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新たな町へ

592話 ニングスの旅 帰り道 1

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馬車は走る。

 その走る馬車は草原中の一本道を走る。
 道と言ってもそこは整備された道ではない。
 その道は他の馬車が通り、自然に出来ただけの土の道だ。
 それも凸凹の多い道。

 そんな道を、暁彦が改造した馬車は殆んど揺れもせず進む。
 馬車に乗るのは、ニングスとその息子のレクスの二人だ。
 御者はニングスが主に為るが、これからは暁彦の屋敷で親子で世話になる。
 なので息子のレクスにも御者の仕事を覚えさせることにした。
 それは息子のレクスも了承済みである。
 なので幌馬車の御者台には、親子二人並んで馬を操りながらエンバルまでの帰り道を進む。

 息子が住んでいた町を出てから一月ひときの間で、随分と息子のレクスもこの旅に慣れてくれてたのか?
 時折笑顔を見せてくれる様には為ったと思うのだが…。

 それは息子の心遣いかも知れないとそう思うニングスである。

 息子と離れて居たのは約5年以上の月日が流れて居た。そのせいで、いまいち息子との距離感が掴めずに居るのだが。

「ねぇ父さん」

「…なんだ?レクス」

「やっぱりこの馬車凄いね」

 何回この会話をするのか?
 そろそろその会話は飽きたのだが、それは言わないでおいた方が良い様だ。
 空気は読めるニングスである…筈だ。
 なのでこの会話が息子から出る度に苦笑いをする。

「そうだな、父さんもそう思ってるよ。レクスはよっぽど馬車が気に入ったのかい?」

「それはそうだよ! 馬車の中にお風呂とトイレがあるなんて!ビックリだよ。父さんはそうじゃないの?ビックリしないの?」

 ま、信じられないよな。普通に考えればな。
 なにせ俺も信じれないんだからな。

「父さんも始めは、それもう驚いたさ! ところでレクス」

「なに? 父さん」

「お前、馬の操り方、随分慣れてきてるね。これならお屋敷に戻っても、父さん旦那様に自慢出来るぞ!」

「そう?なら嬉しいけど。それにしても…ただの幌馬車なのに、中は貴族も驚く豪華な部屋ってすごいね」

 話をはぐらかしたのに、またこの話だ。
 だが息子が楽しそうに話すのだから、とことん付き合うぞ!と決めるニングスだ。

「ハハハ、ほんとに贅沢だよ」

「笑い事じゃないよ!父さんこれ盗賊にでも襲われでもしたら…」

「それは…多分大丈夫だとは思うぞ?」

「まあ、ちゃんと父さんの説明は聞いてるけどね」

「そうだ。それに盗賊が出そうな山道は避けてるし、結界と認識阻害をちゃんと掛けてるからね」

「そうなんだよねぇ……本当に父さんを雇ってる旦那様に早く遇って話をしてみたいな。僕とのそう年が変わらないんだろ?」

「旦那様は16才だそうだ」

「へぇ~僕と2つしか変わらないんだね」

「そう、彼は15才で屋敷を手に入れられる程の冒険者だ」

「冒険者かぁ~」

「なんだ? 憧れるか?」

「そうだね、憧れはするけど。僕には無理だろうしね。父さんの仕事を手伝いながら考えるよ」

「そ、そうか?それならゆっくり考えてくれ」

「うん、そうするよ」

 そんな話を親子でしながら旅は続く。




 そんな旅の中、二人の目には小さな村が見えてきた。

「ねえ、父さん」 

「なんだ?」

「あの村には寄るの?」

「いや、寄らないよ?」

「どうして?」

「…どうしてか。なら、あの村で宿を取ったとしよう。だがその宿屋が粗末な部屋で風呂もなく、食事も手を付けたくないほど粗末なものだったら?」

「……あ、母さんと旅したときを思い出した」

 息子のレクスが心野底から嫌な顔をした。
 余程良い旅では無かったのだろう。
 まあ、それは当たり前の話だが。
 レクスには、そんな苦労はもう二度とさせたくはないとニングスはそう心に決めた瞬間だ。

「そうなのかい?なら、分かるだろ?この馬車の中程豪華で綺麗では無いことが」

「……父さん…」

「なんだい?」

「僕、良く分かったよ。父さんと離れて、母さんがあの村に戻る時に一緒に旅をしてんだけど。馬車も揺れてお尻も痛いし、泊まる宿屋も酷かったんだ」

「そうか、なら尚更分かるだろ?」

 この馬車のには、風呂もベッドもある。おまけにアイテム鞄の中には、調理済みの食料があるし水もある。なんならお茶まで入ってる。
 これほど楽な旅はない。
 気を付けないと為らないのは、国に入る時の馬車の検索!これだけだ。

「分かったよ、でも僕そろそろお腹すいたよ」

「フフフそうか……ならもう少し進んで飯にするかい?」

「やった!セーフティーエリアだっけ?直ぐにあるかな?」

「ああ、この先にあるはずだ。だが、気を付けろよ。あの場所にも人は居るからね、レクスは絶対に馬車から降りたら駄目だ。分かったかい?」

「うん、任せて、もうわがまま言わないよ」

 にこりと笑ってレクスは素直に頷いた。

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