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3.帝政エリクシア偵察録
21.旅の途中⑤
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「あの~、すいません。落ち着かないので、もっと狭い部屋はありませんか?」
客間に案内してくれたフローラさんに、僕はお願いしてみますが、何処も作りは同じですのでとやんわり拒絶されてしまいます。
そもそも、案内された客間が20畳程広さがあります。続き部屋には、これまた大きな天蓋付きのベットがある寝室に、浴室とトイレ(一応水洗でしたよ)が付属しており、ベランダにはテーブルとチェア(しかもどちらも新品です)まであります。その他にも衣裳部屋の様なものまであって、あまりの広さに落ち着きません。
そして、このフローラさんは僕が滞在中は僕付きのメイドさんということで、御用は何なりと申し付け下さいとまで言われてしまいます。エリーゼさんと同い年のお姉さんですが、さる子爵家の次女の方ということで、平民の分際で貴族様の令嬢にお世話をしていただくのに、凄まじい抵抗感を感じてしまいます。
アレキは既にソファーの上で丸まっていますし、落ち着かないとはいえここに居るしかないようですね。
レーナさんが抱えていた、天羽々斬の所在を確認すると、衣裳部屋のタンスの中に収納されていましたが、室外に出るときはお預け下さいと言われてしまいます。
僕の扱いは、お嬢様の個人的なお客人という事になっているそうなので、本館の方へ顔を出す必要が無いのが幸いですね。公爵閣下とご対面など、今後も考えると避けたい(といっても、オリバーの婚約者であるエリーゼさんに会った時点で破綻してる気もしますが……)ところですしね。
フローラさんが紅茶とクッキーを用意してくださいましたが、大変美味しい物でした。紅茶を頂きながら、フローラさんが話し相手になってくれます。
前世日本での感覚で、ついメイドという言葉で一括りにしてしまいがちですが、実は立場があるようです。
僕が普通に想像するメイドさんは、家事や多彩なお仕事をするイメージですが、そちらはメイド・オブ・オール・ワークという中産階級で雇われるタイプですね。上流階級ではメイドの仕事も細かく分業されているようです。こちらは、ハウスキーパーやメイド長の元に屋敷単位で雇われる一般の賃金で雇われる女中です。上流階級のお屋敷では身分を明確にする為に、制服としてのメイド服を着用することもあるようです。
それに対して、ご主人の身の回りのお世話をする担当の方は、単にメイドと人くくりに出来ません。
ヘルガさんはエリーゼさんの相談役であるレディズコンパニオンという立場なのだそうですね。クラウディウス家に連なる、さる侯爵家の次女なのだそうです。エリーゼさんに学問・武術を教えた家庭教師でもあったそうです。なので、普通は相談役と呼ばれるそうですよ。
ヘルガさんも貴族だとは思ってましたが、よもやの侯爵家の令嬢ですか。知らなかったとはいえ、2人との勝負になりそうだった時に使った手のまずさに、僕の背中を冷や汗が伝います。うん、なるべく早く逃げる事にしましょう。
レーナさんは、レディースメイドで侍女と呼ばれる立場となりますが、どちらかというと御忍び外出の為の要員で、普通はお客様の前には出てこない形になるとのことですね。
フローラさんも侍女となり、屋敷内の立場ではレーナさんより上なのだそうです。
外出先での行事がある場合は、フローラさんも伴う事があるようですが、前回は御忍びと言うこともあり此方でお休みを頂いて、同伴はしなかったとの事ですね。
フローラさんもレーナさんも、メイド服は着ることは無く、エリーゼさんの服や靴、髪などのお世話をするのがメインだそうですね。ラノベなんかではメイド服をきた女性が、着付けやお風呂での身体を洗う事までしていたイメージがありますが、その辺はご主人様次第との事です。旅行や外出にも同伴しますし、こちらの邸宅に自分の部屋も持っていますし、食事もご主人様であるエリーゼさんと取ることも多いようです。彼女が本邸に行っているときは別ですが。
エリーゼさんはまだ社交界に出ていないので、フローラさんもさほど活躍の場は無いようですが、今後は活躍の場が沢山ありそうですと喜んでいるようです。確かにこのまま行けば、王宮にエリーゼさん付きで入る形になりますから、上流階級のパーティーなどへの同伴は、大きなチャンスになりますものね。
「私達もそうですが、こちらのお屋敷付きになったハウスキーパーの方々も、クロエさんの来訪を喜んでいるんですよ?」
フローラさんはそう言って笑います。なんでも、自分達が完璧に仕事をしている自身はあるものの、来客もないこのお屋敷ではいささか張り合いが無い事もあったとか。
そこに来て、第2王子オリバーとの婚約が決まった事で、来客がくる事が増えるだろうと予測はされるものの、いきなり公爵家や侯爵家の方々の相手はすこし気後れがするようですね。僕だと平民ではあるものの、お嬢様の直接的なお友達という立場から、練習台にはもってこいという感じらしく、ここ数日はハウスキーパーであるメイドさん達も大変な気合の入り方でお掃除などを進めていたそうです。
先程、抜剣して入ってきた護衛のメイドさん方も、初仕事でわくわくしていたようですよと、花の咲く様な笑みを浮かべます。
はぁ、まあ多少は役に立ったのなら喜ばしい限りですね。でも、フローラさんの予行演習にはなりませんでしたね。僕の相手では、他の貴族令嬢との話の練習にはならないでしょうから。僕がそう言うと、フローラさんはそうでも無いですよといいます。
「立ち居振る舞い等は即席ではどうにも為りませんもの。初めてお会いする人との話題の選び方や、感情の読み取りなどは十分練習させていただいていますよ」
と、おっしゃいます。むぅ、流石は侯爵家の侍女となられる方ですね。そういえば、ユイも小さい頃からアレキサンドリアに出てきていたのに、立ち居振る舞い等は皇女様でしたもんね。日頃の訓練が大事ということなのでしょうね。
「もしかすると、フローラさんも実は武術の達人だったりします? お側付きとなると、護衛も兼ねているでしょうから」
僕の言葉に、フローラさんは笑って答えます。
「エリーゼ様はご自身で十分身も守れますし、常にヘルガ様が共にいらっしゃいますから、身に危険の及ぶ事はありませんよ。そもそも、危険のある場所に行かせないのも努めですので。でも、王子の婚約者ともなれば、多少は危険も増えてしまいますわね」
なるほど、そもそも危険な場所に行かせないというのもお仕事なのですね。でも、だからと言って心得が無いとも思えないのですが。
僕が疑惑の眼差しで見ているので、フローラさんが小声で少しだけ失礼しますねと呟きます。にっこり笑って僕の左腕に手を添えた途端、あっという間に腕をひねられて体を前に引っ張られました。テーブル上に付した僕の左鎖骨の隙間に、20cmほどの刃渡りの小刀が突きつけられています。
僕の顔がひきつっているのをみて、左手を離してくれました。
「私にはこの程度の、女性としての立場を利用して、虚をついて相手を制するくらいしか出来ませんわ」
と、花開くような笑みを浮かべますが、正直小刀を取り出すところは見えていませんでしたよ。速度というより、マジックに近いですね。別な所を意識させている間に取り出したのでしょうけど、左鎖骨の間から真っ直ぐ小刀を突き入れれば、15cmほどで心臓ですからね。相手を即死させる殺法です。
しかし、公爵令嬢のエリーゼさんでこんな方が側付きなんですね。オリバー、君って本国からかなり雑に扱われていないか?(アレキサンドリアが側付きの入国を認めていない事を、このときの僕は知りませんでした)
そんな風に半日を過ごし、夕食はエリーゼさんやヘルガさん、レーナさん、フローラさんと歓談しながら摂らせて頂きました。旅の話も当然の如く聞かれますので、コボルトの件や盗賊の件をある程度脚色して、面白おかしく伝えます。その後は客室でお休み下さいと、ヘルガさんに伝えられますが、レーナさんがお風呂へ入るの手伝おうかなどと、ニヤニヤ笑いながら僕に言って、フローラさんに窘められたりと、面白おかしくすごし、やたらと豪華でふかふかな天蓋付きのベッドでの就寝となりました。
客間に案内してくれたフローラさんに、僕はお願いしてみますが、何処も作りは同じですのでとやんわり拒絶されてしまいます。
そもそも、案内された客間が20畳程広さがあります。続き部屋には、これまた大きな天蓋付きのベットがある寝室に、浴室とトイレ(一応水洗でしたよ)が付属しており、ベランダにはテーブルとチェア(しかもどちらも新品です)まであります。その他にも衣裳部屋の様なものまであって、あまりの広さに落ち着きません。
そして、このフローラさんは僕が滞在中は僕付きのメイドさんということで、御用は何なりと申し付け下さいとまで言われてしまいます。エリーゼさんと同い年のお姉さんですが、さる子爵家の次女の方ということで、平民の分際で貴族様の令嬢にお世話をしていただくのに、凄まじい抵抗感を感じてしまいます。
アレキは既にソファーの上で丸まっていますし、落ち着かないとはいえここに居るしかないようですね。
レーナさんが抱えていた、天羽々斬の所在を確認すると、衣裳部屋のタンスの中に収納されていましたが、室外に出るときはお預け下さいと言われてしまいます。
僕の扱いは、お嬢様の個人的なお客人という事になっているそうなので、本館の方へ顔を出す必要が無いのが幸いですね。公爵閣下とご対面など、今後も考えると避けたい(といっても、オリバーの婚約者であるエリーゼさんに会った時点で破綻してる気もしますが……)ところですしね。
フローラさんが紅茶とクッキーを用意してくださいましたが、大変美味しい物でした。紅茶を頂きながら、フローラさんが話し相手になってくれます。
前世日本での感覚で、ついメイドという言葉で一括りにしてしまいがちですが、実は立場があるようです。
僕が普通に想像するメイドさんは、家事や多彩なお仕事をするイメージですが、そちらはメイド・オブ・オール・ワークという中産階級で雇われるタイプですね。上流階級ではメイドの仕事も細かく分業されているようです。こちらは、ハウスキーパーやメイド長の元に屋敷単位で雇われる一般の賃金で雇われる女中です。上流階級のお屋敷では身分を明確にする為に、制服としてのメイド服を着用することもあるようです。
それに対して、ご主人の身の回りのお世話をする担当の方は、単にメイドと人くくりに出来ません。
ヘルガさんはエリーゼさんの相談役であるレディズコンパニオンという立場なのだそうですね。クラウディウス家に連なる、さる侯爵家の次女なのだそうです。エリーゼさんに学問・武術を教えた家庭教師でもあったそうです。なので、普通は相談役と呼ばれるそうですよ。
ヘルガさんも貴族だとは思ってましたが、よもやの侯爵家の令嬢ですか。知らなかったとはいえ、2人との勝負になりそうだった時に使った手のまずさに、僕の背中を冷や汗が伝います。うん、なるべく早く逃げる事にしましょう。
レーナさんは、レディースメイドで侍女と呼ばれる立場となりますが、どちらかというと御忍び外出の為の要員で、普通はお客様の前には出てこない形になるとのことですね。
フローラさんも侍女となり、屋敷内の立場ではレーナさんより上なのだそうです。
外出先での行事がある場合は、フローラさんも伴う事があるようですが、前回は御忍びと言うこともあり此方でお休みを頂いて、同伴はしなかったとの事ですね。
フローラさんもレーナさんも、メイド服は着ることは無く、エリーゼさんの服や靴、髪などのお世話をするのがメインだそうですね。ラノベなんかではメイド服をきた女性が、着付けやお風呂での身体を洗う事までしていたイメージがありますが、その辺はご主人様次第との事です。旅行や外出にも同伴しますし、こちらの邸宅に自分の部屋も持っていますし、食事もご主人様であるエリーゼさんと取ることも多いようです。彼女が本邸に行っているときは別ですが。
エリーゼさんはまだ社交界に出ていないので、フローラさんもさほど活躍の場は無いようですが、今後は活躍の場が沢山ありそうですと喜んでいるようです。確かにこのまま行けば、王宮にエリーゼさん付きで入る形になりますから、上流階級のパーティーなどへの同伴は、大きなチャンスになりますものね。
「私達もそうですが、こちらのお屋敷付きになったハウスキーパーの方々も、クロエさんの来訪を喜んでいるんですよ?」
フローラさんはそう言って笑います。なんでも、自分達が完璧に仕事をしている自身はあるものの、来客もないこのお屋敷ではいささか張り合いが無い事もあったとか。
そこに来て、第2王子オリバーとの婚約が決まった事で、来客がくる事が増えるだろうと予測はされるものの、いきなり公爵家や侯爵家の方々の相手はすこし気後れがするようですね。僕だと平民ではあるものの、お嬢様の直接的なお友達という立場から、練習台にはもってこいという感じらしく、ここ数日はハウスキーパーであるメイドさん達も大変な気合の入り方でお掃除などを進めていたそうです。
先程、抜剣して入ってきた護衛のメイドさん方も、初仕事でわくわくしていたようですよと、花の咲く様な笑みを浮かべます。
はぁ、まあ多少は役に立ったのなら喜ばしい限りですね。でも、フローラさんの予行演習にはなりませんでしたね。僕の相手では、他の貴族令嬢との話の練習にはならないでしょうから。僕がそう言うと、フローラさんはそうでも無いですよといいます。
「立ち居振る舞い等は即席ではどうにも為りませんもの。初めてお会いする人との話題の選び方や、感情の読み取りなどは十分練習させていただいていますよ」
と、おっしゃいます。むぅ、流石は侯爵家の侍女となられる方ですね。そういえば、ユイも小さい頃からアレキサンドリアに出てきていたのに、立ち居振る舞い等は皇女様でしたもんね。日頃の訓練が大事ということなのでしょうね。
「もしかすると、フローラさんも実は武術の達人だったりします? お側付きとなると、護衛も兼ねているでしょうから」
僕の言葉に、フローラさんは笑って答えます。
「エリーゼ様はご自身で十分身も守れますし、常にヘルガ様が共にいらっしゃいますから、身に危険の及ぶ事はありませんよ。そもそも、危険のある場所に行かせないのも努めですので。でも、王子の婚約者ともなれば、多少は危険も増えてしまいますわね」
なるほど、そもそも危険な場所に行かせないというのもお仕事なのですね。でも、だからと言って心得が無いとも思えないのですが。
僕が疑惑の眼差しで見ているので、フローラさんが小声で少しだけ失礼しますねと呟きます。にっこり笑って僕の左腕に手を添えた途端、あっという間に腕をひねられて体を前に引っ張られました。テーブル上に付した僕の左鎖骨の隙間に、20cmほどの刃渡りの小刀が突きつけられています。
僕の顔がひきつっているのをみて、左手を離してくれました。
「私にはこの程度の、女性としての立場を利用して、虚をついて相手を制するくらいしか出来ませんわ」
と、花開くような笑みを浮かべますが、正直小刀を取り出すところは見えていませんでしたよ。速度というより、マジックに近いですね。別な所を意識させている間に取り出したのでしょうけど、左鎖骨の間から真っ直ぐ小刀を突き入れれば、15cmほどで心臓ですからね。相手を即死させる殺法です。
しかし、公爵令嬢のエリーゼさんでこんな方が側付きなんですね。オリバー、君って本国からかなり雑に扱われていないか?(アレキサンドリアが側付きの入国を認めていない事を、このときの僕は知りませんでした)
そんな風に半日を過ごし、夕食はエリーゼさんやヘルガさん、レーナさん、フローラさんと歓談しながら摂らせて頂きました。旅の話も当然の如く聞かれますので、コボルトの件や盗賊の件をある程度脚色して、面白おかしく伝えます。その後は客室でお休み下さいと、ヘルガさんに伝えられますが、レーナさんがお風呂へ入るの手伝おうかなどと、ニヤニヤ笑いながら僕に言って、フローラさんに窘められたりと、面白おかしくすごし、やたらと豪華でふかふかな天蓋付きのベッドでの就寝となりました。
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