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5.南海の秘宝

2.開放都市 始まりの宴

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「みなさん、お久しぶりですね。そして、綺麗になられたようで、かつての同窓の者として鼻が高いですよ」

 浅黒い肌と縮れた髪、細い目をした弁舌爽やかな。貴公子然とした(事実第3王子でしたね)この男の名前を僕はようやく思い出しました。アレクシスですね。
 最後に見たのは、ルキウス教徒との戦闘後ですから、2年程度は会っていない計算になるはずです。

「領都の完成おめでとうございます、アレクシス殿下。いえ、ロンタノ辺境伯とお呼びしたほうが宜しいでしょうか」

 黒いシルクのドレスを着たアレクシアさんが、お祝いの言葉を述べていますね。相変わらずの美魔女っぷりを発揮していますが、アレクシアさんの実年齢を知ったら世の女性が、その美貌の保ち方を知りたがる事間違いなしですね。

 領都完成記念のお祝いの宴ということで、並べられたご馳走はアルベニア王国のものだけでなく、アレキサンドリアの上層街で提供されている食品も並んでいます。これら全ての費用をアレクシス、いえロンタノ辺境伯が負担しているのですから、見た目はスマートでも太っ腹ですね。
 白を貴重とした一見簡素に見えつつも、上等なシルクなどを使った服を着用しているアレクシスの隣には、似たような肌の色をした美人さんが寄り添っています。
 どうやら、辺境伯になった時に妻帯したようですね。美人さん達の護衛を請け負う僕としては、少し安心です。
 僕やイリスさん達は普通に学院の制服ですが、アレクシアさんやカタリナさんはそう言う訳にはいかないらしく、事前に準備しておいたようです。やはり、ゾムニのティティスさんのお店に頼んだのでしょうね。

 アレクシスを含むお偉いさんのお相手は、アレクシアさんにお任せして、僕達は幾つか配置された円卓の一つを陣取り、周囲を見ながらのんびり下品にならない程度に食べ物や飲み物を頂いています。
 お偉いさんばかりだで、僕達の存在が浮いてしまうんじゃないかと思っていましたが、よく見るとちょっと豪華な平服をきた平民さんも多く居るので、思ったほどではありませんね。周囲を見ていると、見たことのあるような人がいて、僕は驚いて駆け寄ってしまいました。

「えっ、カーラさんですよね? ケルツェンのハンターギルドにいた。何故、ここに?」

 カーラさんの隣には、あの時見かけた受付のお姉さんも一人一緒に居ます。カーラさんは、僕をみると手にしたワインをテーブルの上に置いて、語りました。

「お久しぶりね、白髪赤瞳の冒険者クロエさん。特に怪我もしてないようでよかったわ。私達二人は、明日から動き出す、『チッタ・アペルタ冒険者ギルド』のギルドマスターと、主席受付を拝命したのよ。なので、今日のパーティーに呼ばれていた訳」

 なるほど、この街には冒険者ギルドも新設されるんですね。最初は登録冒険者も少ないから大変でしょうね。僕がそう言うと、カーラさんはにっこり微笑んで言います。

「あら、もうかなりの数の冒険者さんは移籍してきていますよ? 新しい街ができるなんてそうそう機会はありませんからね。目敏い冒険者さんは移籍していますわ」

 まあ、誰でも移籍させてるわけではありませんがと、にこやかな笑みを浮かべます。その仕草がいかにもやり手の女性といったイメージで、カッコいいですね。
 僕は、カーラさんにイリスさんやユイ、ユーリアちゃんを紹介しました。落ち着いたイリスさんやユイの挨拶とユーリアちゃんの元気いっぱいの挨拶に、カーラさんも笑みを浮かべています。

「みなさんのパーティー『アレキサンドライト』の噂はよく知っていますよ。是非、『チッタ・アペルタ冒険者ギルド』のお仕事でも活躍して下さいね」

 ギルマス直々の依頼とあれば、受けないわけにはいきませんね。まして、カーラさんは信頼に値する人ですし。

「私達意外にも、エリクシア方面から来た技術者も居ますよ」

 ギルドの主席受付のお姉さん、パトリシアさんが指差す方向を見てみると、ゾムニの織り師だったニトラさんが、30代後半の女性と一緒にテーブルを囲んでいるのが見えます。

「え、ニトラさんまで来てるんですか!」

 僕があげた声が聞こえたのでしょう。こちらの方を見ると、パッと柔らかな笑顔えをみせて手を振ってくれています。

「ゾムニのリネン製作技術の講師と助手さんですね。厳重な防疫処理を行って、エリクシアからアルベニアに到着した技術者さんも、こちらの魔法技術学院『スクオラ・ディ・テクノロジア』で技術指導をなさるそうですよ」

 アレキサンドリアとアルベニア王国だけでなく、周辺国の優れた技術を学べるというのは、大きい事かも知れませんね。アレクシスはアレキサンドリアでの留学の経験を、上手く生かしたのでしょう。そう思って、再びアレクシスの方をみた僕の動きが停まります。

「あれは……」

 呟いた僕の視線の先を追って、イリスさんは淑女らしくもなく舌打ちしましたよ。成人女子としては、宜しくないのじゃないかなぁ。まあ、舌打ちする理由も判りますがね。そう、僕達の見つめる先には、今は帝政エリクシア王太子となったオリバーが、黒地に金の縁取りがなされた豪奢な様相で、アレクシスと歓談していたのです。
 オリバーの隣には、こちらも黒地に銀の刺繍が入ったいかにも豪華なドレスをきた赤毛の美女が寄り添っています。確か、エリーゼさんからの情報ですと、帝政エリクシアの南部を治めるレピドゥス公爵家のお嬢様だったはずです。
 オリバーの婚約者競争から逃れられたエリーゼさんは喜びつつも、彼女が採った復興策は好きになれないらしいですね。
 レピドゥス公爵は西部辺境領の海沿いの所領の復興を命じられました。海を渡った南部領からは、そのほうが都合がよいことも影響していますね。そして、彼女が採った復興策は、精鋭の兵士と奴隷の集団運用でした。海を渡り送り込まれる大量の奴隷によるネズミや蚤の駆除により、レピドゥス公爵の担当した所領は、1年ほどで復興したのです。ただし、『黒死病』にかかった大量の奴隷の犠牲の上でですが。
 生き残った奴隷と、新たに送り込まれた奴隷や平民が領民となり、今では税の徴収も行われているとか。
 エリーゼさんは少ない蚤避けの魔道具を駆使して、人的被害を抑えながら復興しましたが、彼女は奴隷を使い捨てにし、生き残った奴隷は平民の地位と、割り当てられた女奴隷を妻として与えられたのですから、生き残った奴隷達は満足しているそうですよ、表面上はですが。

 僕達の視線に気付いたのか、オリバーはちらりと此方を見ますが直ぐに視線を逸らせました。アレクシアさん達も、こちらにやってきます。

「さすがに、彼も現状でうちに何かを言える状態じゃ無い事くらい知っているようね」

 アレクシアさんの言葉に、僕達は頷きます。懐かしい顔ぶれとの遭遇でしたが、会いたくない人にも会ってしまうのは世の常なんですね。その後もオリバー達とは接触しないように、パーティー会場を動き回り、やがてお開きの時間が近づきます。
 そして僕は一人階上を離れて、広い中庭に一人立ちました。さて、締めの花火をあげなくてはいけませんね。花火や魔石の回収魔道具を設置後、この日の為に用意した唯1発の花火を打ち上げます。
 ドォーンと大きな音をだして開いたその花火は、大きく開く赤い花です。中央から外に向ってグラデーションのかかったその花は、何処と無く血の色を想像させて僕は一人身を竦ませたのでした。
 
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