愛のカタチ

如月あこ

文字の大きさ
上 下
27 / 34
7、

2、

しおりを挟む
「ねぇ、お姉ちゃんは子どもが欲しいって思う?」
 新居で夕食の支度をしつつ、お姉ちゃんに聞いてみた。ソファでジャージ姿のままくつろいでいたお姉ちゃんは、「思わない」とあっさり口にした。
「子育てする余裕ないもの。あたし家事もできないのよ」
「……そっか」
「どうしたの、きゅうに。何かあった?」
「子どもって何かなぁって」
 ずいぶんとアバウトな物言いだったが、お姉ちゃんは身体を起こすとソファに深く座り、苦笑を浮かべて話し出した。
「子どもは愛の結晶――なんていうけど、具体的には性の結晶でしょ? あたしの持論だけど、愛は目に見えないからこそ価値があるのよ。だから、結晶化したとしても、それも目に見えないものなの」
「どういうこと?」
「人間は、誰とでも愛を育むことができるってこと。そこに子どもは必ずしも必要ないってわけ。まぁ、子はかすがいって言うように、夫婦の絆をより強固にする存在であることは否めないけれど」
「……つまり、いないよりはいたほうがいい?」
「そんなの個人の自由でしょ。あたしは子どもがいなくても美津子と二人で愛し合って生きていくわ」
 お姉ちゃんの言うとおり、同性愛カップルには子どもが出来ない。男女の関係であっても、子どもを産めない、産まない人も大勢いる。
 なかには伸二さんやお姉ちゃんの両親のように、養子をもらう人もいるけれど。
 なんとなくお姉ちゃんの言いたいことは伝わったので、私は頷いた。
「でも急にどうしたの? なにかあった?」
「友達が中絶したの。それで、その子がすごく落ち込んでたから」
「それは大変ね。でも、それで子どもってなんだろうって思ったの? 愛花は難しいこと考えるわね」
 難しいことだろうか、ただの素朴な疑問のつもりだったのだけれど。
 ふと、お姉ちゃんの携帯電話が震えた。
「あら、美津子からだわ。……はい。え!」
 夕食作りを再開しようとした私は、驚いて振り返る。
短いやりとりののち、通話を切ったお姉ちゃんは慌ただしくジャージを脱ぎ始めた。
「ごめんなさい、美津子調子が悪いみたいなの。美津子の家行ってくるから、悪いけど夕食はいらないわ」
「みっちゃん大丈夫なの?」
「風邪なのかも。身体がだるいんですって」
 お姉ちゃんはてきぱきと外用の服に着替えると、いつものように脱ぎ散らかしたジャージを片付けることもなく、新居を出て行った。
 美津子さんはどちらかといえば一人で抱え込むタイプである。少し体調が悪くても、我慢して明るく振る舞うのだ。そんな美津子さんが電話を寄越してきたということは、かなり調子がよくないのだろう。
「……心配」
 そっと呟いたあと、一人残された私は、作っている途中だったソテーやら鶏の生肉を眺めてため息をつく。とりあえず完成させて、タッパーに入れて保存しておこう。問題は米である。ほぼ新品の炊飯器は、あと三十分程度で完成の音楽を奏でるはずだ。
 そんなことを考えながら夕食作りに勤しめば、あっという間に夜の八時を過ぎていた。窓の外は暗くなっており、私は思い出したようにカーテンを閉めた。そしてリビングに脱ぎ捨ててあったジャージを拾い、風呂場へ向かう。
 最近は毎日のように新居に着ているので、洗濯物はほとんど溜まっていない。奈良先生も私が洗濯することを了承してくれているようで、私は二人分の洗濯物をここで片すことになっていた。
 ジャージを洗濯かごに入れ、リビングに戻る。
「……どうしよう」
 帰ろうか。けれど、帰ったところで伸二さんはいない。ならば、ここで奈良先生が帰宅するのを待って、つくった夕食を食べてもらうというのはどうだろう。だが、いつ奈良先生が帰宅するのか知らないし、外食してくる可能性もある。
 頭を抱えた。そして、あと一時間待って帰ってこなかったら一人で帰宅しようという結論に至る。
 私は暇を持て余して、ソファに寝転がった。
携帯電話には琴音からメールが入っていた。
――『今日はありがとう。プール行こうね』
 と。
 私は嬉しくなって、すぐに返信した。

 *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...