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Ⅰ章.始まりの街カミエ

13.七星刀

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 数打ちとよばれた刀は、鍛冶場の片隅にあった二つの壺に雑多に刺してあった。焼き入れが終わり、曲がりや反りが修正された状態で、荒砥までは済んでいる。
 片側は中子のやすり仕立てが終わっておらず、銘も切られていない。目釘穴も開いていない未完了品のようだ。
 もう一方の壺に挿してある刀はすでに銘も切られていて、研ぎに出される寸前といった物だった。銘は単純に『三ノ宮』とだけ入れてある。

 この状態では、一般の人が知る美しく磨かれた状態の刀とはなっておらず、研ぎも刀身に割れやきずがないことを確認するためにだけされた状態なので、刀身は黒い。

 刀工の自分としては見慣れた状態の刀であり、加工済みの刀身を一本一本確認していく。
 刀の出来は、自分から見ると可もなく不可もない及第点の刀身だ。緩やかに反りの入った刀身は、バランスも悪くはない。
 どれも出来具合は同じようなので、中から二本を取り出し、最終的に違和感を感じない一振りの刀身を選ぶ。

 すると、頭の中で女の子の声が聞こえた。

『え~、こんな貧弱なやつ憑代よりしろにしろっていうの?
 もっとましな奴選んでよ、あたしは世にある五聖剣の一振りなんですからね。こんな憑代じゃ、力も満足にだせないよ』

その声から、声の主は浮雲を放った時に『貸し』がどうこう言っていた声だと気付く。自分はため息をつきながら小声でつぶやいた。周囲に誰もいないとはいえ、一人で話す危ない奴と思われるのは心外だしな。

「……お前が何であれ、姿を見せる事もしないやつの言う事を聞く義理はないぞ。大体、数打ちの刀身から選ぶんだから、選択の余地がない。今はこれで妥協しろよな」

 こちらの刀工にしても柄巻師にしても、どうやら量産品を作る腕は確かなようで、どの刀も寸分たがわぬと言っていいほど同じ茎の形をしている。

 この状態の刀身を研ぎにだして、簡易とはいえ打刀拵うちがたなこしらえを作るのでは、実際に選んだ刀を使えるまでにはしばらく時間がかかるだろうなと思っていると、背後から声がかかった。

「へぇ、さすがは親父が渡世人とせいにんだっただけあるってことか。刀の良し悪しを見る目も悪くないじゃないか」

 振り返った自分の目には、木刀で自分の肩を軽くたたいている芹さんいた。

「そいつは壺に戻しな。お前にはこいつをやるよ」

 言われて壺に刀身を戻した自分に、芹さんが持っていた木刀を放ってきた。慌てて受け取ると、それは白鞘に収めた完成品の刀だと気づく。

 最初から完成品をよこす心算つもりなら、刀身を選ばせる必要はないじゃないかと思ったが、芹さん曰く満足に刀を選べない奴なら、それなりの刀で十分だということらしい。

「そいつは、もともとシロ用に用立てたもんだが、あいつは常時聖剣を顕現できるんでな。憑代は必要ないそうだ。一応女の子用の柄になっているから、お前でも十分使えるだろう」

 渡された刀を抜いてみると、先ほどのものよりはるかに出来が良いのが分かる。刀身は腰反りで深さは六分と、古刀のような姿を持つ太刀で身幅も狭く非常に優美な印象を持って入る。

『いいね、いいね! これなら、さっきよりずっとマシだよ』

 頭の中で少女の声が響き、手に持つ刀は淡く赤味を帯びた燐光を放ち、その姿を変えた。

 鍔も無い黒塗りの白鞘(黒く塗っていても白鞘という謎)だが、刀身自体はやや変化しているというか、なんだ? 悪化してないか、これ?

 そう思い剣自体のステータスを確認してみると……

・【基本情報】

 銘   :七星刀

 属 性 :聖剣(笑)
 刀 種 :打刀
      持ち主に合わせて刀種は変化します
 刀 工 :不明
 材 質 :ミスリル他不明
 造 り :鋒両刃造
 刃 紋 :直刃

 刀 長 :2尺3寸5分(約七十センチメートル)
 
 重 量 :942g

 攻撃力 :0023/0040 解放状態0での攻撃力

・【状態】
 耐久値 :壊れかけ 0127/9999
 解放状態:0/7  0001/????

・【固有妓等】
 解放されていません

 ……数値化されてみると、思いのほかひどい状態だ。ある意味、属性の聖剣(笑)がひどく痛い。刀自体の素の耐久値が高いので、辛うじて形を維持しているような物だろう。
 刃自体の欠けもかなりひどく、どこかの某十一番隊隊長の所有刀ほどひどくないが、細かい欠けが多くのこぎり刃になっているし、切先や峯側の両刃部分には、刃先がめくれている部分さえある。

 素材自体はミスリルと現段階では鑑定不能な金属の蛤刃はまぐりばのようだが、聖剣としては『壊れかけ』のようだ。
 元の耐久力が高い分、鋼の刀に打ち負ける事は少ないだろう。それにしても……

「ずいぶん雑な使い方をされたもんだな……」

 思わずつぶやくと、頭の中で少女が騒いだ。

『そう、そうなのよ! なまじ耐久力が高いからって、何も考えずに振り回すだけ振り回すし、斧なんかの武器だけじゃなく、岩とか城壁とか斬ろうと考えてる男って馬鹿なの? 馬鹿よね?
 そんな酷い使い方をする主が多かったのよぉ~』

 頭の中でしくしく泣かれるのがかなりうっとおしいが、いくら聖剣とはいえ雑な扱いをされればこうなるというわけか。

「……なるほどな。七星刀は神代からの剣ときいたが、ずいぶん損耗が激しいな。漂泊の剣と呼ばれるだけの事はある」

 芹さんの声で我に返って、目の前で顕現させてしまったことに気付く。とはいえ、ここまで損傷が進んでいると、修復するにはこちらの世界の専門家の意見が必要だろう。

「損傷がかなり進んでいるので、補修ができればよいのですが、補修方法に心当たりがありますか?」

 自分の言葉に、芹さんは腕を組みしばらく考えてから口にしたのは……

「……少なくとも宮社では修復は無理だな。その刀の材質はミスリルの他にも希少金属がつかわれているだろう。その手の材料はここでは扱わないから、制作も修復する技術も伝わっていないな。
 シロの聖剣も見せてもらったが。あちらはそれなりに大事に使われてきたようだが、その分けがれもひどい。
 どちらの聖剣も、使い手がどちらも幼いから、数年は養生させてやれるから、いくらかは損傷も回復するだろう」

 幼い自分たちが聖剣を持つことで養生できるということは、戦いに持ち出さない限り、少しずつとはいえ修復が進むということか。
 芹さんにその事をたずねると、あっけなくうなづかれる。

「人を鞘とする聖剣は、補修が効き難いかわりにやたらと強固なんでな。ミスリルなんかの希少素材を使っている事もあるが、鋼製の刀じゃ傷もつかんさ。
 だが、聖剣同士となれば話は変わってくるぞ? 七星刀が神代の刀で損傷が進んでいるのは、神代の戦を潜り抜けたからだろうが。聖剣持ち同士で争う事なんて、今は早々起きないからな」

 そして、自分の顔をみながらにやりと笑う。

「頼むから、ハクと喧嘩はするなよ? ガキ同士だからといっても、ハクは『剣聖』の上級版の『剣帝』の加護を持っているからな。神代の聖剣といえど、へし折られるかもしれんぞ?」

 ……貴女がけしかけたりしなければ大丈夫なんですがね。心の中で声を大にして叫ぶが、もちろん表情に出したりはしない。この人は狐面を被っていても、こちらの表情を読めそうである意味怖い人でもあるし……

 そう思い、自分が黙って顕現を解くと、もとの姿に戻った刀身を白鞘に納めるのであった。

『こら~、あたしの出番は?! これだけって、ちょっとは人の話をきけ~!!』

 どこかで声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう……
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