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第2章

第32話 死してなお

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 あれからリリーと話し合い、本格的に〝呪いの魔王〟復活阻止に動き始めることにした。
 ただそれにはまずこの依頼をこなして、ある程度自由に動けるようにならなくてはいけない。
 その為にもこの依頼を成功させなければ!!って思った矢先、面倒ごとはいついかなる時もやってくるようだ。


「おう!!立派な馬車だなぁ!!それに後ろの商隊は……あぁコバンザメか。こいつはいい!!」
「何者だ!!」

 コーウェンさんの誰何に、ニヤリと笑うフードの集団。
 そのフード付きのコートは裾が綻び、至る所がボロボロになっている。
 此処から見ても普通の村人ってわけではないな。

 俺はリリーとリルに目配せをして待機を指示。
 思ったのと違ったのか、リルの口元がとがっていた。

「別に名乗るほどのもんじゃねぇ~よ。それに名乗ったところで死んじまう奴らには関係ねぇ~だろ!!」

 先頭で俺たちの車列を止めたやつが手を振り上げると、陰に隠れていたであろうフードの者たちが姿を現した。
 その数……100近いな。
 なかなかの大所帯だけど、俺たちの敵ではないことは間違いなかった。
 何せここに来るまでにその配置や規模は把握済みだ。
 正直駄々洩れの殺気などは容易に把握できる。
 
 さすがにこの数はコーウェンさんたちだけだと対処は出来そうにないな。
 それに問題は商人たちだ。
 護衛を付けている奴らもいたが、付けていない商隊もあった。
 ああいった輩は無視しても良いんだけど、絶対にソニアたちが見捨てたや囮にしたって噂が広がる。
 おそらくそれも加味してこうして仕掛けてきたんだろうな。
 しかもちまちまと投入しても潰されるから、数で押してきた。
 それに人質もとられて焦っているのかもしれない。

 さてどう動くのが最適解だろうか。

「主殿……我が商人側の防衛を受け持とう。リリーよ支援魔法を頼む!!」
「任された!!」

 そう言うと俺の了承もとらずに、二人とも行動に移した。
 いくつもの支援魔法がリルを包んでいく。
 正直此処までしなくてもって思うけど、どうやら暴れたりないのが暴走しかけているようで、二人とも目がギラギラしていた。

 フードの男が手を振りかざすと、一斉に野盗が動き出す。
 さすがに100人近い人数が来るわけではなく、戦略を立てて動いている、そういった印象を受けた。
 にやにやとした口元が不気味さを醸し出し、商隊を含む車列の包囲を徐々に狭める。
 さすがにこれだったら先に潰しておいた方が楽だったなと後悔した。

 リルは一気に商人側のフォローにいたけど、さすがに数が数だし、そっちに被害が出るかもしれないな。
 何せ統制が取れ過ぎてるから。
 さすがのリルも苦戦はするかもしれない。

 と思った俺が馬鹿だった。
 支援魔法盛りまくったリルが苦戦する方がおかしいのか?

 あちらこちらで血の雨が降ってる。
 人って殴られるとあんなに吹っ飛ぶんだな。
 少し離れている俺からでも真っ赤な打ち上げ花火がよく見える。
 うん、ソニアもドン引きしている……

 さて、コーウェンさんたちの方は……こっちも大丈夫そうだな。
 ちゃんと殺さないように手加減はしているみたいだ。
 
 それにこっちにも一人……二人……うん、気配を隠しているけど5人ほど向かってきている。
 うまくこの戦闘の殺気に紛れているみたいだ。

「それ以上動くな。」

 俺は馬車の屋根に上り、剣を一振りする。
 全力で〝手加減〟して現在出力は0.05%。
 そのひと振りですら、地面に斬撃が飛んでいき深い傷跡を付けた。
 
「なぜ気付いた!!〝陰形〟は完璧なはず!!」
「くそ!!探知能力が高い奴が護衛に紛れていたか!!」

 もう完全に隠す気ないよね。
 どう考えても野盗がそんな攻め方しないでしょ?
 むしろ高レベルの隠蔽だったり気配遮断が使えるんだったら、野盗なんてやってないで仕官しろって話だしな。

「御託はいいからそのままそこを動くな。一歩でも動けば……」

 俺はさらに剣を振り払う。
 狙った先はその襲撃者たちのいる方……
 だってさらに先に数名の遠距離武器を構えている奴がいたから。
 そいつに向かって斬撃を放つと、隠れていた木ごと薙ぎ払う。
 あ、やり過ぎた……
 木が数本倒れて、血が吹き上がってる。
 胴体が泣き別れしちゃったか……南無。

「くそ!」
「どうする……」

 迷ってる暇があれば投降してくれると助かるんだけどな。
 さすがに俺は虫が良過ぎるか。
 
「投降するか否か……あと10秒待ってやる。すぐに答えろ……10……9……」
「ま、待ってくれ……投降する!!」

 早いな……もっと粘れよ……そしたら「なかなか肝が据わっているな……」とか「それが忠誠心というものか……」とか言えたのに。

 とりあえず無抵抗な5人を縄で縛り上げ、護衛騎士に見張りを任せた。
 一応武器の所持とかないことは確認済みだ。
 さすがにインベントリやアイテムボックスみたいなスキルを持ってたらどうにもできないが。
 さて、状況はどうなったかな。
 
「リリー、コーウェンさんたちはどうなった?」
「問題なく殲滅してるわよ。ただ気になるのよねぇ~。」

 リリーが何かに気付いたらしく、少しだけ難しそうな顔をしていた。
 その視線はリーダーらしき男に向かっている。
 あのフードの男の余裕がどうも崩れない。
 少し遠くて見づらいけど、やはりその口元はニヤリと笑っている。
 何か隠し玉でもあるのか?

 するとコーウェンさんたちから困惑の声が上がる。

「なるほど……そう来たか……この屑ども!!」

 リリーの声のトーンが一気に下がっていく。
 それもそのはず、コーウェンさんたちが切り倒した野盗たちが、むくりと身体を起こす。
 ただその身体には力が入っておらず、頭も腕もだらりとぶら下がっている。
 そして何より、その身体に生気が感じられなかった。
 切られた身体からは血が流れだし、普通だったら死んでてもおかしくない傷だ。

「リリー、もしかして……」
「もしかももしか、死霊術を使いおった!!」

 忌々し気にその男を睨みつけるリリー。
 自分の世界の住人の魂を冒涜されたのだから怒りが沸いても当たり前か。

「あれを止めるには?」
「術師を殺すか、魔導具を破壊するか……だが、あの者には術を発動させてる気配が無い……となれば……死霊術の中でも最も忌まわしき魔法……〝呪術〟。」

 おっとここにきて新しいワードが出てきたな。
 死霊術に呪術か。
 死霊術は恐らく死体をアンデット化させる術だろうけど、呪術は分からないな。
 恐らく呪いの類だけど、それが何でこうやって動き出すのかが分からない。
 生きている最中に発動するならまだ分からなくないんだけど……

「主殿!!これはどうなっているのだ!?」

 リルからも困惑の叫びが聞こえてきた……
 これは本格的にヤバそうだな。
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