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7.女王の奏でるラプソディー
69.異界の道化
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水中飛び石地帯を超えた僕達の先に現れたのは、地底の神殿でした。神殿自体は石灰岩でできていて、天然の洞窟と同じ素材ですので、長い年月の間に滴る水滴が、神殿を形作る柱や壁に流れ石やつらら石などの鍾乳洞独特の地形を作り始めています。
「鍾乳石の伸びるスピードは、年間0.4ミリ程度と聞いていますから、ここまで伸びる期間を逆算すると、この神殿は千年前につくられた計算になりますね」
天井から延びるつらら石の長さは4メートル程あります。天井が高いせいで、上のつらら石と下から伸びる石筍はつながっていませんが、あと五百年もあればつながって石柱になるでしょう。
人口の神殿に、天然の芸術家が手を加えている形となりますが、遺跡としては保存状態は良い方なのでしょう。
「ここで行き止まりなの? 案外簡単に攻略できたわね」
「そうですね。この神殿の作りは遼寧や東の大陸風ではありませんし、水中で生活する人魚族や魚人族のモノでもなさそうですね。
千年も前にこの島で神殿を作るような文明があったのでしょうか? 先ほどの呪いや、水中への通路を作る技術も考えると、かなり高度な文明だったようですね」
周囲を見渡しながらイリスさんの言葉に同意しつつ、冷静な観察をしているのはさすがユイですね。
そして、ユイの言葉に、僕は引っかかりを覚えます。
「確かに高度な呪いを駆使した魔法、もしくは呪術体系をもった文明…… そして、先ほどのレイスたちが身に着けていた衣装は、粗末な物とはいえませんでしたね。
そんな高度な文化をもった文明が、ここまで秘匿したのがこの神殿だけ……?」
周囲を確認しつつ、そんな事を考えて足を踏み出したその時でした。
ガコッ……
「えっ、こんなテンプレ的な展開?!」
「クロエ、貴女ね~」
「はぁ、やっぱり楽には終われないんですね(苦笑)」
「クロエ!!(歓喜)」
床一面に黄金色の光がきらめき、一瞬後周囲の風景が暗転します。悲喜こもごもの僕達をのせて……
◇◆◇◆◇◆
「……で? ここは何処なのよ、クロエ?」
「むぅ、待ってくださいよ…… んと、さっきの神殿から更に地下ですね(十キロほどですが)……」
足元は固い岩盤、直径は五百メートルほどの大きな空間です。
地下なのに明るいのは、頭上を覆う岩壁に描かれた文字とも絵とも区別のつかない文様が、光を放っているからです。
「……それで、この後どうなると思います?」
ユイが疲れた表情を浮かべて僕を見つめますが……
「…………ここまでテンプレな展開だと、なにかでてく……る…………かと……」
僕がうんざりした表情で答え始めてその時です。光を放つ文様が点滅をはじめ、低い音程で音楽のようなものが、一定のリズムで聞こえてきました。
「なんでしょう?、これは……? 音楽でしょうか?」
ユイが誰にともなく疑問を口にします。低い一定間隔で刻む音と、もう一つは強弱をつけたやはり一定間隔の音。それぞれ別個に聞こえていた音が、徐々に重なりだすと、イリスさんの顔色が悪くなると共に、叫びました。
「……違いますわ!! これは……呼吸音と、……心拍音、なにか大きな生き物がすぐそばにいるはず!!」
イリスさんの悲鳴ともとれる言葉に、異質なモノの存在感が強まります。ざわざわと音を立てるように皮膚が泡立つのを感じ、自分でも驚いてしまいました。
僕たちは背中合わせに円陣を組んで、あらゆる方向からの攻撃に対応しようとしましたが……
聞こえていた心音や呼吸音、そして濃厚な異質の気配までもが突然消え失せました。壁を埋め尽くしていた文様も、いまは淡い光を放つだけです。
そして……
『これはこれは…… 二百年ぶりに贄を捧げる者が現れたと思えば…… 黒と白の巫女に、年月を重ねて薄まったとはいえ、黄の姫ではないですか』
いつの間にか、この場所の中央に、長身痩躯で漆黒の肌をもつ男性と思われる人影が現れています。話す言葉は、アレキサンドリアで使われている魔法語のようですが、言葉の内容は直接頭の中に響いてきます。
そして、その内容は丁寧な言葉ですが、明らかにこちらを馬鹿にした、嘲りをもっている事がわかります。とはいえ、それは当然の事と言えるかもしれませんね。それほどの力の差が有るのを明確に感じるのは初めてです。
「贄など捧げるつもりはありませんよ…… 君は誰なんです? 贄を貰って、提供者の願いをかなえる下僕といったところですか?」
あえて挑発的な言葉をかける事によって、相手の本音を聞き出そうとしますが……
『くだらない発想だ。人間はどれほど時が経っても、やはり真なる存在を理解できず、理解しようとも思わないようですね。
ですが、私も人の愚かさには大分慣れてますのでね、まずは名乗って差し上げましょう』
ゆっくりと歩いて近づく男ですが、近づいているにも関わらず、顔が全く分かりません。長身痩躯、漆黒の肌を持つ顔の見えない男……どこかでその存在を知っていたような気がするのですが……
『我が名は、ニャルラー・トテップ、異界の道化にてございます。
さて、贄では無いと仰いましたが、それでは何ゆえにこの地に? ここは絶海の孤島にして、闇の封印に閉ざされた地。冒険者としても、そうそう訪れる事は不可能な地のはずですが……」
男は左手を顎にあて、考えるような仕草を見せますが、視線を上に向けるとすぐさま何かを悟ったように僕達に視線を戻しました。
「なるほど、遥か頭上、洋上にいるのはQAですか……かの船に乗る黒き巫女と白き巫女、そしてまだ自覚のない黄の姫とあれば、この世界でいけない場所は少ないと……なるほど、そういう訳ですか……』
こいつ、QAの存在を知覚した。脳内に警鐘が発せられます。そして、男は立ち止まり僕達を指さしました。
ユックリと、一人ずつ確認をするように…… そして、僕達に笑みを見せます。顔が見えないのに、明らかに笑ったという嘲りの波長が伝わってきます。
『黒き巫女はクロエ・ウィンター。白き巫女はイリス・エアリー。そして、自覚なき黄の姫、リン・シャオロン……いや、今はルゥオ・ユイでしたね。そして、ホムンクルスのエマとジェシー』
こいつ……記憶を食んだ? いずれにしても、危険ななにかに間違いはありませんね。男の言葉と共にイリスさんが物理障壁と魔法障壁を同時に展開し、男の出方に備えます。
ユイも物理防御の式である兵滅鬼を召喚し、同時にイリスさんへのバフを付与。エマとジェシーも抜刀し、二人の武器が青と赤の光をおびます。
僕も左右のガンブレードを亜空間転移で瞬時に召喚し、左右で六属性十二発を発射。十二発の弾丸は、全てレベルⅢ。ドラゴンには通用しなくても、その鱗を破壊するだけの威力はあるはずで、実際男の身体には十二個の風穴があいていますが……
『戯れに封印の地を訪れたこと、万死に値しますが……よろしいでしょう、二百年ぶりの道化のショーをゆっくりお楽しみください』
風穴の空いた身体で……口があるかもわからない存在が、道化としての優雅な一礼を見せました。そして、元の姿勢に戻った男の輪郭がクズクズと崩れ落ち、肉塊へと変り果てたのでした……
「鍾乳石の伸びるスピードは、年間0.4ミリ程度と聞いていますから、ここまで伸びる期間を逆算すると、この神殿は千年前につくられた計算になりますね」
天井から延びるつらら石の長さは4メートル程あります。天井が高いせいで、上のつらら石と下から伸びる石筍はつながっていませんが、あと五百年もあればつながって石柱になるでしょう。
人口の神殿に、天然の芸術家が手を加えている形となりますが、遺跡としては保存状態は良い方なのでしょう。
「ここで行き止まりなの? 案外簡単に攻略できたわね」
「そうですね。この神殿の作りは遼寧や東の大陸風ではありませんし、水中で生活する人魚族や魚人族のモノでもなさそうですね。
千年も前にこの島で神殿を作るような文明があったのでしょうか? 先ほどの呪いや、水中への通路を作る技術も考えると、かなり高度な文明だったようですね」
周囲を見渡しながらイリスさんの言葉に同意しつつ、冷静な観察をしているのはさすがユイですね。
そして、ユイの言葉に、僕は引っかかりを覚えます。
「確かに高度な呪いを駆使した魔法、もしくは呪術体系をもった文明…… そして、先ほどのレイスたちが身に着けていた衣装は、粗末な物とはいえませんでしたね。
そんな高度な文化をもった文明が、ここまで秘匿したのがこの神殿だけ……?」
周囲を確認しつつ、そんな事を考えて足を踏み出したその時でした。
ガコッ……
「えっ、こんなテンプレ的な展開?!」
「クロエ、貴女ね~」
「はぁ、やっぱり楽には終われないんですね(苦笑)」
「クロエ!!(歓喜)」
床一面に黄金色の光がきらめき、一瞬後周囲の風景が暗転します。悲喜こもごもの僕達をのせて……
◇◆◇◆◇◆
「……で? ここは何処なのよ、クロエ?」
「むぅ、待ってくださいよ…… んと、さっきの神殿から更に地下ですね(十キロほどですが)……」
足元は固い岩盤、直径は五百メートルほどの大きな空間です。
地下なのに明るいのは、頭上を覆う岩壁に描かれた文字とも絵とも区別のつかない文様が、光を放っているからです。
「……それで、この後どうなると思います?」
ユイが疲れた表情を浮かべて僕を見つめますが……
「…………ここまでテンプレな展開だと、なにかでてく……る…………かと……」
僕がうんざりした表情で答え始めてその時です。光を放つ文様が点滅をはじめ、低い音程で音楽のようなものが、一定のリズムで聞こえてきました。
「なんでしょう?、これは……? 音楽でしょうか?」
ユイが誰にともなく疑問を口にします。低い一定間隔で刻む音と、もう一つは強弱をつけたやはり一定間隔の音。それぞれ別個に聞こえていた音が、徐々に重なりだすと、イリスさんの顔色が悪くなると共に、叫びました。
「……違いますわ!! これは……呼吸音と、……心拍音、なにか大きな生き物がすぐそばにいるはず!!」
イリスさんの悲鳴ともとれる言葉に、異質なモノの存在感が強まります。ざわざわと音を立てるように皮膚が泡立つのを感じ、自分でも驚いてしまいました。
僕たちは背中合わせに円陣を組んで、あらゆる方向からの攻撃に対応しようとしましたが……
聞こえていた心音や呼吸音、そして濃厚な異質の気配までもが突然消え失せました。壁を埋め尽くしていた文様も、いまは淡い光を放つだけです。
そして……
『これはこれは…… 二百年ぶりに贄を捧げる者が現れたと思えば…… 黒と白の巫女に、年月を重ねて薄まったとはいえ、黄の姫ではないですか』
いつの間にか、この場所の中央に、長身痩躯で漆黒の肌をもつ男性と思われる人影が現れています。話す言葉は、アレキサンドリアで使われている魔法語のようですが、言葉の内容は直接頭の中に響いてきます。
そして、その内容は丁寧な言葉ですが、明らかにこちらを馬鹿にした、嘲りをもっている事がわかります。とはいえ、それは当然の事と言えるかもしれませんね。それほどの力の差が有るのを明確に感じるのは初めてです。
「贄など捧げるつもりはありませんよ…… 君は誰なんです? 贄を貰って、提供者の願いをかなえる下僕といったところですか?」
あえて挑発的な言葉をかける事によって、相手の本音を聞き出そうとしますが……
『くだらない発想だ。人間はどれほど時が経っても、やはり真なる存在を理解できず、理解しようとも思わないようですね。
ですが、私も人の愚かさには大分慣れてますのでね、まずは名乗って差し上げましょう』
ゆっくりと歩いて近づく男ですが、近づいているにも関わらず、顔が全く分かりません。長身痩躯、漆黒の肌を持つ顔の見えない男……どこかでその存在を知っていたような気がするのですが……
『我が名は、ニャルラー・トテップ、異界の道化にてございます。
さて、贄では無いと仰いましたが、それでは何ゆえにこの地に? ここは絶海の孤島にして、闇の封印に閉ざされた地。冒険者としても、そうそう訪れる事は不可能な地のはずですが……」
男は左手を顎にあて、考えるような仕草を見せますが、視線を上に向けるとすぐさま何かを悟ったように僕達に視線を戻しました。
「なるほど、遥か頭上、洋上にいるのはQAですか……かの船に乗る黒き巫女と白き巫女、そしてまだ自覚のない黄の姫とあれば、この世界でいけない場所は少ないと……なるほど、そういう訳ですか……』
こいつ、QAの存在を知覚した。脳内に警鐘が発せられます。そして、男は立ち止まり僕達を指さしました。
ユックリと、一人ずつ確認をするように…… そして、僕達に笑みを見せます。顔が見えないのに、明らかに笑ったという嘲りの波長が伝わってきます。
『黒き巫女はクロエ・ウィンター。白き巫女はイリス・エアリー。そして、自覚なき黄の姫、リン・シャオロン……いや、今はルゥオ・ユイでしたね。そして、ホムンクルスのエマとジェシー』
こいつ……記憶を食んだ? いずれにしても、危険ななにかに間違いはありませんね。男の言葉と共にイリスさんが物理障壁と魔法障壁を同時に展開し、男の出方に備えます。
ユイも物理防御の式である兵滅鬼を召喚し、同時にイリスさんへのバフを付与。エマとジェシーも抜刀し、二人の武器が青と赤の光をおびます。
僕も左右のガンブレードを亜空間転移で瞬時に召喚し、左右で六属性十二発を発射。十二発の弾丸は、全てレベルⅢ。ドラゴンには通用しなくても、その鱗を破壊するだけの威力はあるはずで、実際男の身体には十二個の風穴があいていますが……
『戯れに封印の地を訪れたこと、万死に値しますが……よろしいでしょう、二百年ぶりの道化のショーをゆっくりお楽しみください』
風穴の空いた身体で……口があるかもわからない存在が、道化としての優雅な一礼を見せました。そして、元の姿勢に戻った男の輪郭がクズクズと崩れ落ち、肉塊へと変り果てたのでした……
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(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
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