愛のカタチ

如月あこ

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 琴音は緊張からか、ぷるぷると震えていた。
 あっくんの大学近くにあるファミレスは、冷房が効いていてとても涼しい。学校が終えてから来たけれど、真夏の陽はまだまだ高く、ガラス張りの窓の向こうの空は青かった。
 制服姿の学生もちらほらと見かけたが、同じ学校の生徒はいないようで、私はほっと胸を撫で下ろす。
 これからする話は、あまり知り合いには聞かれたくない。
 私は琴音の隣に座りかえ、震える肩をそっと抱いた。
「寒い?」
「ううん、平気。えへへ、駄目だねあたし。なんか、緊張してきちゃって」
 あっくんはまだこない。けれど、あと十分もしたら待ち合わせの時間になるので、几帳面な彼のことだ、きっとすぐに来るだろう。
「……ねぇ、愛花」
「なに?」
「愛花は、なにがあってもあたしの友達でいてくれるよね?」
 唐突な言葉と、縋るような瞳。
 私は目をぱちくりさせたあと、こくりと頷いた。
「当然でしょ」
「絶対だよ」
「うん」
 琴音とは、今の高校の入学式の日に偶然会話したのがきっかけで親しくなった。初めて会話したのは、昇降口でのこと。愛想笑いを浮かべて、ぎこちない会話をしたのを覚えている。
 そして次に会ったのは、同じ教室だった。
 席が隣りで、「あ、今朝の!」といった感じで親しくなったのだ。
 些細な出会いだったけれど、今はこんなにも大切な親友になっている。私にとって、琴音はかけがえのない存在だった。中学校では小学校からのいじめが尾を引き、あまり友人も出来なかったから、琴音が初めての「親友」だと言っても過言ではないのだ。
「あ、来たよ!」
 琴音が小声で呟いた。
 あっくんがファミレスのドアをくぐり、辺りを見回している。こちらに気づくと、朗らかに微笑んで歩み寄ってきた。
 黒髪に黒縁眼鏡をかけたインテリ系男子をそのまま具現化したようなあっくんは、軽く手をあげると向かい側の席に座った。
「お待たせ。今日は愛花ちゃんも一緒なんだ?」
「う、うん」
 ぎこちなく答えた琴音は、そのまま俯いてしまった。
 私はそっとメニューを取り出して、あっくんに差し出す。
「なにか注文する?」
「うん、ありがとう。ドリンクバー頼もうかな。二人はいいの?」
「ドリンクバーもう注文してあるから」
「ケーキとか食べてもいいんだよ。バイト代入ったし、おごってあげる」
 私はちらりと琴音の様子を伺ったあと、首を横にふった。
「ううん、ダイエット中だから」
「えー、なんで。全然太ってないじゃん」
「女の子には女の子の事情があるの」
 なにそれ、と笑うあっくんは、手早くウエイターにドリンクバーを注文して席を立った。あっくんがドリンクを選んでいるうちに、「大丈夫?」と琴音に問う。
「うん、大丈夫。頑張るよ、あたし」
 気丈に微笑む琴音に、私は胸を打たれる。
 頑張って、と胸の中で呟き、あっくんが戻ってくる様子をじっと見つめた。
 アイスコーヒーを持って戻ってきたあっくんが席に座ると、琴音が口をひらく。
「ねぇ、あっくん。あのね、話があるの」
「ああ、うん。メールでも言ってたね。なに?」
「えっとね、その……大事な話なの」
「わかってるって。まぁ、大体の予想はついてるんだけど」
「えっ、ほんと?」
 予想はついている?
 その言葉に、私は嫌な予感を覚えた――そしてその予感は、見事的中することになる。
 あっくんはにっこりと清々しいほどの笑みで微笑み、その言葉を告げた。
「別れ話だよね? いいよ、別れよう」
 琴音の表情が強張った。
 あっくんは何事でもないかのようにコーヒーにミルクを入れると、ストローでかき混ぜる。
「僕もさ、そろそろ別れようって思ってたんだ」
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