愛のカタチ

如月あこ

文字の大きさ
上 下
7 / 34
3、

1、

しおりを挟む
琴音と二人で産婦人科を受診した、その翌日。
 私は学校を終えた放課後、駅前にある噴水の縁に一人で座っていた。着替えてきたので、制服ではない私服――白い半袖のシャツと水色のロングスカート――である。
「……明日、大丈夫かな」
 なにを隠そう、明日は琴音とあっくんが妊娠発覚後初めて会う日だ。つまり、「子どもが出来たよ」とカミングアウトする日でもある。
 私もついていくことになっているけれど、あっくんはまだ学生の身であり、年上とはいえ十代だ。琴音を傷つけない判断が出来るとは言い難い。
 ピロン、と携帯電話が鳴った。
 開くと、「明日よろしくね!」という文字が飛び込んできて、相手が琴音であることを知る。
 すぐに返信のメールを打ち、送信したとき。
「ねぇ、一緒に遊ばない?」
 見知らぬ青年に声をかけられた。二人組の、派手な頭の色をしたピアスの青年組である。チャライ雰囲気を醸す二人は、琴音の全身をじろじろ眺めたあと、にやにやと笑って距離を詰めてきた。
「大学生?」
「……いえ」
「もう卒業してるの? それともまだ高校生とか」
「えっと、あの」
「そんなかしこまらなくてもいいって。誰と待ち合わせしてんの? 彼氏?」
「姉です」
「じゃあさ、お姉さんが来たら俺らと二対二でデートしようよ」
「すみませんけど、彼氏いるんで」
 嘘だ。
 けれど、その言葉は結構な破壊力を持っていたようで、青年たちは少しだけ引き気味になった。ちょうどそこへ、お姉ちゃんが歩いてくるのが見えて、私は大きく手を振って駆けだした。
「お姉ちゃん!」
 駅の改札から真っ直ぐに私のほうへ歩いてきたお姉ちゃんは、黒のスーツ姿だった。地方のテレビ局で記者として働いている姉はいつも、仕事では清潔感のあるスーツに身を包んでいた。
 家でだらだらしている姿が信じられないほどにシャキッとしたキャリアウーマンな姉を、私は素直にカッコいいと思う。
「待ったでしょ、暑いなかごめんね」
「ううん、全然待ってないよ」
「ふふん、なにあんたまたナンパされてたの? 前カレ、たしかナンパで知り合ったのよね」
「……もう、昔の話はいいじゃない。今だってちゃんと断ったよ」
「あら、そう。じゃ、行こっか」
 今日はなんと、姉の新居にお邪魔させてもらうことになっている。今後家事手伝いをするに辺り、場所を確認しておくためにも、一度新居のほうへお邪魔させてもらったほうがいいだろうということになったのだ。
「お姉ちゃん、来月に入籍するんだよね」
「そうよ。結婚するにあたり、来週から同居することになったの」
「え、旦那さんと同居するのは、来月からって言ってなかったっけ」
「だって早く準備が整ったんだもの。お互い仕事が忙しいから、なかなか顔を合わせる機会もないんだけどね。でもまぁ、体裁っていうの? そういうもののためにも、『同棲』っていう過程は必要なのよ」
 お姉ちゃんの言いたいことはわかるけれど、どうも私のなかでは納得できない。美津子さんの悲しげな表情が脳裏をちらつき、唇を噛みしめる。
「あ、そうだ。結婚なんだけどね、夫婦別姓にするから」
「それって結婚しても名前が変わらないってやつだよね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

長谷川さんへ

神奈川雪枝
ライト文芸
不倫シリーズ

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...