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第二章

五、

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「アニメや漫画として出現している妖怪は、江戸時代に描かれたものです。まだ妖怪が妖怪という名前すらなく、数々の現象の理由づけとして具現化擬人化されたもので、庶民にとっては娯楽の一つでもありました。そういった、人々が想像できる妖怪や怨霊すなわち幽霊ではなく、都が京都にあった時代――つまり、平城京時代の怪異について、今回は具体的に調べることにしています」
「例えば」
「妖怪でいうと、百鬼夜行でしょうか。かの有名な安倍晴明も含めて、具体的な逸話や民話を取材できればと。怨霊でいうと、やはり菅原道真公や崇徳上皇などは外せません。すでに多くの人々が調べていることですが、書物で見た事柄が事実であるかの確認をしておきたいです。もちろん、事実かどうかなんて私には判断できませんが、脚色を極力なくして、自分で見聞きしておきたいと思っています。先生は、なぜ桓武天皇が都を京都へ移したかご存じですか。在位の間に二度も遷都を行っている理由に、怨霊にまつわる話が多々あります。そして現代でも、それらの話は多く取り上げられています。多くの災厄に見舞われる天皇たちを、庶民はどのように見ていたのか。どのように考え、対応し、信仰へ変えたのか。そういった部分も――」
「思っていたのと違うな」
「……へ?」
 ぽつりと呟かれた新居崎の言葉に、麻野はびしっと固まった。
 もしかして、麻野が知っている歴史や、麻野が考えている取材内容と、新居崎の観点は異なるのだろうか。だとすれば、今のうちに修正しとかなければ。
「す、すみません。どの辺りですか」
「きみはもっと、突っ走るタイプだと思っていた」
「はい?」
「それに、予想よりはるかにしゃべる。よく動く口だな」
 麻野は何度か瞬きをしてから、新居崎を見据えた。
「それを言うなら、先生だってよくしゃべるじゃないですか」
「……私が?」
「はい」
 ふむ、と新居崎が思考の海に沈んだ。
 沈黙が下りて、麻野は話の続きをする気にもなれず、黙り込む。ミラー越しに目があった運転手が、微かに笑っていた。やりとりを聞いて微笑ましいと思われたのは、間違いないだろう。ほっこりしてもらえたのなら、よかった。
 やがてタクシーは御所近くの路床で止まり、料金を支払った。しっかりと領収書を切ってもらって、経費専用のミニファイルへ丁寧に保管する。
 タクシーを見送ってから、麻野は新居崎を振り返った。
「タクシー、待ってもらわなくてよかったんですか」
「馬鹿をいえ、ここからは徒歩で移動していくんだ。途中の移動手段は、基本的に徒歩と地下鉄を使う。そっちのほうが早くて便利だからな。時間が合えばバスでも構わない。どれも合わなければタクシーを捕まえる。京都市内ほど、すぐにタクシーが捕まる場所もそうそうないぞ」
「お詳しいんですね、なんだか先生が一緒だと心強いです! 突き合わせちゃって申し訳ないのも事実なんですが、やっぱり嬉しいものですね」
「嬉しい? 私のように見目のよい男を傍に侍らすことが、か?」
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