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第2章

第29話 襲撃者

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「早速ってところだな……」
「主殿、我が片付けようか?」

 姫様たちと街道を西に進路を取っていた。
 周囲が森に囲まれているためか視界が悪く、騎士たちも異変に気が付く様子がなかった。
 リルはさすがというべきか、隠しているであろう殺気に反応していた。
 リリーは言わずもがな、ある意味傍観を決めていた。
 助けが必要ならするっていうスタンスらしい。
 まあ、一応神様だしね。

「頼む。いちいちこっちに来られても邪魔だしな。」

 リルは承知したとばかりに姿を消した。
 音もなく消えたことにより、誰も気が付くことはなかった。
 さて、今回の襲撃者はどうなる事やら。


——— 

「ぐわぁ!?」
「な、何者だ!!」

 おかしい……第2王女の車列とはかなり開けている……気取られるはずなどない。
 だがこうして我々は襲撃を受けているは事実だ。

「総員戦闘態勢!!何者かの襲撃だ!!返り討ちにしろ!!」

 くそっ!!いくら距離を開けているとはいえ、激しい攻撃音を出してしまえばこちらの位置情報がばれてしまう。
 よりにもよってこのタイミングで仕掛けてくるとは……いったい誰が?

「た、隊長!!」
「慌てるな!!回復職を中心に円陣を組め!!回復職がいれば立て直せる!!」

 仲間が次々にやられていく中で、部下たちに指示を飛ばす。
 辛うじて声が届いたのか、部下たちは指示に従い円陣を構築する。
 とはいえここは鬱蒼と生い茂った森の中。
 それほど広いスペースがあるわけでもなく、円陣の効力をどこまで発揮できるかは未知数だ。
 相手が複数人であればさすがに心もとないな。

「ほう?我に盾突くか……ならば我と遊ぼうぞ。」

 目の前に現れたのは、銀髪が目に付く少女だった。
 その手にはガントレットを装着し、それ自体が血で染め上げられていた。
 どうやら彼女が仲間たちを葬り去ったようだ。
 その見た目からは想像がつかない程、その目は狂気に満ちているように見えた。

「か、あ、く……」

 くそ……声が出ない……
 その狂気にあてられたせいか、声がまともに出ない。
 視線で周囲を確認すると、部下たちも同様だ。
 
「何者だ!!」

 震える声をどうにか押し殺し、辛うじて出た言葉は誰何……
 
「我か?我は主殿の忠実なる僕……汝らは主殿の敵であろう?ならばここで朽ちるが定めよ……」

 ニヤリと少女が笑うと、そこに姿はなくなっていた。
 周囲を探るもその姿を捉えることは出来ず、外周に配置した盾持ちたちが次々と潰されていく。
 文字通り、つぶれていく。
 頭、腕、胴体、足……部位はお構いなしに、見るも無残な姿にされていった。
 此処にいるのは王国の精鋭部隊だぞ⁈
 なんでこうもやすやすと消されねばならんのだ!?

「ええい、魔法部隊。周囲に低出力の魔法をまんべんなくバラまけ!!奴を炙り出すぞ!!」
「遅い!!」

 その次の瞬間、中央部に配置していた回復職・魔法攻撃職が一瞬にして潰されていた。
 その身体には無数のへこみが出来ており、おおよそ人間が出来る芸当ではなかった。
 どうやら我々は触れてはいけないものに触れてしまったようだ。
 だがここまで来て後戻りはできない……
 散っていった仲間たちの分も生き残らねば……

「さて、残るは……5人か……つまらんの。」

 此処までの惨事を引き起こしておいて全く関心がないと言わんばかりの少女。
 だが私は不覚にもそれを美しいと思ってしまった。

 全身に浴びた返り血と、元からの銀髪。
 さらにその見目美しい姿が相まって、神々しささえ感じてしまった。

 そう、この時私の心は完全に折れてしまっていた。
 きっと彼女は神が遣わした戦女神なのだと……


——————
 
「おかえりリル……って返り血がすごいな。」
「ただいま戻ったぞ主殿。リリー、きれいにしてはもらえぬか?」

 俺たちが街道沿いの空き地で休憩を取っているころ、満足そうな笑みを浮かべながらリルが返ってきた。
 俺の指摘で全身が血まみれになっていることにやっと気が付いたのか、キョロキョロと全身を確認するリル。
 リリーも仕方がないと呆れ顔だが、これもダンジョンに潜ればいつもの事なので魔法を発動させてリルの返り血を落としていく。

「うむ、さっぱりした。リリーよ助かったぞ。」

 返り血がきれいさっぱりなくなったことであたりに漂っていた鉄錆臭はだいぶ軽減されていく。
 それにしてもこれだけの返り血だったんだから、それなりの人数がいたってことだろうか。

「で、森の中はどうだった?」
「主殿報告がある。森には襲撃者が20人前後潜んでおったぞ。なかなか有意義な時間となった。」

 20人か……なかなかの多さだな。
 それだけ相手も本気だってことか。
 それにしてもよっぽどソニアを後継者にしたくないやつがいるんだな。
 人族の権力争いは人族の中で終わらせてほしいものだ。

「もちろん消してきたんでしょ?」
「我を誰だと思っている?」

 リリーはあまり興味がないのか、さらりと流そうとしていた。
 リルも同様で戦いの余韻はあるものの、ふんと鼻で笑った程度だった。

「いやその前に背後関係を探るためにも、一人二人は残さないと……」
「うっ……」

 リルはさっきまでの堂々とした態度から一変、しおしおと小さくなってていく。
 まあ、恐らくこれからも何回かあるだろうから、今度はちゃんと捕獲してくれると願いたいね。
 
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