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第2章

第25話 人族と傲慢

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「で?」
「貴様どうやって……」

 いやだから駄目でしょうって……
 焦り過ぎて懐にしまったナイフ取り出したら、もう誤魔化しようがないじゃないか。
 男の視線が俺から外れることはなかったけど、後ろに何かしらの合図を送ったのか、俺の背後から別の気配が現れる。
 さっきまでそこには気配がしなかったから、隠密系?のスキルとかそんな感じかもしれないな。
 俺を組み伏せてナイフを突き立てる気の様だった。
 まあ、そこまで分かられている時点で諜報員としてどうなんだろうか。
 俺は動きながら、突き立ててきたナイフを躱しつつ、その男の足を払ってみる。
 すると何かに躓いたようにとはいかず、軽く吹っ飛ぶように転がった襲撃者。
 見事にもんどりうって大通りまで出て行ってしまった。
 やり過ぎは否めないな。

「で?」

 もう一度、首を傾げながら男に問う。
 じりじりと後退しながらも俺から視線を外さないことには感心する。
 だけどすでにその男も大通りに出てしまった。
 
「た、た、助けてくれ!!強盗だ!!」

 その男はとっさに閃いたのか、周りの人たちに聞こえるように大声で叫んだ。
 もちろん、通行人はその声に反応してその男が指さす路地裏に視線が集中する。
 もちろん俺がいる場所だ。
 俺は特に何も思うところはなく、ゆっくりと路地から大通りに歩く。
 街の住人も姿を現したのが俺だったので、なんだと言いながら野次馬はすぐにいなくなる。

「た、助けてくれ!!強盗……」

 男がどれだけ声を上げようと、街の人たちは関心を示さなかった。
 それを不思議に思ったのか、あたりをきょろきょろと見回し、助けてくれる人……というよりも逃げる口実を探しているようだった。

「いや無理だから。もう少し俺を調べてから付け狙うんだったな。」

 簡単な話で、俺はこの街にここ数か月馴染むように努力をしてきた。
 朝の挨拶から始まり、商店街の散策や買い物、子供からお年寄りまで会話をすることに努めた。
 何せ俺はこの街の住人から見たらよそ者もよそ者。
 ただここにいて受け入れてもらえるなんて思っちゃいない。
 その甲斐あって今では気軽に話せる間柄にはなっていた。

「くそ!!何なんだお前は!!人族のお前をこいつらが味方するんだ!!」

 そんなに騒がれても困るが……こいつら人族はそれほどえらいのか?って思えてきてならない。
 俺はリリーから事の顛末を聞いているだけに、人族そのものをあまり信用していない。
 まあ、中には良い奴もいるが、権力者やその取り巻きは大概こんな感じらしい。
 むしろ、魔王国の住人の方が人として綺麗な心を持っているんじゃないかとすら思えてくる。
 こいつら人族が魔王国の住人を悪魔だなんだと罵っているけど、俺からしたら真逆に見えてならない。

「人徳?それにさ、お前たちが陰で何かするのは別にいいんだ。だが俺たちを巻き込むな。お前らがやらかすたびに、俺たちが苦労することになるんだからさ。」
「うるさい!!貴様こそ我らに盾突いていいと思っているのか!!我らが主神【ルミナリア】様が天罰を下すことになるぞ!!」

 なるほどね、【】様ね。
 リリーの名前が書き換えられてるんだろうか?って思ってたら、リリーの顔がものすごく不機嫌そうだった。
 それが何を意味しているかって言わずもがな。
 リリーがこの世界の主神なんだから、その【ルミナリア】は真っ赤な偽物ってことになる。
 しかもだ、それを国の名前にまでしてしまってるんだから詐欺師此処に究めりって感じかな?

「リリー的にはどうする?」
「舌を切り落としてその喉をつぶし、今後一切物言えぬ身体にしたい。」

 怒り爆発寸前だなリリーは。
 そりゃ目の前で偽物を褒めたたえられたら気分が悪いに決まっている。
 
 そうこうしていると、この男の異変に気が付いた仲間たちが集まり始めた。
 まあ見事に人族ばかりだな。
 この国で活動するなら、現地人を味方につけないとだめだろうって思うけど、どうも神聖国【ルミナリア】は人族至上主義らしく、この国の住人を味方に引き入れるって言うことは考えられないらしいな。
 清濁併せ吞むこともしないなんて意味が分からなさすぎる。
 やはりこいつらは諜報員ではなく騎士団とかそんな感じなんだろうな。
 
「リル、手を出したらダメ……って遅かったか。」

 リルは俺の静止を聞く前にすでに動き始めてしまった。
 集まりだした男たちをワンパンでのしていく。
 気が付けば集まった男たち全員が白目をむいて倒れていた状況だった。
 これ正当防衛成立するのか?なんて無駄なことを考えてしまいたいほどだ。

「さて、そろそろ話を聞きたいんだけどいいかな?」

 一人意識を残している最初の男は、心が折れかけているのか顔面蒼白だった。
 さすがにやりすぎたかな?

「お、お前たちには関係がない話だ。俺たちは別段お前に危害を加えるつもりはなかった。」
「付け狙われて気分を害さない人間はいると思うか?」

 自分たちの無罪を主張したいなら、俺に悟られるなって話だ。
 こうしてばれてしまえばいくら言い訳したところで意味をなさないからな。

 男を拘束してからすぐに憲兵隊が姿を現した。
 さすがに現状が現状だけに頭を抱えていた。
 
「またあなたですか……さっきの件と良い、何か恨まれるようなことをしてるんですか?」

 憲兵隊の隊長が目頭を押さえながら、首を横に振っている。
 俺に言われてもこればかりはどうにもできないんだが……
 って、これ俺のせいなのか?
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