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第2章

第42話 違法奴隷と奴隷契約書

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「さて、これはどうしたらいいんだ?」

 今俺の目の前に広がる光景……
 大のおっさんたちがブルブル震えて、腰を抜かしている。
 辛うじて少し離れた場所で立っている人もいるけど、戦意は喪失してそうだな。

「リル……少し抑えようか。」
「うむ、なんじゃつまらんの……この小童共めが!!」

 最後の一仕事とばかりに強烈な殺気を放つリル。
 それにあてられたのか、最後の一人もその場で気を失ってしまった。
 とりあえず最後までたっていたやつとその周辺の奴だけ起こせばいいかな?

 というわけで、俺たちはその数名を縛り上げて衛兵の詰め所へと連行することにした。
 それ以外の奴は……まあ放置で良いだろう。
 そのうち目を覚ますはずだし、その間に報復されても自業自得ってところだろうな。


「それで、これはどういうことなんでしょう?」
「襲われかけたから拘束してここに連れてきたまでですよ。」

 衛兵のおっさんが何やら紙に記載していくが、すぐにその手が止まった。
 何かと思ったら、ものすごく睨まれたのは気のせいか?

「そこの一人は……闇ギルドの1つの幹部だ……」
「また面倒なの拾っちゃったな。」

 その言葉でまあ衛兵のおっさんが頭を抱えていた。
 同席している衛兵も何やら苦笑いを浮かべていることから、ちょっとどころかものすごく面倒な相手だったんだろうか。
 まあそれは俺があずかり知らないことだから気にしないでおこう。

「まずは協力感謝する。後日報奨金も支払われるだろうか、3日後にまたここに来てくれ。」
「了解。」

 俺は衛兵に頭を下げて詰め所を後にする。
 外ではリルとリリーが何やら話し合いをしていた。
 良からぬことを考えてなきゃいいんだけど。

「主殿、遅かったではないか。」
「待ちくたびれちゃったわよ。」

 いや、どう見ても二人とも待ちくたびれた感が無いんだが。
 むしろ計画を練って、下衆な笑い声が聞こえてくるんじゃないかと思ったほどだ。
 いやな予感が拭えない……

「そう言えば主殿……我はもう少し着飾った方がよいのではないか?」
「いや、リルって服装そんなに興味ないでしょ?むしろ動きにくい服は嫌だっていつも言ってるでしょうに?リリー、リルにまた変な事吹き込んだろ?晩飯のデザート取り上げるぞ?」
 
 リリーはなぜかそっぽを向いて口笛を吹き始めた。
 だが、全く音が出ていなくて、ふゅーふゅー言っている。
 どこでそんなベターなものを覚えたのやら。
 
「だってさぁ~さっきのだってあまりにも期待外れでしょ?だったらもっと楽しいことしたいじゃん?」
「したいじゃん?じゃないからな?俺たちはあくまでもソニアの護衛なんだぞ?しかもまだその途中。変に目だったら護衛どころじゃなくなるだろ?」

 不承不承な二人に思わずため息が出そうになった。
 どうしてこの二人は戦闘狂なんだろうか……
 脳みそが筋肉でできていても俺は驚かないぞ……
 
 俺の心配をよそに事態はまだ収束していなかった。
 まさかあるとは俺だって予想してなかったよ……



「そこの青年、少し待ってもらえるか?」

 飲食街の露店で3人で買い食いをしていたころ、騎士っぽい男性6人組に囲まれてしまった。
 まあ、何か来てるのは3人ともわかっていたけど、敵対心が感じられなかったから放置していたのもまた事実。
 いったい何の用なんだか。

「俺の事であってるか?」
「えぇ、そうです。あなたにお聞きしたい事がありますので、しばし時間を頂けますか?」

 リーダー格っぽい騎士が俺に頭を下げてきた。
 おそらく年齢は20代後半から30代前半。
 見た目的に優男って言葉が似合いそうではあった。
 金色短髪のおかげか清潔感漂う印象だった。

 俺はリルとリリーに目配せすると、二人は頷き返してくれたので問題ないようだ。

「分かりました。で、お話とは?」
「はい、あなたに違法奴隷の嫌疑がかかっております。そこのお嬢さんの本来の所有者だという方がおりまして、その訴えを基にこうしてやってきました。」

 違法奴隷って……リルが奴隷なわきゃなんだが。
 いったいどこの馬鹿がそんなこと言ってるんだ?
 そもそもこの国で獣人を奴隷にするリスクの方がでかすぎるだろうに。
 まあ、犯罪者奴隷ならあり得るのだろうけど、リルみたいな子が犯罪者って言うのも無理ないか?

「ほう、我を奴隷というのか?」

 一気にリルの怒気が当たりにまき散らされる。
 さすがは騎士団だけあってその怒気に耐えていたけど、商店街にいる人たちはたまったもんじゃないだろうな。
 さっきまで可愛らしかった少女が、一瞬にして獰猛な野獣に見えるんだから。

「はいはい、リル。少し落ち着こうか?周りのみんながびっくりしてるからな?」
「主殿、すまない……あまりにもそ奴が不敬過ぎたのでな。」

 じろりと睨み付けるリルに、一瞬たじろぐ騎士たち。
 まあ、そりゃフェンリルの一睨みにたじろがない人がいたら、それはそれで素晴らしい胆力だって話だ。
 とりあえずリルは落ち着いたみたいでよかった。

「それから、えっと……騎士の方、リルを奴隷扱いするのやめてもらえますか?大事な俺の仲間なんで。」
「どういうことでしょうか。こちらには奴隷契約書の控えを頂いているのですが?」

 奴隷契約書ってなんだ?
 
「奴隷契約書って言うのは、奴隷商が発行している権利書よ。奴隷と言っても雇用主と労働者っていう関係性は崩れないの。だから奴隷にもきちんと人権はあるし、それを護らないと雇用主も罰せられるのが世界的共通認識よ。まあ、あくまでも表ではッて話だけど。」

 なるほどね、それがあるからリルは奴隷だって言い張っているわけだ。
 何処の誰がそんな真似しくさったんだ。
 
 俺は騎士から奴隷契約書の控えを見せてもらった。
 騎士たちも俺を疑っていないのか、素直に見せてくれるんで拍子抜けしてしまった。
 普通だったら見せてもらえないんじゃないのかって思ってたけど、行ってみるもんだな。
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