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第2章

第27話 護衛依頼

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 人族の襲撃から少し過ぎたころ、俺たちにまた思いもよらない出来事が発生した。


コンコンコン

「リクトさん、お目覚めですか?来客ですよ。」

 この宿屋【朝霧の雫】の受付をしているセリカさんの声で目が覚めた。
 ぬぼっとした頭を振って眠気を飛ばしながら、のそのそとベッドから身体を起こした。
 リルとリリーも同じように寝ぼけ眼でいまだベッドの上でごろごろしている。

「おはようございますセリカさん。で、来客って?」
「えっと……その……」

 セリカさんがなぜか言い淀んでいるが、何か言い辛い相手なんだろうか?
 うつむいたまま耳を真っ赤にしていたので、なんだろうと不思議に思っていたら、リリーがふらふらと飛んできて俺の肩に留まった。

「陸人……ドアを開ける前に服着なさいよ。」

 あ、ヤバイ……シャツを着るの忘れてた。
 昨日の夜があまりにも寝苦しくて脱いだんだった。
 俺は慌てて扉を閉めると、脱ぎ捨てていたシャツを羽織り、改めて扉を開ける。

「えっと、お見苦しい姿を見せてすみません。」
「い、いえ……お見苦しなんてそんな……か、カッコかったですよ?」

 そう言うと、自分が何を言ったのか思い出してまた赤面してしまったセリカさん。
 今の俺が20歳くらいまで若返っているが、セリカさんは今年で21歳なんだとか。
 父親でこの宿の店主ガブリエルさんが、嫁の貰い手がいないと日々俺に愚痴をおぼしていた。
 その都度、嫁の貰い手いねぇかな~って言いつつ俺を見るのをやめてほしいものだ。
 セリカさんは金色の腰まである長い髪をポニーテールで結っており、スタイルも抜群に良い。
 これで男性の影がないって言うんだからいまいちよく分からないな。
 ただ特徴的なのはその耳だ。
 リルもそうだが、人狼族らしく頭部からぴょこんと顔を出した獣耳がまた可愛かったりする。

 この宿に泊まる最初の頃、リルの正体を速攻で見破ったのもセリカさんだった。
 すぐにリルがフェンリルの変身体であることに気が付き、首を垂れた。
 それで父親のガブリエルさんや、母親のルーシアさんが一緒になって首を垂れるってカオスな状況になってしまった。

 その縁もあり、俺はこうしてここを定宿として利用しているわけだ。

「あの、それで俺に来客って……」
「そ、そうでした!!今下にリクトさんに領主様の使いの者だという人が来てるんです。」

 領主様……ね。
 おそらく人族がらみだとは思うけど、あまり関わりたくないのが本音だな。
 ただここでごねてもこの宿に迷惑がかかるから、致し方ないな。

「分かりました。準備ができ次第下に行きますね。リル、リリーすぐに支度をしてくれ。」

 リリーは俺の肩らか飛び去ると、すぐにリルの支度を手伝い始めた。
 どうもリルは朝が弱いらしく、ぐずぐずと始めてしまう。
 それもあってリリーがこうして甲斐甲斐しく世話をしているというわけだ。


「やっぱりあなたでしたか。」
「その節は世話になった。」
 
 そこに居たのは大方の予想通り、姫様の護衛騎士だった人狼族の男性だった。
 今は軽装で鎧の下で見えなかった鍛え上げられた肉体美があらわとなっている。

「姫様は元気で?」
「あぁ、無事領主様の下へたどり着いた。貴殿には感謝しかない。」

 そう言うと男性は深々と頭を下げて、感謝の意を示した。

「頭を上げてください。あれはただ通りかかっただけですから。それに見捨てたら後味が悪すぎるので助太刀しただけです。」
「それでも感謝を伝えねば姫様から私が叱責されてしまうのでな。」

 そう言って苦笑いを浮かべる男性。
 そいえば名前聞いてなかったな。

「それにしても俺が此処にいるのよくわかりましたね。」
狩猟者連合協同組合ハンターギルドで人族の狩猟者ハンターの情報を確認したところ、ここを定宿にしているという噂を聞いてな。それでこうしてここに来たというわけだ。」

 個人情報駄々洩れだな。
 まあ、この世界で個人情報保護法がある方がおかしいのか。

「じゃあ、改めまして狩猟者ハンターのリクトです。」
「私は技術帝国【ガルテッツァ】第3王女ソニア・ド・ガルテッツァ様の近衛騎士対隊長のコーウェンだ。」
 
 俺たちは握手を交わすと、宿屋に併設されている食堂で話し合いを始める。
 まぁ話す内容なんて決まっている。
 どうしてコーウェンさんがここに来たかってことだ。
 さすがにお礼だけってわけがないのは俺だってわかる。

「それで本題なのだが、リクト殿の腕を見込んで頼みたい。姫様の護衛を引き受けてはもらえないだろうか。」

 やっぱりそうなったか。
 予感めいたものはあったが、本当にそうなるとはな。

「護衛ですか……目的と期間を教えてもらえますか?さすがに狩猟者ハンターとはいえ万能ではありませんし。出来る事と出来ないことをしっかりと確認しておかないと、双方危険にさらされますからね。」

 俺の質問に若干言い淀むコーウェンさん。
 さすがに旅行のお供ってわけがない。

「これは他言無用願いたいのだが……」

 コーウェンさんは周囲を伺うようにし、小声でこれからの事を話してくれた。

「実は現在第1王子と姫様が後継者争いの真っただ中でして……軍部を支持基盤としている第1王子は元魔王国領を手中に入れることでその地位を万全にしたい。姫様はその逆で友好関係を築きたく、こうして諸侯を回っておるのです。」
「権力争いですか……貴族は面倒ですね。」

 本当、下々の事なんて全く考えていないことが透けて見える。
 その辺姫様はまだましってわけか……
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