愛のカタチ

如月あこ

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「……え、あ、え、あっくん」
「別れ話じゃないの?」
 戸惑う琴音の様子を見て、あっくんは目を瞬いた。
「ち、違うよ。あ、あのね。あの、あたし、赤ちゃんが出来たの」
 しどろもどろになりながら、琴音は続ける。
「あっくんの赤ちゃんだよ。今ね、四週目なんだって。一昨日病院に行ってきて、エコーとかとってもらって、それで次の検診は二週間後で」
 息もつかず一気に話す琴音の気持ちを思うと、胸が痛い。
 あっくんの表情が目に見えて強張っていたのだ。話の雲行きが怪しいことを、琴音は察しているのだろう。
「それで、えっと……だから、その、赤ちゃんが、出来たの」
 琴音はついに、俯いてしまった。
 私まで俯いてはいけないと、ぐっと顔をあげてあっくんを見る。あっくんは酷く不愉快そうな顔で、コーヒーのストローに口をつけた。
「……あのさ、なんでそれを僕に言うの?」
 は?
 不機嫌丸出しの表情で告げられた言葉に、私はぽかんとしてしまった。
「っていうか、僕に関係なくない?」
「なに言ってるの。あっくんの子どもなんだよ?」
 言ったのは私だ。
 あっくんの視線が私に向けられる。
「でもさ、僕はちゃんと毎回避妊してたし。それでも子どもが出来たっていうのは、それは全部琴音のせいでしょ?」
 私が悪いんだもん。
 琴音が言っていた言葉を思い出した。
 あっくんの子どもや性に対する認識が、琴音にその言葉を言わせたのだと今更理解する。
 駄目だ。
 この男は、駄目だ。
「僕お金ないし、中絶費用なんて払えないよ。まさか産むつもりじゃないよね?」
 一刻も早く、この男の口をふさいで琴音から遠ざけてしまいたい。いつも真面目で優しかったから、誠実な人だと思っていたのに。
 とんだ馬鹿だ。
 はっとして琴音を振り返ると、真っ青な顔で震えていた。
「琴音が母親になんかなれるわけないじゃん。自分のことで精一杯で、何もかも僕に頼りきりのくせにさ」
「ちょ、ちょっと、あんまりじゃない!」
 思わず声を張りあげていた。
 近くにいた客たちがこちらを見てくるが、知ったことでなかった。
「自分は関係ないとか、琴音が母親になれるわけないとか、そんなこと言うなんて酷いじゃない!」
「どうして? 本当のことじゃないか。それとも愛花ちゃんは、琴音が母親になれると思ってるの?」
 その言葉に、ああ、と無力感を感じた。
 あっくんは、自分の理屈が正義だと思っているんだ。だから、正義に沿っていることなら何を言っても正しいと、琴音を傷つけてもいいと、そう考えている。
 この男には何を言っても無駄な気がした。
「……あたし、帰る」
 琴音がぽつりと呟いた。
 私を押しのけるようにして立ちあがった琴音に、あっくんは追い打ちをかけた。
「まるで僕が悪者じゃん。言っとくけど、僕は琴音と結婚するつもりも父親になるつもりもないから。もともと、琴音と付き合ってたのは愛花ちゃんが目当てだったし」
 死んでしまえばいいのに。
 私は本気でそう思い、言葉もなく駆けだした琴音を追ってファミレスを出た。

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