駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

54.遼寧の町にて①

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「ちょっと……? いえ、かなり目立ってるんじゃ……」

 ユイのつぶやきが聞こえましたが、ここはあえて聞こえないフリで通させていただきます。
 遼寧の近くの無人島で、DM2から船に乗り換えた僕たちですが、やはり白一色の船体に三角帆だけの帆船(スクーナーと呼ばれるタイプ)は、非常に珍しいのでしょう。とはいえ、普通の帆船では僕たちだけでは操船ができないから仕方ないですよね。

 港に浮かぶ船の大部分は、中国などで普及したジャンク船というタイプに酷似しています。木造の帆船で、四角い帆が三本のマストに張られた形態です。河口なんかの浅瀬や、運河を利用した内陸への輸送も可能な優秀な船なんですよ。
 意外に思えるかもしれませんが、同時代の西洋のキャラック船やキャラベル船・ガレオン船よりも水深の浅い水域での耐波性能や、水上速度に優れているんですよね。
 しかも、西洋の大航海時代は十五世紀中盤以後ですが、明代の中国の武将鄭和ていわが十五世紀初頭にインドやアフリカまで航海していたのですから意外ですよね。

 先ほどからすれ違う船の船員さんから指を差されていますし、港のほうでも僕たちの船が近づくにつれ、桟橋に人が増えていきます。

「貴女ね……この船だってあなたの言う場違いな工芸品オーパーツでしょ
 はぁ、まあ貴女自身が特異な存在なのだから仕方ないですわね……」

 イリスさんのため息交じりのセリフも聞こえますが、実際僕たちだけでまともに動かせる帆船は存在しないのだから、そこは妥協してもらわなくてはなりません。
 この船『PAプリンセスアレキサンドリア』は、操帆はすべて魔道具で自動制御されます。
帆柱に上って作業をする必要の無いバミューダ帆装を使用していますし、二十一世紀の帆船でも、電動で帆の角度などを最適に制御する船があるのだから問題はないでしょう。もちろん、船底部には水流噴射推進方式の機関が存在する動力艇でもありますが、今は風の力だけで洋上を進んでいます。

 全長十五メートルほどで、周囲を行きかう船の半分くらいのサイズですが、外観の美しさは随一ですしね。港の入り口付近で帆をすべて下ろして停船すると、手漕ぎのボートというしかない小型船が二艘接近してきました。

 彼らは物珍しそうに船を見上げながら話しかけてきましたが、入港手続きの為にきたようですので、来港目的や期間などが質問されましたので、 そこはエマとジェシーに手続きを任せて、僕たちは上陸準備に入ります。ユイの髪色も明るい茶系にして、瞳の色もグリーンに見えるように魔法をかけてありますので、問題ないですよね。

船体防衛機構HDF作動させます。警告レベルの設定は標準ですが、特に指定は有りますか?」

 エマに聞かれた僕は、船体横にこちらの文字で注意を喚起するメッセージを表示する様に指示しました。
 エマは少し考えた後、すらすらと横断幕に言葉をかいて、ブルワークに固定します。その言葉は……



请勿触摸・危险ふれるな・きけん



 ……いや、確かに危険なんだけど、何か違う気がとてもします。とはいえ、あまりこだわってもいられませんので、さっさと街に繰り出しましょうか。

 そういえば、なぜ僕はこちらの文字読めるんだ? ……気にしないことにしましょう。

*****

「……なによ、見世物じゃないわよっ」

 イリスさんがつぶやきますが、無理もありません。桟橋に僕たちが降り立つと、歓声というか、浮足立った声が上がります。
 まあ、黒や茶色の髪の色しかいない場所に、いきなりエリーゼさんやイリスさんのように金髪にサファイヤやエメラルドの色の瞳の人が降り立てば、そうなりますよね。
 服装も、遼寧の一般庶民の服は、襖裙じゅくんと呼ばれる袖のゆったりした服が中心です。そこに僕たちはメイド服や海軍女子の制服ですからね。エリーゼさんに至っては、ひざ下とはいえスカートを着用していますし。

「遠巻きにじろじろ見られていますが、そこはあきらめましょう。とりあえず街の散策を開始しましょうか」

 僕の言葉に皆さんうなづきます。まあ、最初から注目を集めるのは覚悟していましたしね……
 連れ立って港町のお店をひやかしますが、だれも話しかけてこないのは、僕たちが会話している言葉がわからない為でしょうね。
 気分的には観光地を行く芸能人のような感じですが、最初は人目を気にしていたイリスさんやユイも慣れてきたようですね。
 エリーゼさん? この人は注目を浴びる事には慣れていますからね。一番雰囲気を楽しんでいるんじゃないでしょうか?

 ちなみにお金ですが、遼寧では金貨は存在せず銅貨と銀貨を使用しています。もちろんアレキサンドリアのものは使えませんので、事前にエメラルド島で両替してきたお金を使っています。

 さてさて、見知らぬ街をひやかし半分歩くのなら、やはり食べ歩きが一番ですよね。食堂や飲食店の多い通りを歩きながら、ユイに話しかけます。

「小龍包や水餃子もいいね~、とはいえ立って食べるのはマナー違反でしょうし、どこかの茶屋に入りましょうか?」

「……そうですね。食べるところをじろじろ見られるのも恥ずかしいですし、個室がある料理店が良いと思いますよ」

「帝都に近い港町とはいえ、私たちのような西方の人間は見慣れないようね。クロエ、なるべく綺麗でおいしいとこ選んでよ」

 イリスさんが口を挟みますが、僕だってそんなお店は知りませんよ。エマやジェシーも、そんなくだらないことでアカシックレコードにアクセスしないでしょうし。っていうか、そんなことのってる訳ないよね。名物料理とかならのってるかもしれませんが……

 ジェシーにお願いして、おいしい料理屋さんの場所を、周りの観客の人々オーディエンスに聞いてもらいました。ジェシーに声をかけられた人は、驚きながらもかなり嬉しそうですね。
 少し顔が赤みを帯びていますが、エマもジェシーも美人さんですからね。気持ちはわからないでもありません。

『そうだなぁ、美味い店というなら雀火飯店じゃっかはんてんか、大海坊だいかいぼうがお勧めだね。安くて美味いものが食えるぜ。
 あとは宝竜飯店だが、あそこは美味いけど馬鹿高いって話だしなぁ』

 むぅ、やはりジェシーと男性の会話の内容がわかりますね。そしてエマもジェシーも僕が言葉をわかると知っているようですね。通訳をお願いしたとき、微妙な顔をしていたのはそのためでしょう。

「クロエ、三店あるそうですがどうしますか?」

 エマが隣から僕の顔を覗き込みます。そうですね、安くておいしい店は一人歩きなら試してみたい処ですが、これだけ注目を浴びてる中でそういったお店に行けば、更に大混乱になりかねません。
 人ごみの中には、スリやコソ泥のような小悪党も交じっているので、あまり隙を見せるのもどうかと思いますしね。

 思い悩んでいた僕の視線に、足音と共に影が差します。視線をあげると、中年のおじさんが片手をもう片方の手のひらで包んで少し振っています。中国でいうなら、拱手というやつですね。
 僕はエマを見上げて会話をお願いすると、おじさんはどうやら食事処を営んでいて、是非高名な導師である僕たちを食事に招きたいということのようです。

「僕たちは別に導師というわけじゃないけど?」

 エマの通訳によると、桟橋に停泊している僕たちの船、プリンセス・アレキサンドリアにちょっかいを出そうとした数名が、その場でしびれて動けなくなったらしいですね。軽い電撃が行われる程度だから、勝手に乗船しようとしたのかもしれませんが。 その様子を見ていた人たちからは、驚きの声が上がっていますね。

『おいおい、桃源郷とうげんきょうの主人自ら客引きかよ。この嬢ちゃんたちは、そこまでする必要がある客ってことなのかい。
 しかし、あそこは格が高すぎておれらじゃ店に入ることさえできねえぞ……』

『……まあ、他国の貴人相手なら妥当な店でもあるがなぁ。料金も半端じゃねぇ』

 む~、店の格と料金はこの街の最高峰のようですね。とはいえ、僕は食事に豪華さを求めるのは好みじゃないんですよね。どんなに豪華な食事でも、堅苦しくては食べた気がしないんですよ。

「美味しくても堅苦しくて馬鹿高いならごめんですよ。エマ、そのあたりを伝えてくれませんか?」

 僕の言葉を忠実に翻訳したようで、エマの回答に驚いた顔をしたおじさんですが、袂から何かを取り出します。
 エマが僕とおじさんの間、ジェシーがエリーゼさんとおじさんの間に身体を入れてましたし、イリスさんとユイもいつでも防御魔法が発動できる態勢をとっていますね。
 とはいえ、おじさんが取り出したのは一枚の紙片でしたが、上質な紙で裏面には薄青いインクでアレキサンドリアの印章が書かれています。
 エマがそれを一瞥いちべつすると、おじさんから紙を受け取って僕に手渡してきます。特に問題はないということなのでしょうね。僕が折りたたまれた紙片を開いて、中に書かれた文字を読みます。僕がそこに書かれた文字をみて苦笑いを浮かべていると、警戒態勢を解いたイリスさんとユイもやってきたので二人に紙片を渡します。
 
「ふ~ん。桃源郷に来てくれないと、経費の出費が認められなくなるからぜひ来てください? 全く、私たちの好みを考えて店を確保しなさいよ」

「イリスさん、この方には私たちがここに現れるのを予測できなかったでしょうから、それは難しいですよ。アレキサンドリアの商船ターコイズの船務長の方からの手紙ですか」

 まあ、僕たちの好みは多少把握しているのでしょうね。僕たちがいかないと判断することを先読みした文面からは、それが推測できます。

「まぁ、いいでしょう。遼寧の最高級店での食事代が、経費でおりるようですから、せっかくのお招きに招かれましょうか」

 僕の言葉に皆さんうなずきましたし、それを見ていたおじさんも満足そうな笑顔を浮かべて僕たちを『桃源郷』へと案内すべく道を歩き出しました。
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