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第三章
二十五、
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「……この話は、初めて話しました。これまで誰にも話したことないんですよ」
「大切なんだな」
「あ、起きてたんですね」
「当たり前だ。だが、そうか。……なるほど、そういうことか」
ふ、と新居崎が笑う。
その声が柔らかくて、どうやら機嫌が直ったらしいと察した。
不思議と、そう理解した瞬間、眠気が押し寄せてきた。ふわふわと心地が良くて、でももっと話をしていたくて。
「でも、不思議ですねぇ。酒呑童子は、子孫なんかいないって言ってたのに。今日見た女性は、先生を酒呑童子の子孫だって言ってました。まぁ、それで助かったんですけど」
「子孫は直系だけとは限らないだろう」
「なるほど。……先生って、本当に、子孫なんで、しょ、うか」
「祖母の代まで、京都で暮らしていたとは聞いているが。さすがに平安時代まで遡ることはできんだろう」
「……」
「……おい、麻野」
「……」
「寝たのか」
眠りについた麻野は、静かな寝息をたてる。
もぞりとベッドからはい出した新居崎が近づいてきて、優しい手つきで頭を撫でていることに、気づかないまま。
今、新居崎がどれだけ優しい笑みを、愛しいものを見る笑みを浮かべているかも、気づかないまま。
「大切なんだな」
「あ、起きてたんですね」
「当たり前だ。だが、そうか。……なるほど、そういうことか」
ふ、と新居崎が笑う。
その声が柔らかくて、どうやら機嫌が直ったらしいと察した。
不思議と、そう理解した瞬間、眠気が押し寄せてきた。ふわふわと心地が良くて、でももっと話をしていたくて。
「でも、不思議ですねぇ。酒呑童子は、子孫なんかいないって言ってたのに。今日見た女性は、先生を酒呑童子の子孫だって言ってました。まぁ、それで助かったんですけど」
「子孫は直系だけとは限らないだろう」
「なるほど。……先生って、本当に、子孫なんで、しょ、うか」
「祖母の代まで、京都で暮らしていたとは聞いているが。さすがに平安時代まで遡ることはできんだろう」
「……」
「……おい、麻野」
「……」
「寝たのか」
眠りについた麻野は、静かな寝息をたてる。
もぞりとベッドからはい出した新居崎が近づいてきて、優しい手つきで頭を撫でていることに、気づかないまま。
今、新居崎がどれだけ優しい笑みを、愛しいものを見る笑みを浮かべているかも、気づかないまま。
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