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琴音と二人で産婦人科を受診した、その翌日。
私は学校を終えた放課後、駅前にある噴水の縁に一人で座っていた。着替えてきたので、制服ではない私服――白い半袖のシャツと水色のロングスカート――である。
「……明日、大丈夫かな」
なにを隠そう、明日は琴音とあっくんが妊娠発覚後初めて会う日だ。つまり、「子どもが出来たよ」とカミングアウトする日でもある。
私もついていくことになっているけれど、あっくんはまだ学生の身であり、年上とはいえ十代だ。琴音を傷つけない判断が出来るとは言い難い。
ピロン、と携帯電話が鳴った。
開くと、「明日よろしくね!」という文字が飛び込んできて、相手が琴音であることを知る。
すぐに返信のメールを打ち、送信したとき。
「ねぇ、一緒に遊ばない?」
見知らぬ青年に声をかけられた。二人組の、派手な頭の色をしたピアスの青年組である。チャライ雰囲気を醸す二人は、琴音の全身をじろじろ眺めたあと、にやにやと笑って距離を詰めてきた。
「大学生?」
「……いえ」
「もう卒業してるの? それともまだ高校生とか」
「えっと、あの」
「そんなかしこまらなくてもいいって。誰と待ち合わせしてんの? 彼氏?」
「姉です」
「じゃあさ、お姉さんが来たら俺らと二対二でデートしようよ」
「すみませんけど、彼氏いるんで」
嘘だ。
けれど、その言葉は結構な破壊力を持っていたようで、青年たちは少しだけ引き気味になった。ちょうどそこへ、お姉ちゃんが歩いてくるのが見えて、私は大きく手を振って駆けだした。
「お姉ちゃん!」
駅の改札から真っ直ぐに私のほうへ歩いてきたお姉ちゃんは、黒のスーツ姿だった。地方のテレビ局で記者として働いている姉はいつも、仕事では清潔感のあるスーツに身を包んでいた。
家でだらだらしている姿が信じられないほどにシャキッとしたキャリアウーマンな姉を、私は素直にカッコいいと思う。
「待ったでしょ、暑いなかごめんね」
「ううん、全然待ってないよ」
「ふふん、なにあんたまたナンパされてたの? 前カレ、たしかナンパで知り合ったのよね」
「……もう、昔の話はいいじゃない。今だってちゃんと断ったよ」
「あら、そう。じゃ、行こっか」
今日はなんと、姉の新居にお邪魔させてもらうことになっている。今後家事手伝いをするに辺り、場所を確認しておくためにも、一度新居のほうへお邪魔させてもらったほうがいいだろうということになったのだ。
「お姉ちゃん、来月に入籍するんだよね」
「そうよ。結婚するにあたり、来週から同居することになったの」
「え、旦那さんと同居するのは、来月からって言ってなかったっけ」
「だって早く準備が整ったんだもの。お互い仕事が忙しいから、なかなか顔を合わせる機会もないんだけどね。でもまぁ、体裁っていうの? そういうもののためにも、『同棲』っていう過程は必要なのよ」
お姉ちゃんの言いたいことはわかるけれど、どうも私のなかでは納得できない。美津子さんの悲しげな表情が脳裏をちらつき、唇を噛みしめる。
「あ、そうだ。結婚なんだけどね、夫婦別姓にするから」
「それって結婚しても名前が変わらないってやつだよね」
私は学校を終えた放課後、駅前にある噴水の縁に一人で座っていた。着替えてきたので、制服ではない私服――白い半袖のシャツと水色のロングスカート――である。
「……明日、大丈夫かな」
なにを隠そう、明日は琴音とあっくんが妊娠発覚後初めて会う日だ。つまり、「子どもが出来たよ」とカミングアウトする日でもある。
私もついていくことになっているけれど、あっくんはまだ学生の身であり、年上とはいえ十代だ。琴音を傷つけない判断が出来るとは言い難い。
ピロン、と携帯電話が鳴った。
開くと、「明日よろしくね!」という文字が飛び込んできて、相手が琴音であることを知る。
すぐに返信のメールを打ち、送信したとき。
「ねぇ、一緒に遊ばない?」
見知らぬ青年に声をかけられた。二人組の、派手な頭の色をしたピアスの青年組である。チャライ雰囲気を醸す二人は、琴音の全身をじろじろ眺めたあと、にやにやと笑って距離を詰めてきた。
「大学生?」
「……いえ」
「もう卒業してるの? それともまだ高校生とか」
「えっと、あの」
「そんなかしこまらなくてもいいって。誰と待ち合わせしてんの? 彼氏?」
「姉です」
「じゃあさ、お姉さんが来たら俺らと二対二でデートしようよ」
「すみませんけど、彼氏いるんで」
嘘だ。
けれど、その言葉は結構な破壊力を持っていたようで、青年たちは少しだけ引き気味になった。ちょうどそこへ、お姉ちゃんが歩いてくるのが見えて、私は大きく手を振って駆けだした。
「お姉ちゃん!」
駅の改札から真っ直ぐに私のほうへ歩いてきたお姉ちゃんは、黒のスーツ姿だった。地方のテレビ局で記者として働いている姉はいつも、仕事では清潔感のあるスーツに身を包んでいた。
家でだらだらしている姿が信じられないほどにシャキッとしたキャリアウーマンな姉を、私は素直にカッコいいと思う。
「待ったでしょ、暑いなかごめんね」
「ううん、全然待ってないよ」
「ふふん、なにあんたまたナンパされてたの? 前カレ、たしかナンパで知り合ったのよね」
「……もう、昔の話はいいじゃない。今だってちゃんと断ったよ」
「あら、そう。じゃ、行こっか」
今日はなんと、姉の新居にお邪魔させてもらうことになっている。今後家事手伝いをするに辺り、場所を確認しておくためにも、一度新居のほうへお邪魔させてもらったほうがいいだろうということになったのだ。
「お姉ちゃん、来月に入籍するんだよね」
「そうよ。結婚するにあたり、来週から同居することになったの」
「え、旦那さんと同居するのは、来月からって言ってなかったっけ」
「だって早く準備が整ったんだもの。お互い仕事が忙しいから、なかなか顔を合わせる機会もないんだけどね。でもまぁ、体裁っていうの? そういうもののためにも、『同棲』っていう過程は必要なのよ」
お姉ちゃんの言いたいことはわかるけれど、どうも私のなかでは納得できない。美津子さんの悲しげな表情が脳裏をちらつき、唇を噛みしめる。
「あ、そうだ。結婚なんだけどね、夫婦別姓にするから」
「それって結婚しても名前が変わらないってやつだよね」
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