フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~

華音 楓

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第2章

第44話 アブラカタマリダ

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「なぁリリー。堪忍袋ってどのくらいの強度があると思う?」
「ねぇ、堪忍袋って何?とりあえず、我慢が限界の子がいるんだけどどうする?」

 そりゃ堪忍袋って日本の言葉だから分からないか。
 その前にリルがそろそろヤバいな。
 うつむいて震えているから、怖がってるって絶対あの油塊グリッドは思ってるんだろうな。
 ずっとニタニタ笑ってやがるから。
 にしても不快感が半端ないなあいつ。
 よくあの騎士は頭をへこへこさせて居られるな。
 まあ、同じ穴の狢ってことなんだろうな。

「では、私の可愛い可愛い奴隷を連れて帰るとしようか。ほれ、こっちにこい!!」

 油塊は俺を押しのけてリルの手をつかもうとした……が、ここで問題が発生してしまった。
 そう、俺の〝丈夫な身体〟が発動!!
 俺を押しのけようとした途端、その力がそのまま油塊に返っていった。

 突然襲い掛かってきた力に驚いてしりもちをついた油塊。
 俺が押し倒したのだと思って何か喚き始めたけど、誰がどう見ても自分からぶつかってきてそのまま倒れた状況だ。
 野次馬たちもこそこそと笑い声をあげている。
 マルクスも頭を抱えてため息をつくばかり。
 俺にどうしろって話だろこれ?

「おいお前!!よくも私を押し倒したな!!おいラグウェル!!さっさとこいつを連れていけ!!」
「分かりました。私が対処いたしましょう。ではお前詰め所まで来い!!」

 この馬鹿も油塊と同じ頭をしているんだろうか……
 俺を取り押さえようと俺の方に手をかけて引き倒しにかかった。
 つまりそのまま自分に力が返っていく状態だ。
 何が言いたいかと言うと……派手に吹っ飛んでいった。
 そりゃ下に押し倒そうと力をかけたんだから、反発は上に向かって働くよねって話だ。
 周りから見たら、俺の方に手を置いて自分からジャンプしたようにしか見えないだろうな。
 何だろうな、怒る気すらうせてしまったな。

「な、な、何をするんだ!!騎士である私に手を上げるとは!!何をしているのだ!!奴を捕縛しろ!!」

 ラグウェルは目を血走らせながら、叫び出したな。
 もうつばなんか飛ばしちゃって……あ、ずれた……
 騎士の人たちが一瞬にして目をそらしたぞ……
 公然の秘密ってやつなんだろうな。

 だけど一般市民はそうはいかないよな。
 皆の視線がラグウェルの頭部へ向かう。
 そう、まばゆいばかりの頭部へ。

「な、何を見ているんだ⁈」
「あんたな……そろそろ自分がどれだけ滑稽か考えた方が良いぞ?」

 俺は別に怖いと思ってないから、そのまま言葉をかけてしまった。
 むしろ二人そろってかわいそうとまで思ってしまった。
 わなわなと震える二人をよそに、マルクスは深いため息をついていた。
 中間管理職も大変だな。

「ラグウェル補佐官。先ほども申しました通り、この少女は奴隷ではありません。探索許可証ライセンスカードを発行されており、奴隷契約書の日付より前に登録を行っております。つまりこの契約書そのものが偽造されたもの、もしくは虚偽発行されてモノとなります。」
「わ、私を陥れるつもりかマルクス!!」

 もうこの阿呆につける薬は無いんだろうな。
 これ以上付きまとわれても面倒だし、ここでこいつらを始末した方が楽なんじゃなかろうか。

 そう思っていた時だった、2度あることは3度あるってな状況だろうか。
 面倒ごとがネギ背負ってやってきやがった。
 大通りを馬車がゆっくりと事らに向かってやってくる。
 その豪華な造りから、それなりに高い身分が乗車していることは容易に想像できてしまう。

「リクトさん、これはどういうことですか?」
「ソニア……特に問題はない。今片付いたところだから。」

 馬車に乗って現れたのはソニアだった。
 途中から俺たちがいることは気付いていたらしく、助け舟を出しに来たようだった。

「ソニア様、あまり窓から顔を出さないでください。警備に支障が出ます。」
「申し訳ありません。私の護衛を務めてくださっている狩猟者ハンターの方々がおりましたので、ご挨拶をと。」

 ソニアに声をかけたのは、いつものメイドではなく、眼鏡姿が似合う美麗な女性だった。
 短くそろえられた髪が印象的だった。

「そうでしたか、大変失礼いたしました。ですがやはりあまり関心は出来ません。それでラグウェル補佐官、何があったのです?」

 ラグウェルはこれ幸いと、あることない事をソニアに向かって話始めた。
 そして俺を奴隷を奪ったものとして、ルリを違法奴隷として報告したのだ。
 マルクスは開いた口が塞がらないようで、もう魂が抜けかけている様子だった。
 それにしてもこいつは救いようがないバカだな……

「そうでしたか……ソニア様、どういうことでしょうか。返答次第では国家間の問題になりかねませんが?」
「違法奴隷ですか……そんなはずはありませんよ?ルリさんは私とお友達ですもの。それを違法奴隷とするのであれば、私もリクトさんと同罪……と言って罰せようとしていると判断できますが?」

 ラグウェルはソニアの言葉を聞いて、顔面蒼白にさせていた。
 口をパクパクと動かし、呼吸を整えようと必死だった。
 ソニアの言葉ですべてを理解した女性はラグウェルを睨みつけた。
 それだけでびくりと身体を跳ねさせて、ラグウェルは意識を手放すように崩れ落ちた。

 それにしてもこの女性……いったい何者なんだ?
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