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7.女王の奏でるラプソディー

58.遼寧の町にて③

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「……う、う~ん……あ、朝かぁ~……」

 目を開けると、カーテン越しに差し込む初夏の日差しの眩しさに、僕は目を覚ました。上体を起こすと、船内の低い天井が頭をかすめる。

 小さいあくびを噛み殺して、明るくなりつつある客室キャビン内を見渡すと、下段のベッドにはユイとエリーゼさんの姿が見えます。反対側の上段のベッドには短い金髪の髪が寝息を立てていますね。

 まだ、起きるには少し早い時間ですから、三人とも寝かせておいてあげましょう。
 僕は毛布に包まったまま、枕元に畳んであった制服に着替えると、ベッドの上段から飛び降ります。猫のように軽やかに着地しますが、ふわりと広がるスカートを軽く抑えるのは忘れません。

(女子だけしかいないとはいえ、そこは淑女の嗜みですよね)

 キャビンから船内通路に出る前に、軽く環境探査の魔法を飛ばします。QAクイーンアレキサンドリアと違って、この船自体には妖精さんがついている訳ではありませんからね。船自体に認識阻害魔法をかけてしまうと、他の船と衝突される可能性がありますから、無茶は出来ません。

 通路を操舵室に向かい歩いていると、背後にメイド服姿のジェシーが現れます。

「クロエ、夜間の非友好的な接触は特にありませんでしたが、現在までに監視と思われる視線を4確認。そのうち二つの所在がつかめません」

 流石に帝都近くの港町に、目立つ一行がやって来たのですから、監視なり偵察には来ると思っていましたが、エマ&ジェシーに居場所を把握させないほどの者を送ってきますか……
 イェンさん級のフーにも監視されていると思ったほうがよさそうですね。
 このまま出航するのも一つの手なんですが、物資の補給おみやげのかいだしがまだ済んでいません。帝都以外の離れた港での買い出しも考えてみますが、二点間の移動時間からこちらの性能を把握されるのもよいとは言えませんしね。
 どの道、百鬼を使って追尾してくる可能性も考えれば、手の内を明かす必要もないでしょうから、このままお買い物を続けることにしましょう。

「とはいえ、まずは腹ごしらえですよね」

 折角のよいお天気ですし、桟橋とは逆側の右舷デッキ席で朝食を摂ることにして、簡単に食事を作ります。

「ん~、ハムとチーズのホットサンドなんかも良いよね。レタス類は出がけに艦内工場から拝借してきてるし、ハムとチーズは手持ちがあるもんね。
 あ~、卵焼きもいいかなぁ。半熟目玉焼きに、ベーコンも良いなぁ。塩コショウはストックがあるし、問題ないでしょ」

 魔道具化されたホットサンドメーカーを棚から取り出し、三角形のプレートをセットします。パンを三角に切り、プレートの上に乗せてっと。

 鼻歌を歌いながら、六人分を作ります。エマとジェシーは別に物理的な食事はいらないのですが、やはり食事はみんなで食べるのが一番おいしいですしね。
 飲み物はやはり紅茶かなぁ。コーヒーも悪くはないのですが、この世界では流通しているコーヒー豆の種類も量も少ないんですよね。それに新鮮なミルクが手に入りにくいのが厳しいところです。砂糖も、精製手段が確率されていないので、真っ白な砂糖はありません。

「コーヒーノキは赤道付近で、雨期乾期がきちんと分かれている必要がありますからね~。アムルニュールは熱帯雨林に近いから、気候的にもう少し乾いていたほうがいいんだよなぁ……」

 ぶつぶつぶつぶつ…… 独り言ちながらテーブルの上に朝食を並べていると、イリスさん達がやってきました。どうやら、エマ&ジェシーが絶妙なタイミングで起こしてきてくれたようですね。

「おはようございますですわ、クロエさん。避暑地のように優雅……とはいきませんが、異国の地でこのような美味しい食事が味わえるとは思ってませんでしたわ」

 いや、まだ食べてないよね? エリーゼさん……まぁ、食べる前から美味しいと思われるのも悪い気はしませんが、ある意味プレッシャーが高くなるんですが……

 その後も何だかんだと色々ありましたが、食事をしながら今後の予定を話し合います。

「……そういう訳で、干渉を受ける可能性はありますが、今日は買い物を中心に進めようと思います。
 時間的には明日の早朝に出港して、いつもの無人島でヴァルキリーに乗り換えてQAに戻る予定でいいかな?」

 僕の提案に、イリスさんは首をかしげて考えていますね。ユイもホットサンドをかじりながら考えをまとめています。

「昨日の話からすると、皇帝はそれなりに道理を知っていそうだから、無茶はしてこないとみて良いかしら?
 考えなしの皇帝であれば、私たちを捕えて後宮へ放り込んで、船は接収しようとするでしょう。まあ、その後ギャッフンされる展開よね」

 イリスさん……最近読んだラノベの展開ですかそれ? 少なくても、先帝はアレキサンドリア共和国を知っていて、娘を遊学に出す決断をするくらいですから、他国の事情はタイムラグはあるとしても把握しているでしょう。
 エリクシアのことも知っているでしょうから、僕たちに手を出す=二国を相手に戦争になるようなことはしないでしょう。

「官の腐敗をどの程度一掃できたかによりますが、腐敗は民にも及んでいたと思います。賄賂を送り私腹を肥やしていた商人などをどの程度一掃できていたか……
 現皇帝は北部を統括していた将軍でしたから、帝都の商人などの捕縛までは手が回らなかった可能性を考慮したほうが良いかもしれませんね」

 あ~、悪徳商人が虚言で僕たちを売る可能性ですか。とはいえ、桃源郷の主程度しか接触していませんし、あまり心配はいらないでしょう。
 朝食をかじりながらの打ち合わせは、割と簡単に済んでしまいます。お馬鹿な皇帝でないのであれば、無理無茶はしてこないでしょうしね。
 今日は帝都まで足を伸ばして買い出しすることに決めて、出かける準備をした僕たちは、エマを先頭に桟橋へとタラップを渡り……そこで足が止まります。

「貴女方はもう一つの可能性を忘れておりましたわよ? 真面な為政者であれば、他国人には手を出しませんが、優秀な為政者であれば他国の魔術師の話を聞くために、正式な招待をしてくるってことを……」

 桟橋の出口には豪華な馬車。そして拱手をする文官らしき二人の人の姿が見えます。その背後には数十名の兵士の姿……

「一国の皇帝の正式な招聘って、断るわけには……」

「もちろんいきませんわね。さぁ、覚悟を決めて参りますわよ」

 生き生きとしたエリーゼさんの笑顔と、げんなりした僕の表情をみて、イリスさんとユイの二人が微笑みます。はぁ、あきらめるしかなさそうですね……
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