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1.何処かで聞いた都市国家
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(……よし、最後の一問も大丈夫っと。名前には『黒江 一』とちゃんと書いてあるし、受験番号『xxx01200208』とチェックしてある。間違いも記入漏れはないな)
解答用紙を裏面にし、教室の前、黒板脇に架かる時計をみると、試験終了の10分前だ。
筆記具を机の上に置き、軽く目を伏せる僕の耳には、前後左右で時間ギリギリまで解答用紙を埋める作業に勤しむ僕と同じ受験戦士の戦う音が聞こえる。
時折、半ば呻くような声が聞こえないこともないが、概ね平穏な様子だろう。
僕は昨夜から続く幸運に、内心でガッツポーズをとりながら、表面上は落ち着こうとしている自分を意識する。
センター試験の最終年でもある今年は、翌年より受験方式が変わることもあって、例年より受験者数が多いといわれていた。
多すぎる受験生を大学の定員へと捌く為、例年より難しくなるだろうといわれていた試験問題は、予想通りの難関となって、僕らの前に立ちはだかったが、偶々昨夜から見ていた過去問などの山が当たり、僕は今までで最高の得点を執ることができると確信している。
僕は目を軽くつぶったまま、背もたれに軽く体重を預け、試験終了までの10分間の余韻に浸ろうとした……が、背中に当たるはずの背もたれの感触がないまま、体が後ろに倒れるのに慌てる。
確か僕の後ろの席は、都内でも有数のスカートの短さを誇る女子高の生徒だったはず。休み時間にちらりと見た顔はなかなかに可愛い子だったことを記憶している。
このまま、後ろにひっくり返る →
女子の足元にひっくり返る僕 →
痴漢扱いで大騒ぎという、最悪の事態を避ける為、咄嗟に机を蹴ってでも、体の傾きを止めようと僕はあがいた。試験終了間際に騒がせることになるけど、このままひっくり返るよりは騒ぎは少ないだろう。
そう判断した僕の判断は間違っていないはずだ。蹴り上げた足が空を切るまでは、そう思っていた自分がいた。
*****
大騒ぎになることを覚悟したが、何時まで経っても物音一つしない。それに倒れたにしては衝撃を感じなかったな。
さすがに状況に疑問をもって、スカートの中を見ないようにと覆っていた、両手を下ろし周囲を見渡す。
「……どこだ此処?」
呟いた自分の声が、むなしく響く。周囲は真っ黒な空間で何も見えない。
気が付いたと思うが、真っ暗な空間ではなく、真っ黒だ。手を顔の前にかざしてみるが何も見えない。だけど、何か大きいモノが近くに存在している、そんな存在感・圧迫感が確かにここにはある。
真っ黒な空間に何かがいる感じというのは、男子としては少々臆病であることを自覚している僕の精神を不安定にする。ほんの少し前までは、試験終了を待つ余裕の精神だったはずなのに……
声を出そうにも、恐怖と不安で声がでない。幼馴染の一葉の顔と声を不意に思い出してしまう。
『全く、一は男のくせに臆病なんだから』
いつもそう言って笑ったあいつは、もういないはずだった。三年前に見事に越境入学を決めた地方の優秀校に、入学する前の春休みに交通事故で死んだのだから……
『……解析終了。むぅ、精神レベルが低いとはいえ、一応最低限の基準を満たしてるのか』
不意に聞こえた声は、あいつの声にきこえる。
「なっ、一葉か?お前此処にいるのか」
震え気味の声に、自分でも情けなく思いつつも周囲の闇に問いかけると、周りの黒い何かはどこかへと消えていく。
そして、僕の数歩前には、『一葉』が立っていた。当時の背格好のままで。
『私は一葉とやらではないぞ。今はお前の理解できる姿と言語でお前の相手をしているだけじゃ。それに、私には時間がない。したくはないが、移動中の事故マニュアルに書いてある手順を履行するのでな。説明は道中してやる。』
そう言った一葉の姿と声をした何者かは、振り返ると走り出した。
「おい、待てって……」
呼び止めようとした僕の声は、普通に彼女?の耳に届いたようだ。なぜなら、僕の体も同じ速度で前に進んでいるからだ。
走りながら一葉の姿をした彼女が教えてくれた。彼女の名前は『アリアンロッド』というらしい。本来の高尚な名前はあるけど、僕が理解できるように、僕の知識の範囲内で説明してやるとのことだ。
アリアンロッド、面倒だから『アリア』と呼ぼう。アリアがいうには、彼女は女神の候補生ともいえる存在なのだそうだ。
そして今日は女神への昇級試験の試験日らしい。座学では同期の中で一番の成績である彼女だが、今回2度目の受験となるらしい。前回の試験には、万全の準備と自信をもって試験に挑んだらしい。自信満々で。
……そしてこけた。それはもう盛大に。
同期生の中で、ただ一人不合格となった彼女は、一期遅れの後輩と共に、再度試験を受けるのだが、内心少しナーバスになっていたらしい。試験当日だというのに、盛大に寝坊したアリアは、試験地『アイオライト』目指して近道をしようと、僕らが地球と呼ぶ惑星のある空間の近くを通り過ぎた時、僅かに油断して『蟻』を踏みつぶしてしまったらしい。
そして、アリアの言う『蟻』が僕の事だ。残念ながらこの事故によって、僕の肉体は素粒子レベルまで分解されて消し飛んでしまったが、たまたまアリアに引っかかった僕の魂は、こうしてアリアと話す栄光を与えてもらってるらしい。
暗に感謝しろという態度や、僕のことを蟻レベルに思うのも、女神となる存在に近しいのだから、仕方ないのかもしれないが、一切悪いと思っていないから腹が立つ。僕の怒りを知っていても、歯牙にもかけていない。
そうこうしているうちに、目的地に着いたようだ。立ち止まったアリアは、懐から分厚い冊子を取り出すと、ぱらぱらとめくりだした。
『いいか、一度しか説明しないぞ。試験地への移動中に5等以上の精神を有するものとトラブルが発生した場合、己の試験地に生命体として転生させることで解決しろとでている。
面倒だが、仕方ないな。きちんと対応すれば、事故は減点の対象外となるらしい。対処しなかった事が後々判明した場合は、大幅な減点とされるか。くそ、こんな蟻の為に二年連続で落第などできん。
前回はあまりにも蟻共の動きが悪くて、啓示や使徒を使いすぎたからな。結果だけではなく、それに対して減点されるなど想像もしてなかったわ』
冊子をパラパラとめくっていたアリアだが、何かに気付いたらしく、ちらりと此方に視線をよこす。
『ふむ、試験の制約事項では啓示と使徒を世界に遣わす事で、世界の進行を管理するのが試験内容であるのは、前回と同じじゃな。
そして、事故による精神体の転生は、下界へのアクセス数としてカウントには含まれておらぬようじゃの』
僕をみて笑う、アリアに危険なものを感じる。そう云えば一葉も僕を悪だくみに引きずり込むときはあんな笑みを浮かべていたっけ。
『しかたが無いから、お前をアイオライトに転生させてやる。だが、アイオライトはお前たちの言葉で云う、剣と魔法の世界じゃ。そのままではすぐに死んでしまうじゃろう。
少しこの世界に適合させてやる。あぁ、お前の意見は聞かんぞ。変な能力で私の試験内容をかき回されては困るんでな。
使徒としてカウントされるのでは減点数に対しての割が合わんが、一方的に使う情報端末程度なら、ルール上の問題はなさそうじゃしな。』
そういい、僕に右手を向けたアリアは、イイ笑顔を見せる。
『心配はいらぬ。悪いようにはせぬでな。蟻よりはマシにしてやる』
急速に薄れる意識の中、僕は思いっきりアリアを詰る。
『この駄女神、覚えてろよ~、いつか思い知らせてやる~』
思いっきり、敗者の発言だったのに僕が気が付くのは、だいぶ先の話だった……
そして僕は気を失った。
解答用紙を裏面にし、教室の前、黒板脇に架かる時計をみると、試験終了の10分前だ。
筆記具を机の上に置き、軽く目を伏せる僕の耳には、前後左右で時間ギリギリまで解答用紙を埋める作業に勤しむ僕と同じ受験戦士の戦う音が聞こえる。
時折、半ば呻くような声が聞こえないこともないが、概ね平穏な様子だろう。
僕は昨夜から続く幸運に、内心でガッツポーズをとりながら、表面上は落ち着こうとしている自分を意識する。
センター試験の最終年でもある今年は、翌年より受験方式が変わることもあって、例年より受験者数が多いといわれていた。
多すぎる受験生を大学の定員へと捌く為、例年より難しくなるだろうといわれていた試験問題は、予想通りの難関となって、僕らの前に立ちはだかったが、偶々昨夜から見ていた過去問などの山が当たり、僕は今までで最高の得点を執ることができると確信している。
僕は目を軽くつぶったまま、背もたれに軽く体重を預け、試験終了までの10分間の余韻に浸ろうとした……が、背中に当たるはずの背もたれの感触がないまま、体が後ろに倒れるのに慌てる。
確か僕の後ろの席は、都内でも有数のスカートの短さを誇る女子高の生徒だったはず。休み時間にちらりと見た顔はなかなかに可愛い子だったことを記憶している。
このまま、後ろにひっくり返る →
女子の足元にひっくり返る僕 →
痴漢扱いで大騒ぎという、最悪の事態を避ける為、咄嗟に机を蹴ってでも、体の傾きを止めようと僕はあがいた。試験終了間際に騒がせることになるけど、このままひっくり返るよりは騒ぎは少ないだろう。
そう判断した僕の判断は間違っていないはずだ。蹴り上げた足が空を切るまでは、そう思っていた自分がいた。
*****
大騒ぎになることを覚悟したが、何時まで経っても物音一つしない。それに倒れたにしては衝撃を感じなかったな。
さすがに状況に疑問をもって、スカートの中を見ないようにと覆っていた、両手を下ろし周囲を見渡す。
「……どこだ此処?」
呟いた自分の声が、むなしく響く。周囲は真っ黒な空間で何も見えない。
気が付いたと思うが、真っ暗な空間ではなく、真っ黒だ。手を顔の前にかざしてみるが何も見えない。だけど、何か大きいモノが近くに存在している、そんな存在感・圧迫感が確かにここにはある。
真っ黒な空間に何かがいる感じというのは、男子としては少々臆病であることを自覚している僕の精神を不安定にする。ほんの少し前までは、試験終了を待つ余裕の精神だったはずなのに……
声を出そうにも、恐怖と不安で声がでない。幼馴染の一葉の顔と声を不意に思い出してしまう。
『全く、一は男のくせに臆病なんだから』
いつもそう言って笑ったあいつは、もういないはずだった。三年前に見事に越境入学を決めた地方の優秀校に、入学する前の春休みに交通事故で死んだのだから……
『……解析終了。むぅ、精神レベルが低いとはいえ、一応最低限の基準を満たしてるのか』
不意に聞こえた声は、あいつの声にきこえる。
「なっ、一葉か?お前此処にいるのか」
震え気味の声に、自分でも情けなく思いつつも周囲の闇に問いかけると、周りの黒い何かはどこかへと消えていく。
そして、僕の数歩前には、『一葉』が立っていた。当時の背格好のままで。
『私は一葉とやらではないぞ。今はお前の理解できる姿と言語でお前の相手をしているだけじゃ。それに、私には時間がない。したくはないが、移動中の事故マニュアルに書いてある手順を履行するのでな。説明は道中してやる。』
そう言った一葉の姿と声をした何者かは、振り返ると走り出した。
「おい、待てって……」
呼び止めようとした僕の声は、普通に彼女?の耳に届いたようだ。なぜなら、僕の体も同じ速度で前に進んでいるからだ。
走りながら一葉の姿をした彼女が教えてくれた。彼女の名前は『アリアンロッド』というらしい。本来の高尚な名前はあるけど、僕が理解できるように、僕の知識の範囲内で説明してやるとのことだ。
アリアンロッド、面倒だから『アリア』と呼ぼう。アリアがいうには、彼女は女神の候補生ともいえる存在なのだそうだ。
そして今日は女神への昇級試験の試験日らしい。座学では同期の中で一番の成績である彼女だが、今回2度目の受験となるらしい。前回の試験には、万全の準備と自信をもって試験に挑んだらしい。自信満々で。
……そしてこけた。それはもう盛大に。
同期生の中で、ただ一人不合格となった彼女は、一期遅れの後輩と共に、再度試験を受けるのだが、内心少しナーバスになっていたらしい。試験当日だというのに、盛大に寝坊したアリアは、試験地『アイオライト』目指して近道をしようと、僕らが地球と呼ぶ惑星のある空間の近くを通り過ぎた時、僅かに油断して『蟻』を踏みつぶしてしまったらしい。
そして、アリアの言う『蟻』が僕の事だ。残念ながらこの事故によって、僕の肉体は素粒子レベルまで分解されて消し飛んでしまったが、たまたまアリアに引っかかった僕の魂は、こうしてアリアと話す栄光を与えてもらってるらしい。
暗に感謝しろという態度や、僕のことを蟻レベルに思うのも、女神となる存在に近しいのだから、仕方ないのかもしれないが、一切悪いと思っていないから腹が立つ。僕の怒りを知っていても、歯牙にもかけていない。
そうこうしているうちに、目的地に着いたようだ。立ち止まったアリアは、懐から分厚い冊子を取り出すと、ぱらぱらとめくりだした。
『いいか、一度しか説明しないぞ。試験地への移動中に5等以上の精神を有するものとトラブルが発生した場合、己の試験地に生命体として転生させることで解決しろとでている。
面倒だが、仕方ないな。きちんと対応すれば、事故は減点の対象外となるらしい。対処しなかった事が後々判明した場合は、大幅な減点とされるか。くそ、こんな蟻の為に二年連続で落第などできん。
前回はあまりにも蟻共の動きが悪くて、啓示や使徒を使いすぎたからな。結果だけではなく、それに対して減点されるなど想像もしてなかったわ』
冊子をパラパラとめくっていたアリアだが、何かに気付いたらしく、ちらりと此方に視線をよこす。
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そして、事故による精神体の転生は、下界へのアクセス数としてカウントには含まれておらぬようじゃの』
僕をみて笑う、アリアに危険なものを感じる。そう云えば一葉も僕を悪だくみに引きずり込むときはあんな笑みを浮かべていたっけ。
『しかたが無いから、お前をアイオライトに転生させてやる。だが、アイオライトはお前たちの言葉で云う、剣と魔法の世界じゃ。そのままではすぐに死んでしまうじゃろう。
少しこの世界に適合させてやる。あぁ、お前の意見は聞かんぞ。変な能力で私の試験内容をかき回されては困るんでな。
使徒としてカウントされるのでは減点数に対しての割が合わんが、一方的に使う情報端末程度なら、ルール上の問題はなさそうじゃしな。』
そういい、僕に右手を向けたアリアは、イイ笑顔を見せる。
『心配はいらぬ。悪いようにはせぬでな。蟻よりはマシにしてやる』
急速に薄れる意識の中、僕は思いっきりアリアを詰る。
『この駄女神、覚えてろよ~、いつか思い知らせてやる~』
思いっきり、敗者の発言だったのに僕が気が付くのは、だいぶ先の話だった……
そして僕は気を失った。
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