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2.いつか醒める夢

3.デモンストレーション

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 その日もいつもと少し違った朝でした。といっても僕がエマと2人で朝食を作っているだけですが。エマとジェシーの料理の腕は、教えた人の再現となっているので、自分がメシマズだと二人の作る料理もメシマズになります。
 紅茶などは、僕からは絶対教わらないようにと、アレクシアさんとイリスから言われていると、二人から聞いたときはかなりOrzになりましたが、料理自体はまずまずの腕と自画自賛していますよ。

 「クロエちゃん、お願いがあるんだけどな。」

 食後の紅茶の席で、アレクシアさんが両手を顎の下で組んで、言いました。

 「? なんです。学院が始まっているから、お使いにはいけませんよ?」

 かつて同じフレーズで行かされたエルフ領へのお使いを思い出します。

 「安心して。今回はイリスちゃんと一緒に、新入生と留学生の前で魔法を使った戦闘のデモンストレーションをして欲しいの。」

 「新入生はいいとしても、留学生の前で魔法をみせちゃ不味いんじゃないんですか?」

 僕の質問に笑ってアレクシアさんは答えます。

 「まあ、ほんとはこちらの手の内を見せるのは良くないんだけどね。クロエちゃんの魔法なら、見ていても何が起きているか解らないんじゃないかなって思うのよね。
 それにあの子達留学生は、自分が優秀だと思っているの。だから最初の試技の相手は、程ほどに4大精霊魔法でやっつけて欲しいのよね。
 その後、希望者に2人に挑戦してもらうから、あの子達留学生が出てきたら、大怪我をしない程度に心をへし折って欲しいのよ。」

 うわぁ~、えげつない気がとてもします。

 「それって必要なんですか?」

 僕の問いに、にこやかに笑ってアレクシアさんは答えました。

 「そうね、教育者としてなら不要と答えるわね。
 でも、為政者としてなら必要と答えるわ。何時かは彼らの母国はこの国を攻めてくる。必ずね。であれば、攻めてきたらどうなるかということを最初に知らしめておくことも抑止力になるはずよ。」

 ん~、確かにそれは事実でしょうけど、所詮子供の言う事と真面目に取り合わないんじゃないかな。僕がその点を告げると、アレクシアさんは言いました。

 「いいのよ、それで。普通は子供のいうことなんて取り合わない。彼らの親でもね。でも、10年後に攻めてくる軍勢の先頭に彼らが居る可能性は非常に高いの。彼らは王族なのだから。
 その時、指揮官に絶対の勝利への確信がなければ、彼らに勝ち目はないわ。どんな優秀な軍勢でもね。その為の布石と思って頂戴。」

 はぁ、闘う事が前提であれば仕方はありませんね。実際、戦いなんてつまらない理由で始まる場合も多いことは知っています。
 まして、中世であれば地球でだって自分の信じる神の為に、なんら罪の無い人々を虐殺してきた歴史もありますからね。彼らが自分達とは異なる神を信じているというだけで……

*****

 「そこまで!」

 教官の制止の声に、僕は先を丸めた円錐状の氷柱Cone of iceの速射を中止します。先端を丸めてありますので、大怪我をする人は居なかったでしょう。
 成人した男女6人パーティーでしたが、質量を持った氷柱は、魔法障壁では防げません。盾に守られた魔法使いから時々放たれた魔法も、イリスのシールドに阻まれ、剣士などの近接職は接近することも出来ずに倒れています。さすがにやり過ぎましたかね。半球状に彼等を包囲するよう放った氷柱に、全身を打たれて倒れている彼等を見て思います。
 ユーリアちゃんは、クロエ様凄いとかいってますが、様付けはやめて欲しいなぁ。僕の後ろでは、イリスが暇そうにしています。

 「さぁ、攻撃魔法Ⅲを受講することが決まった先輩が、新入生諸君の挑戦を受けてくれるそうだ。
 もちろん、多少の怪我はするかもしれないが、金髪のお姉さんがキチンと治してくれるから安心して挑戦して良いぞ」

 教官の声に、新入生の中から悲鳴やうめき声があがります。まあ、これを見せられて自分が闘おうとするなら、余程の自信があるかでしょうけど、僕らが10歳以下だからと舐めて来るなら遠慮せずに相手しますよ?

 そして、教官に手を挙げた3本の手。はぁ、やっぱりきますか。見知らぬ男子が2名と、リンですね。周囲の新入生や、同級生はそのチャレンジャー精神に感心しています。大概の人は、僕とイリスがたいして力を出してないことは知っていますしね。
 教官が彼らと話をした後、こちらにやって来ます。僕とイリスは二人揃って教官の話を伺います。
 
 「さて、確認させて欲しい。彼らのうちの一人は銃を実弾で使用したいそうだ。万が一当たり所が悪ければ、君達を殺す事になるかもしれないといっているが、どうする?」

 その質問に僕が答える前に、イリスが答えます。

 「あら? こちらを殺しに来るのでしたら、相応の反撃をさせて頂きますが宜しいという事ですわね。こちらは胸を貸す立場なので、無慈悲なマネはいたしませんが、怪我位は覚悟して頂きますわよ?」

 ……イリスさん、怒ってますね。僕は肩を竦めますが、教官とはアレクシアさん経由で既に話はついています。

 「男子はどちらも過去にアレキサンドリアを攻撃してきた国の第2、第3王子だ。帝政エリクシアは今でも併合の時期を狙っているしな。完治できる傷なら構わないとのお達しだ。やっちまいな!」

 僕は呆れて口を開きます。

 「教官が、片方を贔屓ひいきしちゃ不味いんじゃないですか?」

 「俺は教官である前に、アレキサンドリアの国民なんだよ。よそ者よりは、お前達を応援するに決まっているだろう。」

 にやっと言う表情で笑うと、教官は彼らの居る場所へと戻ります。僕は、イリスをみて確認します。

 「イリス、本気でやるんですか?」

 僕の声に、イリスは力強く頷きます。

 「彼らが将来銃を使って、この国を蹂躙じゅうりんしようとするのが確実ならば、わざわざ時間を差し上げる必要はありませんわ。敵の銃が進化して、完成形を迎える前に、突出させて叩きのめしますわよ。」

 はぁ、まあ僕としては殺さずに済むなら、それが一番良いのですけどね。さて、恐らく開始と同時に初弾を撃ってくるでしょうね。彼らも僕が養子である=替えがきくと思っているでしょうから、実弾で狙うのなら僕でしょう。
 先手で僕を倒した後、イリスを前衛の盾を構えた仲間が押さえる感じですね。リンは、戦闘支援か防御専門なのかは解りませんが、攻撃して倒すことにしか目が行っていない男子達ですから、攻撃魔法を放ってくるかもしれません。

 「双方よいか? では、開始5秒前。4、3、2,1、開始!」

 教官の開始の声と同時に、銃声が聞こえました。二重銃身ですか、二発の弾丸が真っ直ぐ飛んでくるようですね。リンが使うのは符術? 詠唱が要らない分、効果が出るのは早いですね。真っ直ぐ突進してくる盾持ちの彼の突進力強化ですか。僕は加速と同時に高速簡易詠唱で魔法を発動します。

 「開け転送門、行くよ、1000倍返し雷帝の槌(微)

 弾丸の片方を、突進してくるたての直前に転送門ゲートを開いて転送します。転送門を通過した銃弾は、加速度を加えられ、もとの1000倍の運動エネルギーを持った状態で電気を纏い、盾に直撃しました。
 盾を貫通させることも出来ますが、あえて盾全面に衝撃と電撃を付与。盾を持ったまま、後方に吹き飛ばされ、次の弾の装填を行っていた男子へと激突します。
 もう1発の弾丸は、イリスが無詠唱で放った、空気の壁エアシールに阻まれ、大きく速度を落として居ます。
 加速しながら、左手でレッグホルスターからガンクロL1を引き抜きます。魔力刃を発生させて、弾丸を真っ二つに切り、ホルスターへ収納。斬られた銃弾は左右に分かれ、僕の後方に飛び去りました。

 先手は譲りましたからね。今度はこちらのターンです。

 「死の大鎌scythe of death

 僕の次の詠唱で、倒れた彼らの真上には巨大な鎌を持った死神の姿が、見えているはずです。死神が振り下ろす大鎌は、彼らの盾と鎧、そして銃を真っ二つに切り裂きました。彼らの身体には傷一つ付けずに。

 リンさんからは、死神の大鎌は見えないでしょうね。2人の男子はどちらも仲良く失神したようですね。電撃で動けない所に、実際に身体を切断する軌道で大鎌が通過したのですから、恐怖をしっかりと刻み込んだはずです。そして、彼らの目には見えていたはずです。死神の背後にも蠢いていた、大量の死神が。
 僕が背後を振り返ると、イリスが左腕から血を流していました。僕が切った弾丸が掠めたようですね。

 「イリスさん、大丈夫?」

 僕の声に、イリスが答えます。

 「この位かすり傷よ。直ぐ治るわ。でも、その前に……」

 そう言うと、イリスは彼らの元へと歩いていきます。符術は事前にどのくらい準備が出来るかで、打てる手が決まってしまいます。急な参戦であれば、打てる手は少ないでしょう。
 リンが、攻撃の気配を見せますが、担当教官に止められます。

 「演習はそこまでだ。君達の実力はわかったが、相手の実力を測れないようではまだまだだと思って、今後の講義に励んで欲しい。」

 教官の言葉にリンは頷きますが、男子2人は失神しているので聞いていませんね。僕は彼らの頭上に水球を生成して、落下させます。ずぶ濡れで目覚めた彼らの前に、イリスが立っています。

 「あなた方の攻撃で、傷を負ってしまいましたわ。良かったですわね、少しは攻撃が通じることが判って。」

 そういうと、イリスは右手で傷をなぞります。その腕にはもう何処にも傷なんかありません。

 「一つ言っておきますわ。今日は手加減いたしましたが、実戦ではそれはありませんよ。他国が攻めるというなら、アレキサンドリアは何時でも全力でお受けするという事を憶えておいてくださいね。」

 折角ですので、僕も一言追加します。

 「次にイリスさんに怪我を負わせたら、僕を確実に仕留めないと、死神の大鎌は確実に君達の命を刈り取るよ? お兄さん達に僕を瞬殺できるかな?」

 僕がそう言って二人に微笑むと、余程怖かったのでしょうか? 2人の股間辺りが異臭を放ちます。

 「ぎゃぁぁ、水球生成、洗浄!」

 「馬鹿クロエ、そんなことしたら被害が広がるでしょ、きゃあぁ」

 イリスが慌てて逃げ出します。周辺は阿鼻叫喚に包まれて、攻撃魔法のデモンストレーションは、いつもの様にドタバタで終了しました。
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