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5.南海の秘宝

4.War Game?

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「魔法医療学ではそんな事があったんですね」

 翌日の朝、今度はユイと魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】へ向う際の、地下鉄の中で、昨日のイリスさんの講義内容をユイに聞かれて、簡単に話をしました。

「ユイの基礎符術も、イリスさんと同じ様に受講者を厳選するの?」

「私の講座は、符術の理解を深める為の講座ですから、より多くの人に聞いてもらうだけですよ。ただ、対戦に参加してもらう方は都度厳選しますから、其方は不満が出るかもしれませんね」

「対戦って、僕に依頼した『模擬戦場盤と投影装置』を使ってやるの? それは不満がでそうだね」

 ユイの言葉に僕は頷きます。『模擬戦場盤と投影装置』は、簡単に言ってしまえばリアルタイム型のシミュレーションゲームで、それを投影する装置とセットになっています。
 いわば、対戦している内容を講義の内容として、自分ならどうするかや攻略方法を考えさせるものなのですが、使える符や兵などは状況設定で変更できる対戦ゲームですからね。よりたがる人は多いでしょうね。

「敵味方同時進行で、考える為の時間はありませんからね。事前に持ち込める符の制限もあります。ルールの中で符を生かして自軍を勝たせるか、挽回策を練れるかの戦術面の訓練なんですけど、ゲームとしか見ない方も多いでしょう。
 でも、目的が符術を利用した戦術の広報目的ですので、私としてはそれでいいんですけどね」

 単純な遊びとして、自分もやりたいという人は多そうですからね。中央区についた僕達は、昨日のイリスさんと同じ手順を踏み、プレートを貰って講義室へと向いました。
 そして、前日のイリスさんの話が広まったのか、僕達が講義室に到着すると既に10人程度の受講希望者がいます。

「クロエさん、『模擬戦場盤と投影装置』の準備をお願いします。講義中は、投影装置への表示内容の切り替えなどの補助をお願いしますね」

 イリスさんの時とは違って、僕にもやることがそこそこありそうですね。退屈しないで済みそうです。ユイは昨年は魔術学院で戦術論や戦略論の講義の助手として活動していましたからね。こういった講義の経験もあります。
 やがて、開始時間になると40名弱の受講希望者が集まっていました。最初に集まっていた人達を前列に集めて、名前などを記入してもらいます。ユイの講義の性質上、受講者以外が集まってくるのは見えていますからね。対戦をしてもらう人たちは、最初から集まっていた受講者に限定しますが、見るのはご自由にというオープンなスタイルの講義の様です。

 講義は4精霊属性のバフ、攻撃力強化と防御力強化、デバフの弱体化の12の符の説明を簡単に投影装置に表示して解説をします。こんな投影装置は、何処にも存在していないでしょうから、見ている受講者の瞳はみなきらきら輝いていますね。
 そして、一通りの説明が終るといよいよ対戦が始まります。状況設定は草原と森林が接した地域で、中央に川が流れている状況です。
 守備側は、攻撃側より先に到着しており、事前にある程度の陣地の構築や罠の設置が許されています。兵数はとりあえず1000名の上限で兵種は騎兵・歩兵・補給兵も含みます。
 兵数と兵種は選択範囲が限定されていますが、編成は上限以内であれば自由です。そして、使用できる符の種類は今日の講義の12種類で、使用可能枚数は5枚という制限付です。

「1番から20番までは、防衛の戦術・戦略を練って下さい。21番以後の方は、攻撃側となります。5分後に、指名する方に戦闘を行っていただきますが、初戦なので他の人との相談は無しでお願いしますね」

 投影装置に映された戦場を見ながら、防衛側は何処に陣地を組み、何処に罠を仕掛けるかを考えていますし、攻略側は相手の戦略を先読みし、いかに攻略するかを競います。開始30分で戦況を判断し、勝ち負けを競いますが、責め切れなければ防衛側の勝利となります。

「では、防衛側の戦略案のできた方はいますか?」

 ユイの言葉に、サッと手を挙げたのは、キツネ目の身長が高い細身で、黒髪にグレーの瞳をした男性です。ユイが彼を指名し、僕が彼に操作を教えます。罠や陣地の設置が行われ、防衛側の準備を進めている間に、攻撃側の対戦相手の指名と操作説明が終り、いよいよ対戦の開始です。

 防衛側の彼は川を渡った森に程近い位置に陣を構えました。それに対して、攻撃側は騎兵のみ1000騎を用意し、攻略を目指します。
 攻撃側は10騎程度の先遣隊で偵察を行い、防衛側がほぼ陣地に篭っている事を確認すると、軍馬に風の加護を発動させて一気に攻め入りました。
 迎撃側も川を渡河し迎撃しますが、風の加護を受けた軍馬の速さに対応できず、ずるずると後方に下がりつつあります。火矢による攻撃も、馬の速さに追いつけず、彼らの後方の草原を燃やすだけです。
 半ば敗走状態になった守備側を、後方から追いかける攻撃側。勝負はこれまでかと思われた矢先、防御側の罠が発動しました。陣地の前面、川を渡河した周囲の草原が突如泥沼へと変化したのです。
 これにより騎兵の最大の利点である速度が殺されます。土属性の弱体化と水属性の強化によって、草原を沼地に変えてしまったのでしょう。騎兵と共に敵陣に突入してしまった軍師である攻撃側の符術しは、急速に変化した戦場に対応できません。近くの見方を強化して拠点を攻略しようとしましたが、防衛側が川の上流の堰を破壊し、濁流が攻撃側の兵を一気に襲います。後は、先ほど射た火矢が広げた炎上している平原と、囮として2割の兵を失った防衛に、濁流を生き残った兵が掃討されるまで、たいした時間はかからなかったのです。

「はい、それまでです。」

 ユイが終了を宣言した時点で、防御側の残兵780名に対し、攻撃側は220名と大敗した結果となっていました。対戦している両者の声は、お互いに聞く事はできませんが、観戦者には全部見えていたのです。防音フィールドを外した2人には、惜しみない拍手が降り注ぎます。いつの間にか見物人も含めて、観戦者は80名を超えていました。
 その後、2戦行われ、攻めあぐねた攻撃側の負けと、陣地の構造から戦略が読まれて、背後から急襲をうけた防御側の敗戦と続き、本日のユイの講義が終了となりました。
 追加で受講を希望する人が続出しましたが、対戦を組む必要上あまり多くの受講者を抱えられないので、追加はないと知りがっかりした様子の見学者と、自分達の先見性を喜んだ受講者の悲喜こもごもな様子が印象的な、講義となりました。

「なんとか皆さんの興味が引けて良かったです。クロエさんには感謝ですね」

 ユイは帰りの地下鉄の中で喜んでいます。今日の盛況振りをみても今後も期待できそうですね。そうなると、装置が1台では不足にならないのでしょうか?僕がその点を確認すると、ユイは微笑みながら首を横に振ります。

「良いんですよ。対戦自体はメインではないんですから。それをみて、戦術や戦略に符術が使える事を知ってもらえれば良いのです」

 ん~、なるほど。ユイとイリスさんでは、同じ講義をするのでも目的が随分違うようですね。僕もどういった内容で講義するかを考えるのではなく、目的を明確にしてから講義内容を考えないといけませんね。


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