駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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3.帝政エリクシア偵察録

2.街外れの教会

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 獣人狩りとコボルト&狼の戦いを上から観察しています。獣人狩りの男たちは、岩壁を背に半円の形で守りを固めていますが、左右両端の男達に一頭ずつ狼が飛び掛ります。男達は手に持つショートソードで迎え撃とうとしますが、別な一頭が鎖帷子くさりかたびらの上から腕に噛み付きました。最初の一頭は直ぐに飛び離れています。

 「野犬というには、連携の取れた狩りですね。」

 思わず呟いてしまった僕ですが、それが聞こえたのか男の1人が叫びます。

 「馬鹿野郎、こいつらは野犬なんかじゃねえよ。こいつらは灰色小狼だ。なんで、コボルトなんかと一緒に!」

 そういう男も結構ボロボロになってきていますね。コボルトが正面から棍棒を振るってくるのを、剣で防御すると脚を狼に噛まれます。噛んだ狼は、直ぐにバックステップで離れて、次の一頭やコボルトがチャンスをうかがう形で、獣人狩りの男達の体力をどんどん奪っていきます。たまらず、1人の男が叫びました。

 「おい、糞餓鬼。さっさと助けろ!」

 ? 何を言っているんでしょうね、この人達は。助けたら僕を捕まえて売るのでしょう?

 「助けても何も良い事無いじゃないですか?」

 僕がそう言うと、男達の一人が言いました。

 「頼む。もう獣人狩りなんかから足を洗って出直すから。それに、目の前で俺達がやられるのを見たら、お前も目覚めが悪いだろう?」

 はぁ、自分達は泣いて命乞いをする獣人さんを捕まえて、売りさばいてきたくせに、そんな事を言われても説得力がありませんね。それに、僕は先程から微かに聞こえる音? の方に注意がいきますし。

 「別に狼やコボルトが人間を襲うのは、僕には関係無い事ですよ。そこで襲われているのが善良な人じゃない限りね。」

 僕の言葉に舌打ちした男の1人が、起こってこちらに剣を振りかざしますが、馬鹿ですね。背後にコボルトや狼がいるのにそんなことしたら……
 男の頭に、コボルトの振りかざした棍棒が直撃して、思わず膝をついた処に、喉笛狙って狼が喰いつきます。ガフっと短い絶命の音が聞こえて、男が1人倒れました。首がありえない方向に曲がっています。狼やコボルト側にも怪我をするものもでますが、数と連携が違いますね。疲労で動きが鈍り始めた男達に対して、体力的に余裕の狼&コボルトが1人、また1人と男達を倒していきました。
 結局全ての獣人狩りの男達は、その場で倒れ、狼がこちらを見上げて威嚇をしている中、コボルト達が男達から装備や荷物を奪っていきます。最後は下着姿になった遺体となりましたが、狼の中で一番大きい一頭が僕を見て遠吠えをあげると、あとは僕の方を見向きもせずに、背を向け離れていきました。そして、遠吠えと前後して微かに聞こえていた音も消えます。

 残された僕は、周囲を魔法で確認します。

 「《索敵An enemy is detected》」

 そして気付きました。まだ時間が経っていないにも関わらず、索敵エリアの中にコボルトや狼達を示す反応が無い事に。どうやら、彼らは僕に危害を与えるつもりは無かったようですね。それは僕が兎人族に見えたからかどうかまではわかりませんが。

 降りて確認してみますが、5人とも息はありませんね。自業自得といえば自業自得ですし、先程の狼の遠吠えで街から人が来るかもしれません。まあ、彼らの傷をみれば僕がやったのでは無い事もわかるでしょうし、先程聞こえていた微かな音も気になりますね。まずは街道まで戻ってみましょう。

 街道まで戻る間に誰にも会いませんでしたし、街から人が来る気配もないですね。鳥のさえずる声や、風で木々がざわめく音、虫の音しか聞こえません。とりあえず、街までの道には、教会の方向へ分かれる道は無かったのですから、先を進んでみるとしますか。

 索敵魔法を展開しながら街道を進むと、やがて右にはいる道を見つけましたが、草が生えたりしていて、長期間人の出入りが少ない事がわかります。昔はかなりの人が歩いていたのでしょう、石畳が綺麗に整備されているというのに、どうしたのでしょうね。石畳の先には教会の尖塔が見え隠れしています。
 石畳のお陰で歩きにくさはありませんが、人が通わない教会ですか。廃教会とかだと嫌ですね。イリスさんが苦手なものが出そうです。そんな事を目の前でいったら、きっと『そ、そんなわけないでしょ。クロエが怖いなら帰っても良いのよ?』なんて言い返すんでしょうね。そんな事を思いながら歩いていくと、漸く頂上というか目的地の教会に着きましたよ。
 幸い、思ったほど荒れていないですね。窓も割れている場所はありませんし、外壁も綺麗です。なにより、教会の周囲はラベンダーの花が咲き乱れています。

 「うわぁ、綺麗に手入れされていますね。」

 思わず僕が呟くと、背後教会の入り口側からくすくす笑いが聞こえてきました。振り向いた僕の目に、20歳位の女性と右隣にいる明らかに狼と判る存在が目に飛び込んできます。

 「驚かしてゴメンナサイね、お嬢さん。お花を褒めてくれてありがとう。」

 女性は修道女の服を着ていますが、僕が知る修道服とは様子が少し違いますね。全体的な雰囲気は似ているのですが、薄い紺色の毛織の服に、背と胸に白い綿の肩掛けを三角に垂らしています。頭は白い額当ての上に、淡い紺の帽子と一体になったベールを着けていますね。ベールがなければ、畑で作業している女性達と余り変わりはありませんね。
 それよりも隣の狼ですよ。体長は2m近いでしょうね。真っ黒な体毛は酷くふわふわしているように見えますし、雰囲気に剣呑な様子はありませんが、先程見かけた狼よりも遥かに大きく、一噛みで鎖帷子ごと腕を持っていかれそうですね。
 あれ? それに僕をお嬢さんっていいましたよね。見かけでは判らないと思っていたのですが、女性からみると判ってしまうのでしょうか?

 「いえ、こちらこそいきなりお邪魔して申し訳ありません。でも僕は女の子じゃ……」

 僕の答えに再び女性は笑みを浮かべます。

 「ごめんなさいね。女性と隠しているとは思っていなかったので。この子には隠しても判るんですよ。」

 そういって、隣の狼の頭をなでます。むぅ、さすがに狼の嗅覚までは誤魔化せませんか。実際体臭まで誤魔化すのは面倒なのと、自分でも嫌なのでそこまでする気は有りませんでしたしね。というか、狼と意思疎通できているのでしょうか?

 「折角お越しいただいたのですから、お茶でもいかが?」

 彼女はそう言うと、建物の中に戻っていきます。もちろん狼さんも後をついていっています。彼女はテイマーの能力でもあるのでしょうか? 僕は彼女の後について行き、お茶をご一緒します。
 彼女の名前はソフィアさんといい、ここはルキウス教西方教会の教会との事です。先程の黒い狼は、日のあたる場所で丸くなると眠っているように見えますね。その隣に、一回り小さな白い狼がいるのにも僕は驚きましたが。
 僕もルキウス教の事は良く知らないので、折角だからいろいろ聞かせてもらいました。簡単にまとめると、もともとルキウス教は色々な宗派があり、同じ一神教でも西方教会は単一神教で、他の神々の存在を認め、他の神々は主神ルキウスが土地毎の言語や信仰で見え方や名前の変わった物であり、全ての神はルキウスを示すという柔軟な姿勢です。
 それに対して東方教会というのは、絶対的一神教であり、絶対神ルキウス以外の神は存在しないという立場です。他の神は全て絶対神ルキウスに対する悪魔となり、全ての知識は神のものであり、教会が全てを管理する。神秘的な力は、神の奇跡のみ。魔法は存在せず、全てまやかしか悪魔によるものであり、神の奇跡は信心深い宗教者によりもたらされるという考え方らしいです。
 極論すれば、結局ルキウス神以外を認めるか認めないかの話ですね。当然強硬な東方教会の主張は、他の神々を要していた地域には馴染めず、衰退していったとのことでした。

 「はぁ、同じ神を信仰する宗教でも、色々違うものなんですね。」

 僕は素直にソフィアさんに感想を話します。にっこり笑ったソフィアさんですが、その後その表情は物悲しそうに変わります。

 「衰退したはずの東方教会は、自身の教区をエリクシアが攻略した時に、賭けにでて成功したのです。エリクシア軍は神軍であり、異端や異教徒は全て滅ぼされると触れ回り、ほぼ無血で領土を手に入れたエリクシアは東方教会を保護しました。結果、西方教会は異端として地を終われ、この地の主教も……」

 はぁ、どこぞの初期の宗教にもありましたね。ということは、アレキサンドリアに要求を突きつけたのも東方教会と考えてよいのでしょう。ソフィアさんだけの話で決め付けるのは良くないので、まだまだ情報収集が必要ですね。
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