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7.女王の奏でるラプソディー
44.アンソニーの戦い
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【アンソニー分隊】
「……以上が各分隊との打ち合わせの結果だ。こちらの部隊は、クラーケンの足止めを担当するが、すでに攻撃発動までの時間は二分を切っている。すぐに行動に移してくれ」
顔を見合わせた九人のメンバーは、やれやれと言った顔で肩をすくめると、アンソニーを中心とした円陣を組む。目的はクラーケンの腕の固定であり、アンソニーは特に魔法の種別を指定することはしなかった。
「やれやれ、うちの分隊長殿は、砲術長の肩書のわりに地味な役ばかり持ってきますね~。じゃあ、俺は右触腕の固定いきます」
そう言って始めた詠唱は風の魔法の一つ風圧である。クロエの張った魔法障壁を叩いていた触腕が、風速にして百六十マイル毎時(約二百六十キロ)毎時の速度で吹き付ける風によって障壁に押し付けられ、ピクリとも動かせないようだ。これは七十メートル毎秒を超えて、超大型のハリケーンが巻き起こす最大瞬間風速に近い。
「あっ、てめぇ、そいつは俺が狙ってたのに」
「早い者勝ちっすよ、こちらの人数は分隊長を含めて十人。クラーケンの腕だか足の数もちょうど十本。一人一本すね、じゃあ、左第一腕いくっすよぉ」
軽口を叩くメンバーに、アンソニーは苦笑いするしかない。紅家では派手なリアンの動きが目立つ一方で、堅実な働きをこなすアンソニーは目立ちにくかったが、どんな状況でも確実に任務をこなしてきた。そんな彼がQAに乗艦することになったのは、ひとえに本当の彼女の影響だ。
「……地味な砲術長か……確かに僕は地味なんだけどね」
そうつぶやいたアンソニーは、ちらりと艦橋の上層部に視線を送る。高い魔力を持ちながら、人並外れて虚弱な身体を疎んでいた、彼の彼女はそこからこちらを見ているはずだった。
「水中にも腕はある。僕には僕のできる範囲の仕事をさせてもらおう」
アンソニーはそうつぶやくと、懐から白く小さな棒を取り出した。真っ白い金属にも似た光沢をもつその棒は、アンソニーの家に伝わる家伝の魔道具であり、家長から長子がそれを引き継いできたものだ。
魔道具を引き継ぐ家系は多くないが、もちろん理由がある。本来強力な魔法素材で作られた魔道具は、希少で貴重ゆえに高価であった。アレキサンドリアといえど、強力な魔道具をすべての兵に持たせる程の在庫はない。それゆえに制作されるのが、個人向けの魔道具だったが、アンソニーが持つものは家伝の希少品だ。ユニコーンの角から削り出された一品は、持ち主の魔力を増幅してくれる。
「《我、請い願うは数多の精霊に非ず。万物全てを引き付け押し潰すモノなり。空を飛ぶ鳥を落とし、天に留まる星をも落とすものよ。願わくば、陣にはいりし我らの敵を押しつぶさん。重力域》レベル5」
アンソニーの詠唱と共に、クラーケンの張り付いている障壁の周囲に、黒い紋様が浮かび上がる。広がる紋様は、幾何学模様を含む魔法陣となり、クラーケンが接触している魔法障壁へと広がると、詠唱の完了とともに虹の輝きを帯びた。
「なっ、ちょっと、うちのリーダー今回ずいぶん派手なんですけど」
「馬鹿野郎、俺らの出番がなくなるじゃねえか」
同じ分隊の隊員から悲鳴にも似た声が上がる中、アンソニーはクロエに合図を送った。
ぐるりと障壁が回転するかのようにまわり、クラーケンの体が海面から引き釣出されるが、障壁に張り付いた触腕一本すらピクリとも動かせないようだ。
それをみて、他の分隊どころか、待機している女性乗組員からも歓声があがる。空中に光り輝く魔法陣は、これまではクロエがごくまれに使用する大規模魔法で見せるだけであり、もちろんクロエが教えたものではない。アンソニーは、あっけにとられるリアンやハリーといった他のリーダーを見ながら、穏やかに口にする。
「このまま保持するのはたやすいんだけどね。君たちの部隊で止めを刺せない場合は、僕がこいつの始末をさせてもらうよ? たまには、僕もいいとこを見せなければならないらしくてね」
そういって微笑むアンソニーは、まさに大魔法使いとも言えるたたずまいを見せるのであった。
*****
短いですが、区切りもよいので。
年末に向けて、仕事が忙しくなりつつあるので、多少更新が滞ることがあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
「……以上が各分隊との打ち合わせの結果だ。こちらの部隊は、クラーケンの足止めを担当するが、すでに攻撃発動までの時間は二分を切っている。すぐに行動に移してくれ」
顔を見合わせた九人のメンバーは、やれやれと言った顔で肩をすくめると、アンソニーを中心とした円陣を組む。目的はクラーケンの腕の固定であり、アンソニーは特に魔法の種別を指定することはしなかった。
「やれやれ、うちの分隊長殿は、砲術長の肩書のわりに地味な役ばかり持ってきますね~。じゃあ、俺は右触腕の固定いきます」
そう言って始めた詠唱は風の魔法の一つ風圧である。クロエの張った魔法障壁を叩いていた触腕が、風速にして百六十マイル毎時(約二百六十キロ)毎時の速度で吹き付ける風によって障壁に押し付けられ、ピクリとも動かせないようだ。これは七十メートル毎秒を超えて、超大型のハリケーンが巻き起こす最大瞬間風速に近い。
「あっ、てめぇ、そいつは俺が狙ってたのに」
「早い者勝ちっすよ、こちらの人数は分隊長を含めて十人。クラーケンの腕だか足の数もちょうど十本。一人一本すね、じゃあ、左第一腕いくっすよぉ」
軽口を叩くメンバーに、アンソニーは苦笑いするしかない。紅家では派手なリアンの動きが目立つ一方で、堅実な働きをこなすアンソニーは目立ちにくかったが、どんな状況でも確実に任務をこなしてきた。そんな彼がQAに乗艦することになったのは、ひとえに本当の彼女の影響だ。
「……地味な砲術長か……確かに僕は地味なんだけどね」
そうつぶやいたアンソニーは、ちらりと艦橋の上層部に視線を送る。高い魔力を持ちながら、人並外れて虚弱な身体を疎んでいた、彼の彼女はそこからこちらを見ているはずだった。
「水中にも腕はある。僕には僕のできる範囲の仕事をさせてもらおう」
アンソニーはそうつぶやくと、懐から白く小さな棒を取り出した。真っ白い金属にも似た光沢をもつその棒は、アンソニーの家に伝わる家伝の魔道具であり、家長から長子がそれを引き継いできたものだ。
魔道具を引き継ぐ家系は多くないが、もちろん理由がある。本来強力な魔法素材で作られた魔道具は、希少で貴重ゆえに高価であった。アレキサンドリアといえど、強力な魔道具をすべての兵に持たせる程の在庫はない。それゆえに制作されるのが、個人向けの魔道具だったが、アンソニーが持つものは家伝の希少品だ。ユニコーンの角から削り出された一品は、持ち主の魔力を増幅してくれる。
「《我、請い願うは数多の精霊に非ず。万物全てを引き付け押し潰すモノなり。空を飛ぶ鳥を落とし、天に留まる星をも落とすものよ。願わくば、陣にはいりし我らの敵を押しつぶさん。重力域》レベル5」
アンソニーの詠唱と共に、クラーケンの張り付いている障壁の周囲に、黒い紋様が浮かび上がる。広がる紋様は、幾何学模様を含む魔法陣となり、クラーケンが接触している魔法障壁へと広がると、詠唱の完了とともに虹の輝きを帯びた。
「なっ、ちょっと、うちのリーダー今回ずいぶん派手なんですけど」
「馬鹿野郎、俺らの出番がなくなるじゃねえか」
同じ分隊の隊員から悲鳴にも似た声が上がる中、アンソニーはクロエに合図を送った。
ぐるりと障壁が回転するかのようにまわり、クラーケンの体が海面から引き釣出されるが、障壁に張り付いた触腕一本すらピクリとも動かせないようだ。
それをみて、他の分隊どころか、待機している女性乗組員からも歓声があがる。空中に光り輝く魔法陣は、これまではクロエがごくまれに使用する大規模魔法で見せるだけであり、もちろんクロエが教えたものではない。アンソニーは、あっけにとられるリアンやハリーといった他のリーダーを見ながら、穏やかに口にする。
「このまま保持するのはたやすいんだけどね。君たちの部隊で止めを刺せない場合は、僕がこいつの始末をさせてもらうよ? たまには、僕もいいとこを見せなければならないらしくてね」
そういって微笑むアンソニーは、まさに大魔法使いとも言えるたたずまいを見せるのであった。
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短いですが、区切りもよいので。
年末に向けて、仕事が忙しくなりつつあるので、多少更新が滞ることがあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
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