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5.南海の秘宝

34.後始末?

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 カリキュラムに、盗賊団が銃を所持していた場合を組み込んで、複数回の実習を行って迎えた11月の暮れのことです。
 魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】では、新年を迎える為の長期休暇で、受講生の間で話題になっています。様々な国々から受講生を集めている為に、年末年始の休暇はほぼ2か月の長期間にわたる為、地元に帰る受講生も多いのです。

 魔法医療学の講義で、魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】を訪れていた僕は、受講生同士の会話を聞いていてふと思いました。
 イリスさんの受講生は、どういう訳か帰省をする人はいないようですね。地元のサンドラや防疫処理で40日間の港内停泊を行わなければならないエリクシアの面々はわかるとして、クラリスやレギニータ、デーゲンハルトは帰省しないのでしょうか?

「レギニータ達は帰省はしないの? 2か月も休暇があれば、十分往復できるでしょう?」

 淡い金髪の髪を揺らして、クラリスは微笑みます。

「『ラマグドレーヌ公国』は、北部の国ですもの。夏場と違って、雪が積もれば何日かかるかわかりませんし、わざわざ寒い地元に帰るくらいなら、ここでアルバイトを続けて学費や生活費の足しにした方が良いです」

 あぁ、忘れてましたが雪の問題もありましたね。アレキサンドリアは高地といっても、標高100m程の台地上に存在します。北部の国境地帯である高山に行かない限り、冬の間雪に覆われ続ける事はありません。

「レギは単純に帰国する時期に船が無いんですの。ついても直ぐに帰ってきてしまうようになるのでしたら、アルバイトを続けた方がよいんですの」

 それにと、クラリスとレギニータがそろって微笑みます。それは艶やかに咲く野の花のようですね。

「「アレキサンドリアの新年祭の花火を、折角目にできるチャンスです(もの)」(ですの)」

 あぁ、僕の黒歴史が疼きますね。実際、製法などを伝授してくれと、様々な商人さんがアレキサンドリアに要請していましたが、全て拒否しています。理由は単純ですね、飛行船に対する対空兵器に流用されかねないというのが現実です。
 銃を応用した火薬式の対空兵器は、飛行船を就航させてから、エリクシアでは開発が行われていますが、いまだ100m上空の飛行船を撃ち落とせるものはできていません。
 僕が作った花火は、最低でも数百㎡は到達しますから、流用されてしまえば危険なんですよね。花火の制作は、既に僕の手を離れて、アレクシアさN配下の魔術師による『魔法花火師』なる部門が存在しています。僕は時たま訪れて、案を出す程度ですね。

「自分は既に冒険者として故国を離れて活動しておりますので、引退でもするようなことが無ければ、帰国することは無いであります」

 そう答えるのは、デーゲンハルトですね。まあ、冒険者として生計を立てていればそうなりますよね。

「じゃあ、デーゲンハルトさんはこのお休みは、近郊で冒険者稼業をして過ごして、サンドラは地元へ帰省。他の皆はチッタ・アペルタに残留という事ですか」

 僕の発言に、皆さん頷きますが、イリスさんがジト目で僕をみていますね。

「貴女は自分の受講生を気にする方が先でしょう? どうするんですの?」

「戦闘実習は、新年明けの2期から、ギルドへ丸投げしちゃいましたからね。ゴブリン・コボルト・オークの3種に、銃を持った賊への対処を主にすることが決まっているし」

 基本的に新人さん向けの講座に変更して行うことが決まっているんですよね。僕への依頼は、カリキュラムにそった魔物の捕獲が中心になる予定です。

「そっちじゃなくて、例の件よ。後で話を聞かせなさい」

 あぁ、イリスさんが言ってるのは、アレクシアさん経由で依頼が来ている件ですね。その件はまだ国家機密扱いですので、この場で話すわけにはいきませんね。

*****

「では、初心者向けのゴブリン・コボルトの討伐講座と、中級者向けのオークと銃を持った盗賊対策を主に講義内容にすることでよろしいでしょうか?
 人員は、中級者講座はギルドの推薦を得た人達のみ。初心者向けは、新規登録者さん向けとして、ある程度数を絞った形でお願いします」

 チッタ・アペルタの冒険者ギルドで、僕はギルマスのカーラさんと応接室で対話しています。目の前の応接セットには、パトリシアさんが入れてくださった紅茶が、良い香りをさせています。

「そうですね。正直申し上げて、初心者向けに『グール』か『スケルトン』、中級者向けに『ガーゴイル』か『ハーピー』を加えていただきたいのですが……」

 そういうカーラさんの言葉を、僕は全力で拒否します。『グール』か『スケルトン』なんか、収納に入れておくことを考えただけでも嫌ですよ。飛行系の『ガーゴイル』か『ハーピー』は、捕獲自体が難しいですし、演習場でも高さの面ではあまり高度をとった設定はできないので、ご免こうむります。

「捕獲してきた『グール』か『スケルトン』を、冒険者ギルドが預かってくれるならいいですよ。餌代もかかるでしょうけど」

 僕がそう言うと、カーラさんが顔をしかめますし、それを見ていたパトリシアさんはクスクス笑いをしています。

「銃を持った相手に対しての訓練は、アレキサンドリアを通していただければ、それなりに対応はしてもらえますが、威力などは期待するほどのものは出ないと思ってください。それと、冒険者側に銃を貸し出すこともありませんからね」

 実際、小物の魔物ならまだしも、オークですら銃は通じません。大量に弾丸を撃ち込めば、殺すことはできるでしょうけど、火薬や銃弾のコストが馬鹿になりませんからね。それに、拳銃はまだ実用化されていないので、火縄銃を護身用に所持する冒険者もいません。

「判りました。当面は、初心者や中級者向けの講座を行うことで考えておきますが、今後のカリキュラムを考える上で、またご相談させていただきますね」

 こうして、僕の暫定講師稼業は無事終了を迎えることができそうです。
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