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8.未来へ……

14.5 番外編 魔女の飛ぶ日

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 番外編のため、本編とは時系列が合っていませんが、ご了承下さい。

◇◆◇◆◇◆

 深い紺色が夜空を染め始めると、運河の周囲は、街灯によりオレンジ色の温かみのある光が灯しだされ、広い通りの中央に設置された、幌布と金属製の柱で作られた簡易な屋台を照らし出している。

 通りを歩く大勢の人々は寒さに強張った表情だったが、威勢の良い売り子の声と、アレキサンドリア名産の豚や鳥肉の燻製くんせいや、腸詰ソーセージを焼いた美味しそうな臭いに、財布の紐も表情も緩んでいくようだ。

 例年の年末年始のお祭りとは異なり、今年は屋台の一画に北部エリクシアからの露店も陣取っており、北国ならではのグリューワイン(スパイス入りホットワイン)や渦巻き型に巻かれた腸詰ソーセージを焼いたものが売られ、さらに南方の島国からも海産物の屋台が出店されていたりと、例年とは違った異国情緒が漂っていた。

 チッタ・アベルタ一番街。人々が笑顔で行き交う通りを、浮かぬ顔で三人の美少女が歩いている。

 運河をのんびりと進むボートの上に、見知った赤いボサボサ髪の青年と、きれいに切り揃えられたショートカットの娘を目にした、三人娘の一人はぼそりとつぶやく。

Explosion爆発しちゃえ……」

 つぶやいた娘をとがめるのは、濡れ烏色の長い髪を揺らす細身の娘である。

「駄目ですよ、いくら火属性の魔法はつかえないといっても、呪文に魔力を込めるのは……」

「あ~ぁ、せっかく今年はエルフの里クレナータに行かずに済んだのに、クロエ様がいないんじゃつまらないですよぉ」

 明るいブロンド髪を揺らすユーリアが、渦巻き型腸詰を頬張りながらぶつぶつ愚痴っていた。

「仕方ないですよ。クロエさんはギルドの指名依頼で護衛任務に就いていますし、いろいろ問題もあったようですから」

 ユイが宥めるように口にだすが、言った当人も少し寂しそうである。

「そもそも北国に行くのは知っていたけど、医療班の半数が付いて行ってるのに、私が行けないなんて納得いきませんわ。しかも、護衛対象があの戦姫でしょ?
 クロエが護衛するまでもないし、デーゲンやクラリスもついているんだから、即死しなければ……」

 イリスの不穏な言葉はユイが慌てて口を塞いで止めさせた。みんなが楽しんでいるお祭りの最中に、不穏な言葉ははさすがにまずい。
 唯でさえ三人から数メートル離れた後ろを、くっついてくる集団がいるのだ。認識阻害の魔法を使ってもついてくるむさ苦しい集団ではある。
 幸い、害意はないらしいので放置しているが、うっとおしいことこの上なかった。

 三人はいつもの通り、四季へと寄ると、専用席と化したテラス席へと座る。席に着いた三人を迎えるのは、レギニータの運ぶホットココアである。
 世界でたった3台しかない貴重なチョコレート製造の魔道具から生成されるココアパウダーを使用した飲み物は、四季の冬の定番製品として定着していた。

 当初、四季チッタアベルタ店の店長である女性が、クロエを拝み倒して一点物で作ってもらったのだが、あっという間に本店となぜかエリクシア貴族エリーゼにバレて、結局3台作ることになったのであったが・・・・・・

 コリーヌとクラリスという戦力を欠いた四季は忙しく、寒さに強くないとはいえレギニータはフル回転で働いているため、ココアを提供すると3人の前から姿を消していた。

「「「……つまらないです(わね)」ぅ」ね」

 三人三様につぶやいたその時である。

 軽快な破裂音と共に、色とりどりの小さなリボンやオーブが三人の周囲を飛び交い、舞い散った。それと共に、明るい声が三人の頭上から降り注ぐ。

「メリークリスマス! 三人とも元気にしてた?」

「「「クロエ!!」」」

 見上げる三人の視線には、赤地に白のもこもこがあしらわれたコートと帽子をまとったクロエがいた。

「メリークリスマス!って何よっ!」

 と叫ぶイリスを無視して、クロエはゆっくりと箒の高度を下げて、テラス席へと着地する。

「折角のお祭りだからね。転移魔法で一時的に帰省しにきたよ。店長に、今日は絶対クラリスとコリーヌさんも店に出勤させてって言う話だったしさぁ。時差の計算を忘れて、少し遅れちゃったけどね♪」

 微笑みながら話すクロエだが、イリスたち三人の表情にも、先ほどまでの曇りや憂いはなかった。

「まったく、帰ってくるなら帰ってくるとメールくらい入れなさいよっ!」

 どこかのオカンみたいに怒るイリスを横目に、クロエは空間収納から赤・青・緑の三色のリボンを付けた箒を取り出すと、それぞれに手渡した。もちろん三人分の魔女帽にコートは、別に用意済みである。

「これって……」

 クロエの脇に直立して立つ、ハレー彗星と名付けられた魔法の箒を見てユイがつぶやく。クロエは明るい笑顔を浮かべると三人に説明した。

「ちょっと急にアメリアに飛行具を作る必要ができちゃってさ。でも、僕が作るこの手の魔道具は、他の人用を作る前に三人に使ってほしいじゃない?
 だから三人の分を作ってから、アメリアに貸す分を作ったんだよ。旅でプレゼントを買うのが間に合わなかったから、今年の僕からのプレゼントは『空飛ぶ箒』だよ」

 そして、それぞれの名称を三人に伝える。

「イリスさんの箒の庵前は、『P2P Enckeエンケ』。ユイの箒は『P3D Bielaビエラ 』、ユーリアちゃんの箒は『P4P Fayeフェイ』っていう名前だよ。そして、これがコントロールリング」

 三人に渡した腕輪には、シンプルな六芒星の魔法陣が描かれ、中央にはそれぞれ白(パール)・黄(カナリー・イエロー)・緑(エメラルド)の宝石が、あしらわれていた。

「ふふっ、ちゃんと私たちの分を先に作るなんて、よい心がけですわ」

「あ、でも魔道具譲渡の手続きはしてあるんですか? 未登録の魔道具は、譲渡も使用も禁止されていますし……」

「怒られちゃいますよぉ?」

 三人三様の言葉に、クロエは微笑んでいた。旅は悪くない。でも帰る場所があっての旅だということを自覚しながら、笑みが浮かぶ。

「あはっ、タブレットを使って、もうエリックさんには申請書は提出済みだし、設計書を預けることで緊急承認してもらったから平気だよ。
 さぁ、折角のプレゼントをお披露目しないとね♪」

◇◆◇◆◇◆

魔道具管理局 魔道具登録・譲渡許可番号 第1610XXXXX201

 名  称:Flies Broom
 基本作者:クロエ・ウィンター

 汎用設計:エリック・スミス(何故かおおきく×印にて訂正) リアン・スミス

 試作1号:Hally   使用者 クロエ・ウィンター
 同 2号:Encke   使用者 イリス・ホワイト
 同 3号:Biera   使用者 ルゥオ・ユイ
 同 4号:Faye    使用者 ユーリア・ミロシュ・ノルウェン
 同 5号:Brorsen 暫定使用者 アメリア・アレン

 量産1号:R0001   使用者 アーシャ・スミス(スチュアート)

 備考

 ・なんで男はのれないんだ~!!(by リアン・スミス)
  様にならないから(クロエ・ウィンター)

魔法管理局 魔法登録番号 第161XX980021

 名  称: イルミネート・ライト
 術式申請: クロエ・ウィンター

 効  果: 光魔法ライトに色調変化効果を追加 赤~青の七色に一定時間後変化
       変化に要する時間は、術式で指定

 用  途: 民政

チッタアベルタ街史

 The day when a witch flies 制定

 アレキサンドリア都市歴161年 十二月二十四日 十七時十五分

 ・箒に乗った四人の魔女により年末休暇中のチッタアベルタ一番街は興奮の坩堝るつぼ
  化した。
 ・魔女たちは運河の上を飛び、街を七色の光に染めあげ、市民及び観光客を大い
  に沸かせた。
 ・後に四名の魔女は、アレキサンドリア共和国所属の魔女と断定される。
 ・この騒乱により、四人の魔女に対して騒乱罪の適用を求める一部市民の意見が
  行政府に上がったが、各露店の売り上げとその後の観光客の増加により、概ね
  市民からは歓迎された為、不問と処すと決定された。

 ・騒乱による被害者は1名 空飛ぶ魔女を追いかけようとした赤毛の青年がボート
  より落水。風邪の症状により二日間寝込んだのみと伝えられる。
  被害者が落水した要因は、『爆発しろ!!』との呪詛が原因であるとの主張が
  あったが、当人の被害妄想であるとの認識が多数をしめたため、主張は取り下
  げられた。

 ・なお、新年祭までの休暇期間初日であるこの日を、『魔女の飛ぶ日
  The day when a witch flies』として、正式に記念日として制定することを
  決定する。

  ロンタノ辺境領 領主 アレクシス・フォン・ロンタノ
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