

「ありがとうございます。それでは早速ですが、この者たちが今回私の護衛を受けてくださっております狩猟者ハンターの方々です。」
「そうでしたか。彼らが件の……。ソニア嬢を護ってくれて感謝する。彼女にもしもの事があれば国際問題に発展しかねなかったからね。」

 そう言って頭を下げたグルーセシア。
 思ってた印象と大分かけ離れていた。
 もっと猛々しい人物を想像していたけど、どちらかと言えば文官の様な雰囲気を漂わせていた。

「いえ、これも依頼ですので。私は狩猟者ハンターのリクト。それとリルとリリーです。このような席にお招きいただき、感謝いたします。」

 俺のお辞儀に合わせて二人も頭を下げる。
 この辺はサラリーマンとして鍛えたスキルが役立っている……はずだ。

「私はこの総領を任されているグルーセシアと申します。せっかくの夜会ですので是非楽しんでください。」

 大人の余裕的な笑みを浮かべるグルーセシアの視線は俺に向いてはいなかった。
 終始リルに向けられていた。
 リルもその視線に気が付いていたのか、ずっと不機嫌そうにしていた。

 グルーセシアとの挨拶も終わり、立ち去ろうとした時だった。
 グルーセシアはおもむろにリルに近づいてきた。

「そうそう、折から出られた感想を後で聞かせてはくれないか……フェンリルよ。」

 小声でリルに呟くと、ニヤリと笑って見せた。
 やっぱりこいつは気が付いていたらしい、リルがダンジョンボスのフェンリルだってことを。
 正体を隠すつもりはあまりないが、公にされても後々面倒だと思っていた。
 だがこうしてばれている事を考えると、今後もこういったことが起こりえるかもしれないな。

「ふん、おしめがやっと取れたばかりの小僧が偉そうに我を語るな。我を従えられるのは魔王様と主殿だけよ。」

 いつもとは違いドスの利いた声のリルに一瞬驚いたものの、グルーセシアはやはり余裕の様子は崩れることは無かった。
 リルもつまらなそうに鼻を鳴らし、その場を離れていった。
 俺たちもその後を追うようにその場を後にしたのだった。


「リル……機嫌悪そうだな。」
「すまぬ主殿。少しばかり感情が表に出てしまった。」

 いや普段から感情爆発させてないか?って突っ込みはしてはいけない空気だなこれ。
 普段とは違う雰囲気にのリルにどう声をかけていいか戸惑っているソニア。
 リリーは……いつも通りだな。
 普通にテーブルの料理に舌鼓を打っていた。

「ソニア、すまない。この事は内密にしてほしい。リルが天狼族の銀色種だっていうのがばれるとめんどくさそうだからさ。」
「天狼ぞ……天狼族って、幻と言われる幻獣ですよ⁈リルが幻獣⁈」

 俺のお願いに驚きを隠せないソニア。
 一瞬大きな声を上げそうになるも、なんとか堪えて小声で話を続ける。
 数人が集まってこそこそと話をしていればそりゃ注目を浴びるよね。
 
「我は隠すつもりはさらさらないが、リリーと話をしてそう決めたのだ。主殿にも迷惑はかけたくないからの。」
「そう、リルが……でも私の友達であることは変わりないわよね?」

 そっちの心配なの?
 ソニアって実は肝座ってる大物なのかもしれないな。
 まあ、そうでなければこんな場所に来るはずもないか。



——————

 なるほどな。
 あの青年がダンジョンの踏破か。

「グルーセシア様。お時間です。」
「分かった。」

 そのことは今は考えるのはよそう。
 あとで時間を作ってじっくりと話を聞けばいいだけの事。
 今はソニア嬢との会談について公表せねばなるまい。

「この度は私の呼びかけに応じてくださり、感謝の念が堪えない。こうして皆と顔を合わせる事が出来たこと、うれしく思う。」

 私の声で会場が静まり返った。
 此処に集まったのは私の寄子や、支援者たち。
 まぁ、身内と言っても過言ではない者たちだ。
 彼らの協力なくしてはこの荒廃寸前だった南の領地を立て直すことは難しかっただろう。
 そしてようやく長い年月をかけてここまで回復して見せた。
 経済も立て直し、奪われつくした技術もまた成長を見せている。
 あと少し、あともうひと頑張りでこの領地は繁栄を迎える。

 そんな折、もたらされた情報……
 技術帝国【ガルテッツ】及び神聖国【ルミナリア】からの侵攻。
 現在はまだ本格化されていないが、【ガルテッツァ】の皇帝が代替わりしたタイミングで、戦争に突入するのは明白だった。
 そういった情報もあり、議会では戦争への対応について話し合いが本格化された。
 もちろん戦争などしたところでこちらの旨味は全くない。
 領土が増えたところで運営などまともにできるはずもない。
 ならば戦争は回避するに限る。
 だが、日頃からの鬱憤が溜まってきていた強硬派議員たちが、出兵論を振りかざしてきた。
 たちまちそれが主流となり、戦争不可避となるところであった。

 しかし、こうしてソニア嬢がこの地を訪れてくれた。
 これによって不可避だった戦争が、回避可能に変わってきたのだ。

「皆も知っての通り、【ガルテッツァ】との戦争について……行わない方針である。」

 もちろんここにいるのは戦争反対派のモノたちだ。
 至る所から拍手が起こり、会場を包んでいる。

「そして私はここに宣言をする。私はソニア嬢の提案を受け入れ、同盟を結ぼうと思う!!」
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