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土日はお姉ちゃんの部屋を掃除して炊事を行う私も、平日の日中は高校に通っている。
小学校のころは孤児院で暮らしているというだけでいじめにもあったりしたが、高校にあがるといじめも無くなり、比較的穏便な日々を過ごしていた。
地元の公立高校なので、小学生だったころ私をいじめていた同級生もクラスにはいるが、今では疎遠に近く、特別な用がない限り話しかけてもこない。私が孤児だったことなど、彼女たちにとっては些細なことになってしまったのだろう。
よって、高校はとても楽しい場所である!
週明けの登校日、私は早朝の冷たい空気を大きく吸いながら、うきうきと高校へ向かう。昨夜に小雨が降ったせいか、並木道の植えられた針葉樹が陽光できらきらと光って見えた。
ずっと朝のまま涼しければいいのに。この心地よい朝から、灼熱地獄のような日中に変わってしまうなんて耐えがたい苦痛である。
そんなことを考えながら、私はスカートの裾を揺らしつつ意気揚々と教室に入った。
私の席は、一番後ろから二つ目の窓側。席順はくじ引きなのだが、この席だと校庭も見えるし、我ながらいい席を引き当てたものだ。
机に鞄を置くと私は真っ先に、最前列の机にいる親友の久我琴音のところへ行く。
「おはよう!」
ショートボブヘアにくるんとした大きな目、むっちりとした私の体系と違い、すらりと細身且つ小柄で小動物のようだ。
琴音はなぜか、私の声にびくりと身体を震わせた。ん? と胸中で首をかしげる。いつもなら、おはようと元気に挨拶を返してくれるのに。そして琴音の「彼氏大好き」マシンガントークが始まるのだ。
私も思春期の少女たちの例から洩れずに「恋愛トーク」というのが好きだから、彼氏に関する話題で盛り上がるのは結構楽しみだったりする。
けれど、今日の琴音は俯いたまま顔を上げることもない。
「……琴音?」
そっと問えば、琴音は億劫そうに視線を私に向けた。
目には涙を溜めていた。ずっと泣いていたのか目は真っ赤になっており、それを隠すために俯いていたのだと知る。
「ど、どうしたの?」
「愛花、大変なことになっちゃった」
「……話せる?」
「ここじゃ、無理。次の休み時間に、一緒に来て。全部話すから」
「わかった。大丈夫だよ、私ちゃんと琴音の話きくからね」
「うん」
何かを思いつめているような表情の琴音の頭を、そっと抱きしめた。すんすんと鼻をすする琴音は、自分のハンカチで顔を抑え、そのまままた俯いてしまう。
担任の女教師が入ってきて、私は席に戻った。ホームルームと一時間目のあいだ、私はずっと琴音が気がかりで、教室で一人そわそわしていた。一時間目の途中で教師に一度注意されたくらいだ。
長い一時間目の末にやっと休み時間がきて、私は琴音と一緒にトイレへ向かった。けれどトイレにはすでに人がいたので、一番近い校舎の裏手へと回る。念のために辺りを見回してから、琴音と向き合った。
「……琴音、何があったの」
「あ、あたしね」
「うん」
「あたし、赤ちゃんが出来ちゃったみたい」
私はきっちり三秒間制止した。
琴音の言葉がすとんと理解できない。いや、意味ならわかる。わかるけれど、現実と結びつけることが出来ないのだ。
私の視線は自然と琴音の腹部へ向く。
制服のブレザーに包まれたこの下に、赤ちゃんが……?
「確認はしたの?」
「うん。陽性だった。生理がこなくてね、おかしいなって思って、でもまさかって思って。でね、念のために試してみたの。そしたら陽性で、あたし、どうしたらいいの」
「落ち着いて。誰かに相談した?」
「ううん、お母さんたちにも言ってないし、あっくんにも言ってない」
小学校のころは孤児院で暮らしているというだけでいじめにもあったりしたが、高校にあがるといじめも無くなり、比較的穏便な日々を過ごしていた。
地元の公立高校なので、小学生だったころ私をいじめていた同級生もクラスにはいるが、今では疎遠に近く、特別な用がない限り話しかけてもこない。私が孤児だったことなど、彼女たちにとっては些細なことになってしまったのだろう。
よって、高校はとても楽しい場所である!
週明けの登校日、私は早朝の冷たい空気を大きく吸いながら、うきうきと高校へ向かう。昨夜に小雨が降ったせいか、並木道の植えられた針葉樹が陽光できらきらと光って見えた。
ずっと朝のまま涼しければいいのに。この心地よい朝から、灼熱地獄のような日中に変わってしまうなんて耐えがたい苦痛である。
そんなことを考えながら、私はスカートの裾を揺らしつつ意気揚々と教室に入った。
私の席は、一番後ろから二つ目の窓側。席順はくじ引きなのだが、この席だと校庭も見えるし、我ながらいい席を引き当てたものだ。
机に鞄を置くと私は真っ先に、最前列の机にいる親友の久我琴音のところへ行く。
「おはよう!」
ショートボブヘアにくるんとした大きな目、むっちりとした私の体系と違い、すらりと細身且つ小柄で小動物のようだ。
琴音はなぜか、私の声にびくりと身体を震わせた。ん? と胸中で首をかしげる。いつもなら、おはようと元気に挨拶を返してくれるのに。そして琴音の「彼氏大好き」マシンガントークが始まるのだ。
私も思春期の少女たちの例から洩れずに「恋愛トーク」というのが好きだから、彼氏に関する話題で盛り上がるのは結構楽しみだったりする。
けれど、今日の琴音は俯いたまま顔を上げることもない。
「……琴音?」
そっと問えば、琴音は億劫そうに視線を私に向けた。
目には涙を溜めていた。ずっと泣いていたのか目は真っ赤になっており、それを隠すために俯いていたのだと知る。
「ど、どうしたの?」
「愛花、大変なことになっちゃった」
「……話せる?」
「ここじゃ、無理。次の休み時間に、一緒に来て。全部話すから」
「わかった。大丈夫だよ、私ちゃんと琴音の話きくからね」
「うん」
何かを思いつめているような表情の琴音の頭を、そっと抱きしめた。すんすんと鼻をすする琴音は、自分のハンカチで顔を抑え、そのまままた俯いてしまう。
担任の女教師が入ってきて、私は席に戻った。ホームルームと一時間目のあいだ、私はずっと琴音が気がかりで、教室で一人そわそわしていた。一時間目の途中で教師に一度注意されたくらいだ。
長い一時間目の末にやっと休み時間がきて、私は琴音と一緒にトイレへ向かった。けれどトイレにはすでに人がいたので、一番近い校舎の裏手へと回る。念のために辺りを見回してから、琴音と向き合った。
「……琴音、何があったの」
「あ、あたしね」
「うん」
「あたし、赤ちゃんが出来ちゃったみたい」
私はきっちり三秒間制止した。
琴音の言葉がすとんと理解できない。いや、意味ならわかる。わかるけれど、現実と結びつけることが出来ないのだ。
私の視線は自然と琴音の腹部へ向く。
制服のブレザーに包まれたこの下に、赤ちゃんが……?
「確認はしたの?」
「うん。陽性だった。生理がこなくてね、おかしいなって思って、でもまさかって思って。でね、念のために試してみたの。そしたら陽性で、あたし、どうしたらいいの」
「落ち着いて。誰かに相談した?」
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