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4.アレキサンドライトの輝き

1.後始末 0日目 アレキサンドリア

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 戦後処理は、面倒でした。えぇ、アレキサンドリア共和国ではなく、主に僕の戦後処理ですが……
 アレキサンドリアの戦後処理は、開戦前後の交易が止まってしまった事による損害や、負傷兵の治療と食事にかかった経費などが主ですしね。野戦病院は、今後も伝染病患者などの隔離病棟扱いで整備されていく事になります。
 あとは、傷病者の帰国に関することだけですね。エリクシア側から交渉団が着てからの話になりますが、海上防疫処理の真っ只中ですからね。交渉団が上陸前に全滅しなければいいけど。

 今回の戦役では、参戦した冒険者さんやエルフさん達には、きちんと報酬がでています。大きな怪我人もでず、『黒死病』の感染者もいなかったのは幸いでした。ただ、今回の大勝が油断を生まないようにする必要がありますね。
 学生以外の学院関係者には、臨時ボーナスのような物が出たようで、あちこちの工房では注文がはいって嬉しい悲鳴のようですね。下層街の商会でも、東方や南方の交易品の取扱いを増やして、この商機を逃さないようにと動きが活発です。そして、僕達学生は一週間の臨時休講と寸志程度のお小遣いがでています。勿論、前線にでた生徒はそれなりの報酬を貰っていますよ。
 もちろん、ルキウス教の大聖堂から徴集してきた喜捨物(主にお金)は、全てアレクシアさん経由で議会に提出してあります。貨幣価値を換算しても、どうやら期間中の損失を金銭的には何とか賄えるという所らしいのです。
 しかし、さすがに人口4000万人を超える大国ですね。アレキサンドリアの二か月分の交易で得られる収入を、教会が信者から喜捨されたお金で賄えるのですから。

 僕の戦後処理ですか? まあ、いろいろとありましたよ。ルキウス教の教会に設置してきたドローンの回収はもとより、キルニア城砦が消失した件が、僕が不在の間に知れ渡ったらしく、報告書を提出しなさいといわれています。以下がそのお話となります。

*****

「はぁぁ? なにそれ? 町ひとつ消滅させたのは、貴女だって言うの?」

 え~と、途中から記憶がないので恐らくとしか言えないんですよね。なので、そのまま報告書には記載したのですが、やはり僕がやった事になりますよね。でも、あれは正当防衛ですよね? この世界はその概念が在りませんけど……

「ばれていないわね?」

 へ? アレクシアさんの質問の意図を、一瞬取りかねました。

「エリクシアの人間にばれていないのかと言う点なら、多分全員死んじゃってると思いますよ?」

 僕の答えに、アレクシアさんは薄ら寒そうな表情を浮かべて僕を見ています。

「あなたねぇ、さらっと言ってるけど、私が船の墓場に送ったよりも凄い魔法よ、それ? それを多少記憶が怪しくなっても、安全地帯に戻ってから昏睡しただけとか、規格外にも程があるでしょう、程が!」

 テーブルをバンバン手で叩くアレクシアさんですが、強く叩きすぎたのか、顔をしかめて右手をフルフル振ります。

「はぁ、まあいいわ。知らぬ存ぜぬで誤魔化せるでしょうし、規模は比較できないけど、反撃と言えなくはないし」

 「はい」と呟いて、僕は小さくなります。いや、ほんと物理的に小さくなりそうですね。

「それで? エリクシアの教会に空間投影魔法付きで設置してきたドローンを回収してくるのね? あちこちの教会で暴動が起きて、教皇もクロエちゃんのお仕置きを受けたから、最低でも精神的には死んだと思うし……、そういえば貴女、転移魔法とかまた無茶な魔法使ったんですって?」

うわぁ、変な所に飛び火しそうです。きっと僕の笑顔はひきつっていた筈です。

「休暇明けにじっくり聞かせてもらうわよ。あと、こちらから貴女への連絡手段としての魔道具を用意してくれて、呼んだら戻って着てくれるなら、回収に向うのは許可するわ」

「はい、それは用意しますので……」

 僕がアレクシアさんにそう言った時でした。アレクシアさんの執務室のドアが、音高く開きます。
 部屋の中に入ってきたのは、イリスさんにユイ、ユーリアちゃんの3人です。

「じゃあ、その通信手段は私達にもお願いしますわよ? クロエさん。そして、ドローン回収に行くのもつきあわせていただきますわ」

 あぅ、イリスさん。一応国外にでちゃいけないんですよ? 僕ら。

「イリスちゃん、遊びに行くわけじゃないのよ? なにかあったら困るし、緊急の医療班呼び出しとかがないとは言えないでしょう?」

 イリスさんが、にんまりとアレクシアさんに笑顔を向けます。

「その時は、連絡いただければクロエと一緒に戻ってきますわ。問題ありませんよね?」

 シマッタとアレクシアさんが黙り込みましたね。お休み期間中とはいえ、アレクシアさんもリリーさんも色々お仕事がありますからね。暫く考えていたアレクシアさんでしたが、諦めたようですね。

「わかったわよ。休み期間中は、4人でケイティーの所に言ってる事にでもしておくわ。但し、くれぐれも問題を起こさない事と、『黒死病』には注意するのよ?」

 ありゃ、納得しちゃったんですか? 僕がそう考えていたのが顔に出ていたのでしょうか? アレクシアさんの呟きが聞こえます。

「爆弾娘を1人でふらつかせるよりは、重石が付いていた方が増しよね……」

 ひどっ、爆弾娘って僕の事ですか? そしてイリスさんも珍しく反応します。

「アレクシア様? 重しって私の事ですの?!」

 イリスさん、アレクシアさんはそういう意味で言ったんじゃないと思いますよ~?

*****

「それで、クロエ。エリクシアの何処に行くつもりなんですの?」

 イリスさんは、行く気満々ですね。ユイもユーリアちゃんも、アレキサンドリア以外の国はもとより、国内のカルセドニーの村も行った事はないですよね。

「ん~、基本的には東部属州から西になると思うよ。ただ、西部の属州は危険というか、『黒死病』の汚染がかなり高いから、大抵は空中での作業になると思う。そんなに見て回るってことは無いと思うけど……」

 僕の言葉に、イリスさんはおかんむりです。

「あのね、クロエ。さっきもアレクシア様が言ってたでしょう? 休み期間中に帰ってくればいいのよ。2,3日で回れるなら、3、4日は自由に使えるって事でしょ」

 ユイとユーリアちゃんも『うんうん』と頷いていますが、僕はふと思い出します。

「あれ? でも、ユーリアちゃんは平気なの? たしか前に精霊樹様から余り離れると、エルフ族の加護が弱くなるって聞いた気がするよ?」

 たしか、クレナータで悪いエルフの加護を外したときに、精霊樹様が言ってたような?

「「あ~」」

「そ、それはっ!」

 イリスさんとユイの声に、ユーリアちゃんの悲鳴じみた声が発せられます。そうなんだよね、力が弱ったエルフってどの程度の力が出せるんでしょう。アレキサンドリアの中では、ユーリアちゃんは自分の身の丈よりも大きい長弓も使えますが、普通の7、8歳の子供はそんな事出来ませんよね。
 僕達の中では素の体力は、僕>>>ユーリア>>ユイ>イリスさんの順になっていますが、これに魔法が加わると回復力に優れるイリスさんが、ユイを貫けるか貫けないかで、それでもユーリアちゃんには届きません。
 でも、ユーリアちゃんが子供体力になると、どうなんだろ? 正直、僕も体力の限界は感じた事無いですから判りかねますし、ユーリアちゃんに無理をされて倒れてしまっては困ります。というか、問題があるのであれば、外出の許可がでませんよね?
 僕たちが4人で顔を見合わせて悩んでいると、アレキがのほほんとした声をあげます。

「別に問題ないじゃろ? お主、自分が精霊樹の『葉』を持っているのを忘れたのか? あれは精霊樹と繋がっている様な物じゃから、ユーリアとやらに持たせれば問題はあるまい?」

「「「精霊樹の葉!!」」」

 あっ、そういえば『北領』のエルフの町以後、気にしてなかったので、存在すら忘れていましたよ、精霊樹様に頂いた『葉』は。イリスさん達も驚きの声をあげていますね。というか、それはエルフ族の人にとってはとても役に立つ、欲しいアイテムなのでは?

「はぁ? お主、なぜあんなに北領のエルフがお前に協力的だとおもっておる。『葉』は、精霊樹の望まぬ物が持てば輝きを失う。お主がそれを持っており、『葉』が生き生きとしてる事で、精霊樹がお前を認めているという証拠になるからじゃぞ?」

 まったくどうしようもない奴だとアレキはいいますが、精霊樹様はお土産って簡単に、しかも勝手に人のポケットに入れましたしね。

「貴女、なんて貴重品を持っているのよ!」

「精霊樹の葉って、とんでもなく貴重な錬金術の素材ですよ」

「エルフ族でも、精霊樹様より頂けた人がいたなんて聞きませんよ? 数百年はいないんじゃないですかね」

 ちょ、まさかそんな貴重品とは。とはいえ、ホントに使えるのならものであれば、解決ですね。僕は収納から『葉』を取り出します。たしかに、3ヶ月以上経過しているのに、枯れる気配もありませんね。

「「これが、精霊樹の『葉』」」

「凄く輝いてますよ~」

 ? 僕にはそんなに輝いてはは見えませんが? イリスさんとユイの顔をみますが、彼女達にも、それほど光り輝いては見えないようですね。
 僕はユーリアちゃんの掌に、『葉』をそっと載せました。すると、『葉』は一瞬輝きを増して、再び元の色に戻ります。僕と、イリスさんにユイが顔を見合わせていると、ユーリアちゃんが泣き出してしまいました。
 僕達3人が、慌ててなだめますが、何故かもユーリアちゃんが泣き止みません。そうこうしている内に、異変に気付いたのかアレクシアさんが部屋にやって来ました。ユーリアちゃんとその掌の上の『葉』に気付くと、一瞬驚きの表情を浮かべた後、僕だけじゃなくイリスさんやユイの頭もぽかりと叩きます。

「貴女達ねぇ、少しはエルフ族の事を学びなさい。精霊樹の『葉』は、精霊樹様が望まない人が持つと輝きを失うっていうでしょ。エルフ族にしてみれば、自分の属する精霊樹様に相応しいかを試されるようなものよ?
 万が一、『葉』が光を失っていたら、ユーリアちゃんはショックで寝込んじゃう処だったのよ?」

 えぇ~、そこまでの物なんですね。ってことは、ユーリアちゃんが泣いているのは、うれし泣きなんですね。僕は、アレクシアさんに頭をなでてもらっている、ユーリアちゃんを見つめます。

「大丈夫に決まってるじゃないですか。逆にユーリアちゃんを認めなかったら、お仕置きしちゃいますよ」

 僕の言葉に、ユーリアちゃんも微笑を浮かべます。

「ありがとうございます。これで、父や母を説得できますよ~」

 あぁ、そうですね。力が落ちるのなら、ミロシュさんもカタリナさんも外出を認めてくれませんよね。アレクシアさんが僕達をみて言います。

「ちゃんと4人で行って許可を取ってきなさいよ。多分私よりもっと怒ると思うけどね。なにせ、エルフにとっては『死の試練』に匹敵する事なんだからね」

 ひえ~、知らないとはいえとんでもなく恐ろしい事をしてしまったのかも知れません。というか、ユーリアちゃんそこまでのモノなら僕たちに教えてよ~。
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