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2.いつか醒める夢

18.桜舞う丘の上で①

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 朝晩はまだ寒いですが、日中の気温もだいぶ上がってきた小春日和のお昼です。いつものメンバーで、屋外のカフェテラスで昼食をとっていた僕は、何気なく呟いてしまいます。

 「あ~、お花見したいかも……」

 そんな僕の言葉に、真っ先に口を挟むのはいつもイリスですね。

 「なによ、お花見って。花なら花壇にも沢山咲いてるし、今だって出来るでしょう?」

 確かに、カフェテラスの周りは、噴水と花壇や鉢植えの草花で彩られています。お店の敷地ではないけれど、お店のお姉さん達が開店前にキチンと掃除をしているんですよ。あぁ、話がそれました。今はお花見の話でしたね。

 「東方では、梅・桃・桜の咲く時期に、親しい友人達と茶会を開いたりする事がありましたが、それとは違うんでしょうか?」

 ユイの言葉に僕は答えます。

 「ん~、それが一番近いかも。みんなで桜の花をみて楽しく過ごすんだよ。でも、アレキサンドリアでは、あの桜色が山々にも見えないから、樹が無いんだろうね。」

 僕がそういうと、ユーリアちゃんが僕とユイにどんな樹で、どんな花かを聞いてきます。

 「そうですね。一本の幹から枝を大きく広げていて、花が咲くときは木の枝が、まるで白や薄い桃色の花で飾りつけられた様に見えます。咲き始めから2週間程度で散ってしまうのですが、花弁が風に舞って、吹雪のように見える事もありますよ。」

 「そうだね。満開の桜もいいけど、散り際も僕は好きだなぁ。」

 ユイと僕が2人で思い出しながらユーリアちゃんに説明します。イリスはなにか機嫌が悪そうですね。

 「クロエって結構東方系のいろんなことに詳しいわよね? 今もユイと同じものを見た事があるような話し方してるし。」

 おっと、変な方向から突込みが着ましたね。東方は確かに日本に居た頃の風習と似たようなものが多いのは事実ですね。アイオライトも俗に言う『スーパーアース』なのかな。地球に似ているからと言って、文化的に同じようになるわけではないはずですが、結構似ていますね。
 桜の木の話を聞いて、考え込んでたユーリアちゃんですが、心当たりがあったのか表情が変わったように見えますが、気のせいでしょうか? 顔色が良くありません。

 「ユーリアちゃん? 顔色が悪いけど大丈夫? 具合が悪いのなら無理しないほうがいいよ。」

 僕が言葉を掛けると、イリスとユイもユーリアちゃんを観て同じような事を言います。僕の気のせいじゃなかったんですね。

 「いえ、具合が悪くて顔色が悪いわけじゃないと思います。多分違うとは思うんですが、エルフ領に『桜』に似た樹の伝説があるのですが……」

 えっ、桜がアイオライトっていうか、アレキサンドリアにあるの? 見てみたいかも。僕の考えてる事がわかったのか、ユーリアちゃんが続けます。

 「……その樹は呪いの樹だといわれているんです。樹の根元に死体が埋まっているとも、樹の根元の洞から魔物がわくとも言われています。だから、咲く花の色は血に染まった色をしているのだと。」

 あ~、確か日本でも桜の樹の下には遺体が埋まっているって書いていた文豪さんもいらっしゃいましたしね。それくらい妖艶な魅力があるということなのでしょうけど。あれ、イリスの顔色が良くありませんね。この手の話は好きじゃないのかな。僕がそんな事を考えてると、ユーリアちゃんの言葉が続きます。

 「その樹はエルフ領の北ギリギリにあると言われていますが、伝説が示すとおりに、途中には魔物・魔獣の密生地帯があって、たどり着けた人は居ないんですよね。しかも、女性だけでないとたどり着けないとも言われています。なのでエルフの中でも御伽噺おとぎばなしになっています。」

 なるほど~、でも本当に桜かどうかは見ていたい気もしますね。

 「ユーリアちゃん、その樹のある場所ってエルフ族の聖域かなにかになっているの? 立ち入るには許可が必要とか。」

 「ちょっとクロエ、貴女行くつもりなの? 危ないのよ!」

 僕がそういうと、イリスが僕を制止します。まあ、まともに言ったら危ないでしょうね。でも、行ける所なら見てみたいですし、見るだけなら陸路以外で行けば良いだけですしね。

 「立ち入りの許可は要らないはずですが、魔獣・魔物が多くて近寄れませんよ。魔獣はタイラントボアが弱いほうで、他にもタイラント系の熊や蛇も居たはずですし、魔物もコボルト・ゴブリン・オーク・オーガ当たりまでは見かけるそうですから。
 樹に近づくほど強力な魔物・魔獣が出るという話ですから、トロールあたりまでは出るかもしれません。アレクシアさんも許可はしないと思いますよ。別な意味で禁域ですから。」

 ユイも桜は見てみたいけど、危ないのはって顔をしていますね。

 「いや、ちょっと様子を見てくるだけだよ。」

 ここで、僕は声を潜めます。

 「……空からね。」

 「「「空?」」」

 僕が慌てて人差し指を口の前に立てると、3人ともあわてて口をつぐみます。周囲を見渡しますが、特にこちらを気にしている人は居ないようですね。僕はそう思ってましたが、実は周囲の人達は、また変な事をやろうとしてるけど、あのメンバーじゃ仕方ないかと思っていると知ったのは随分後の事でした。

*****

 「と言う訳なんですが、行ってもいいですか?」

 僕はアレクシアさんにその晩相談しました。アレクシアさんは胡乱うろんな目で僕を見ています。

 「本当に見るだけ? 魔物や魔獣がいたら、直ぐに引き返せるの?」

 「空から探索して、危険であれば地上には降りませんし、何かあったら引き返しますよ。僕だけならまだしも、他の子も行くんですから。まあ、彼女達も許可が取れたらですが。」

 僕の言葉にアレクシアさんはため息をつきました。

 「今回は貴女とイリスちゃんだけじゃないんだからね。物見遊山で出かけたいといって、はいそうですかって訳には行かないのよ?」

 「でも、本当に魔物や魔獣の沸くポイントでしたら、今後の役にも立つと思うんですよね。仮に他の何か見つかっても、写真や動画をとるだけで何もせずに帰ってきますから。」

 大きなため息をついたアレクシアさんは、言いました。

 「今回は、家だけじゃないんだから私だけでは決められないわ。明日、リリーやユイちゃんのところのイェン、ユーリアちゃんのお父さんお母さんと相談してみるわ。」

 「最悪僕だけでもいいですよ。みんなが怪我するのも嫌ですし。」

 僕の言葉に、アレクシアさんはだったら最初からこんな話をしないでよと呟きながら、手を振りました。

*****

 翌日の夕食の時です。アレクシアさんが嫌そうに言いました。

 「まず、周辺の情報よ。場所はエルフ領の北端で合ってるわ。伝説では中央に丘があって、ピンク色の花が咲く樹があるということよ。丘の周囲は平坦で、安全と言われているわ。
 ただし丘の周囲は、魔物・魔獣の巣窟で、丘に近づけば近づくほど強力な魔物、魔獣が出現するとの事よ。伝説では、清らかな乙女だけがたどり着けるらしいわね。」

 アレクシアさんは、一度言葉を切りました。一息ついて言葉を続けます。

 「確かに、あの辺はアレキサンドリア唯一の空白地帯なのよね。確かに情報は欲しい所ではあるけど、その為に貴女達を犠牲にするんじゃ割があわないわ。
 いいわね、ホントに少しでも危険なら地上に降りない事。トロールが居る可能性が有るらしいから、飛行高度は高めにとるのよ。何かありそうだったら、直ぐに離れて帰ってくる事。これがきけないなら、次はもう無いですからね。」

 珍しく、本気で心配しているアレクシアさんに、僕も誓います。

 「僕だけじゃないので、必ず約束は守ります。心配しないで下さい。」

 「あ、万が一の為に、エマとジェシーも連れて行くのよ。2人は貴女が無茶したりしないように、危険な時は引き上げるように伝えておくわ。出かけるのなら、それが最低限の条件よ。」

 アレクシアさんの追加の言葉に、僕は眉をひそめてしまいます。

 「それだと6人になって、ドローンモドキ1DM1に全員乗れなくなっちゃいますよ。」

 僕がそういうと、アレクシアさんは指を立てて言いました。

 「クロエちゃん、エリックがあんな面白いものを、何時までも手を付けないと思ってたの? 今では改良された2号機があるわ。2号機なら大人6人でも大丈夫なはずよ。それに、貴女が作ったカメラと録画機構が付いているわ。目標が見えたら撮影を開始して、上空から全景を収めて頂戴。個別のものは貴女方のカメラの映像に収めてくれればいいわ。あと、そこで収めた写真は、今回の参加者以外は見せちゃ駄目よ。」

 な、なるほど。確かにエリックさんが放置する訳はありませんね。モーターも開発当初に比べれば既に高出力のものが生産できていますし、魔力効率もかなり良くなっているはずです。これは期待できそうですね。
 僕達の目的は桜かどうかの確認とお花見が主目的ですからね。お花見ができそうなら、その場でお花見をして帰ってくるだけです。周辺の状況は、素直に依頼事項を守って撮影してきましょう。
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