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2-3、呪われた姿
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はっ、と目を醒ましたセリナは、呆然と天井を見つめた。窓の外はまだ薄暗く、ぼんやりと室内を照らしている程度の明るさだ。
鈍い痛みを感じて、そっと下腹部を見る。シーツは真っ赤に染まり、「初めて」なんて出血の量ではない。殺人事件が起きたのかと思われるほどの染みとなっている。
辺りに散らばっている破かれたドレスの破片を手に取ったとき、隣で眠っている男にやっと気づいた。カインは獣姿から人へと戻っており、子どものような安らかな寝顔をしていた。
無性に腹が立ったが、がしがしと自らの頭を掻くことで感情を抑えて、ベッドから降りる。昨夜は途中で意識を飛ばしたので、記憶は曖昧だった。けれど、立った途端に秘部からこぼれてくる白濁を見ると、何が起きたのかは一目瞭然だった。
そっと腹部へ手を当てる。
(……大丈夫、壊れてない)
これがセリナではなく他の娘であったなら、子宮を引き裂かれて死んでいたかもしれない。それくらいに獣との交わりは凄まじく、男根は凶器でもあった。……途中から覚えていないけれど。
セリナは持ってきていたドレスを着て、靴を履くとカインを蹴飛ばした。
「起きろ、馬鹿っ」
カインは小さく唸りながら半身を起こすと、血まみれのシーツや全裸の自分を見て、顔を真っ青にした。
「…………血が」
「血が苦手なの? 騎士として致命的ね」
「違う。こんなに血が出ているということは……初めてだったのか」
真面目な顔で問われて、セリナは眉をひそめた。
確かに初めてだった。けれど、初めてかどうかの問題ではない。ベテラン娼婦であっても、アレで犯されれば血まみれになるだろう。
「……覚えてるのね」
「記憶はある。確実に、すべて、はっきりと」
真っ青な顔のまま頭を抱えるカインを見て、セリナはため息をつく。罵ってやろうと思ったが、彼自身に非はないのだ。だから、文句を言うにも言えない。
それに。夜中に何をしに来たのだと思ったけれど、直前に見ていた夢を思えば、もしかしたらセリナを心配して起こしてくれたのかもしれないのだ。
「気にしないで、平気だから。それよりシーツを早く処分して、新しいのに取り換えないと。ってか、あんたの衣類破けてるんだけど。変身するって気づいた瞬間に脱げなかったわけ? どうするの、全裸で戻るの?」
「……私は」
「ちょっと、茫然としてる場合じゃないでしょ。こんなことバレたら、色々とまずいのはあんたじゃないの。最悪、王女様との婚約が破談になるわよ。ほら、さっさと動く」
はっ、とカインはセリナを見た。その目はなぜか、驚きに満ちている。
やや沈黙が続き、ふと、セリナは不安になる。獣化の反動だろうか、どこか苦しいのかもしれない。
「ちょっと、大丈夫? どこか痛みとかない? 気持ち悪いところは?」
カインは益々目を見張り、やがて、神妙な顔で頷いた。
「責任を取ろう」
「だから、早く片付けるのよ。始末しないと、フィンが来ちゃうから」
「王女殿下の病が治った暁には、お前を嫁にする」
セリナは、その言葉の意味が理解できずに黙した。
お互いひたすら見つめ合い――もとい、にらみ合い、セリナのほうが先に視線を反らす。
「結構よ」
「決めた」
「そんなことより、今は現状をどう打開するかでしょ。ああ、もういい。私がこっそりあんたの着替え取ってくるから。どのテント?」
窓へ向かうセリナの後について、カインがついてくる。カインからテントを聞き出し、こっそり着替えを取りに行き、その後もバタバタと動き回った。
シーツどころかベッド自体に染みた血痕は取れず、迷った末にベッドを解体して、手分けしてベッドごと捨てた。忽然となくなったベッドは不自然だが、こうするより他はない。
フィンは気づかないかもしれないが、屋敷の持ち主は間違いなく気づくだろう。何が起こったのかと慌てる姿を想像して、気が重くなった。
証拠を隠滅したセリナは、疲れてソファに座り込む。
カインは仕事に戻り、一人になったセリナは腹部に手を当ててため息をつく。
痛みはもう、ほとんどない。実際ならばありえないことだが、それが起こり得るのはセリアもまた『呪われた身』だからだ。
「私って化け物ねぇ」
一人呟いた声音は、驚くほどに無感情だった。
ふと、ドアをノックする音がした。
フィンが朝食を持ってきてくれた。
鈍い痛みを感じて、そっと下腹部を見る。シーツは真っ赤に染まり、「初めて」なんて出血の量ではない。殺人事件が起きたのかと思われるほどの染みとなっている。
辺りに散らばっている破かれたドレスの破片を手に取ったとき、隣で眠っている男にやっと気づいた。カインは獣姿から人へと戻っており、子どものような安らかな寝顔をしていた。
無性に腹が立ったが、がしがしと自らの頭を掻くことで感情を抑えて、ベッドから降りる。昨夜は途中で意識を飛ばしたので、記憶は曖昧だった。けれど、立った途端に秘部からこぼれてくる白濁を見ると、何が起きたのかは一目瞭然だった。
そっと腹部へ手を当てる。
(……大丈夫、壊れてない)
これがセリナではなく他の娘であったなら、子宮を引き裂かれて死んでいたかもしれない。それくらいに獣との交わりは凄まじく、男根は凶器でもあった。……途中から覚えていないけれど。
セリナは持ってきていたドレスを着て、靴を履くとカインを蹴飛ばした。
「起きろ、馬鹿っ」
カインは小さく唸りながら半身を起こすと、血まみれのシーツや全裸の自分を見て、顔を真っ青にした。
「…………血が」
「血が苦手なの? 騎士として致命的ね」
「違う。こんなに血が出ているということは……初めてだったのか」
真面目な顔で問われて、セリナは眉をひそめた。
確かに初めてだった。けれど、初めてかどうかの問題ではない。ベテラン娼婦であっても、アレで犯されれば血まみれになるだろう。
「……覚えてるのね」
「記憶はある。確実に、すべて、はっきりと」
真っ青な顔のまま頭を抱えるカインを見て、セリナはため息をつく。罵ってやろうと思ったが、彼自身に非はないのだ。だから、文句を言うにも言えない。
それに。夜中に何をしに来たのだと思ったけれど、直前に見ていた夢を思えば、もしかしたらセリナを心配して起こしてくれたのかもしれないのだ。
「気にしないで、平気だから。それよりシーツを早く処分して、新しいのに取り換えないと。ってか、あんたの衣類破けてるんだけど。変身するって気づいた瞬間に脱げなかったわけ? どうするの、全裸で戻るの?」
「……私は」
「ちょっと、茫然としてる場合じゃないでしょ。こんなことバレたら、色々とまずいのはあんたじゃないの。最悪、王女様との婚約が破談になるわよ。ほら、さっさと動く」
はっ、とカインはセリナを見た。その目はなぜか、驚きに満ちている。
やや沈黙が続き、ふと、セリナは不安になる。獣化の反動だろうか、どこか苦しいのかもしれない。
「ちょっと、大丈夫? どこか痛みとかない? 気持ち悪いところは?」
カインは益々目を見張り、やがて、神妙な顔で頷いた。
「責任を取ろう」
「だから、早く片付けるのよ。始末しないと、フィンが来ちゃうから」
「王女殿下の病が治った暁には、お前を嫁にする」
セリナは、その言葉の意味が理解できずに黙した。
お互いひたすら見つめ合い――もとい、にらみ合い、セリナのほうが先に視線を反らす。
「結構よ」
「決めた」
「そんなことより、今は現状をどう打開するかでしょ。ああ、もういい。私がこっそりあんたの着替え取ってくるから。どのテント?」
窓へ向かうセリナの後について、カインがついてくる。カインからテントを聞き出し、こっそり着替えを取りに行き、その後もバタバタと動き回った。
シーツどころかベッド自体に染みた血痕は取れず、迷った末にベッドを解体して、手分けしてベッドごと捨てた。忽然となくなったベッドは不自然だが、こうするより他はない。
フィンは気づかないかもしれないが、屋敷の持ち主は間違いなく気づくだろう。何が起こったのかと慌てる姿を想像して、気が重くなった。
証拠を隠滅したセリナは、疲れてソファに座り込む。
カインは仕事に戻り、一人になったセリナは腹部に手を当ててため息をつく。
痛みはもう、ほとんどない。実際ならばありえないことだが、それが起こり得るのはセリアもまた『呪われた身』だからだ。
「私って化け物ねぇ」
一人呟いた声音は、驚くほどに無感情だった。
ふと、ドアをノックする音がした。
フィンが朝食を持ってきてくれた。
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