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第二章 飛龍島
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「待って。全員殺されたのなら、どうしてトワはそのことを知ってるの?」
思わずトワを振り返る。
ヒトが歴史を改ざんしたのならば、真実の歴史を知る者は限られてくるはずだ。本土に渡った新人種が全滅させられたのだとしたら、尚更真実は闇のなかへ消えてしまったのではないか。
改ざんされる前の事実を、トワはいつ知ることが出来たのだろう。
トワはちらりとだけ小毬を見つめ、すげなく告げる。
「母から聞いた」
「さっき話してくれた、義理のお母さんのこと?」
「ああ」
トワの言葉には、どこか拒絶の色が含まれているような気がした。母親について聞かれるのは、あまり好きではないということだろうか。
もっとトワ自身について知りたかったが、あまりしつこく母親について問うのも憚られて、小毬は別の言葉を告げる。
「ここに塚があるってことは、昔新人種たちが渡った本土ってこの辺りなの?」
「そうだ」
「この辺りに住んでいた人々は皆、新人種を悪者扱いしたんだね」
「実際に決定をした――新人種を悪鬼のような種族だと発表したのは、日本政府だ。新人種という存在が鬼と同等であるほうが、都合がよかったのだろう」
「どういう意味?」
「そのうち教えてやる」
トワの声音が厳しくて、小毬は小さく頷いた。
「そんな過去があった場所なのに。新人種がどんな扱いを受けているのか知っているのに。なのに、トワは」
言葉を途切れさせた。
これ以上言ってはいけないような気がして口をつぐんだが、トワの目が先を促すように小毬を見つめてくる。
「えっと」
「早く言え」
「トワは、そんな敵地に単独で乗り込んでくるくらい……未来に会いたかったんだね」
言ってしまってから、やはり後悔した。
まるでひがみのようだ。いや、まるでではない。ひがみそのものではないか。どうやら小毬はどこまでも未来に嫉妬してしまうらしい。
トワの顔が見られなくて俯いていると、頭にぬくもりが触れた。トワの大きな手が小毬の頭を大雑把に撫でる。
「小毬もそうだろう。そんな過去を持つ種族ばかりの島へ、行こうとしているんだ。行くのが怖くなったか?」
「怖くないよ」
トワは目じりを下げて柔和に微笑んだ。
「そうか。飛龍島には新人種が大勢いるから驚くぞ。間違えても目をえぐるようなことはするなよ」
小毬はさっと青くなった。
「どうして、それを」
「初対面で目をえぐられそうになったのは初めてだ」
「綺麗だったから、つい、その」
「ありがとう」
お礼を言われて、小毬は首を傾げた。何をするんだと罵られこそすれ、お礼など言われる理由はない。
トワの手が頭から離れ、トワは来た道を戻るように歩き出す。
小毬はしばらく意味を考えていたが、トワに着いてくるように促されると慌てて駆けだした。
思わずトワを振り返る。
ヒトが歴史を改ざんしたのならば、真実の歴史を知る者は限られてくるはずだ。本土に渡った新人種が全滅させられたのだとしたら、尚更真実は闇のなかへ消えてしまったのではないか。
改ざんされる前の事実を、トワはいつ知ることが出来たのだろう。
トワはちらりとだけ小毬を見つめ、すげなく告げる。
「母から聞いた」
「さっき話してくれた、義理のお母さんのこと?」
「ああ」
トワの言葉には、どこか拒絶の色が含まれているような気がした。母親について聞かれるのは、あまり好きではないということだろうか。
もっとトワ自身について知りたかったが、あまりしつこく母親について問うのも憚られて、小毬は別の言葉を告げる。
「ここに塚があるってことは、昔新人種たちが渡った本土ってこの辺りなの?」
「そうだ」
「この辺りに住んでいた人々は皆、新人種を悪者扱いしたんだね」
「実際に決定をした――新人種を悪鬼のような種族だと発表したのは、日本政府だ。新人種という存在が鬼と同等であるほうが、都合がよかったのだろう」
「どういう意味?」
「そのうち教えてやる」
トワの声音が厳しくて、小毬は小さく頷いた。
「そんな過去があった場所なのに。新人種がどんな扱いを受けているのか知っているのに。なのに、トワは」
言葉を途切れさせた。
これ以上言ってはいけないような気がして口をつぐんだが、トワの目が先を促すように小毬を見つめてくる。
「えっと」
「早く言え」
「トワは、そんな敵地に単独で乗り込んでくるくらい……未来に会いたかったんだね」
言ってしまってから、やはり後悔した。
まるでひがみのようだ。いや、まるでではない。ひがみそのものではないか。どうやら小毬はどこまでも未来に嫉妬してしまうらしい。
トワの顔が見られなくて俯いていると、頭にぬくもりが触れた。トワの大きな手が小毬の頭を大雑把に撫でる。
「小毬もそうだろう。そんな過去を持つ種族ばかりの島へ、行こうとしているんだ。行くのが怖くなったか?」
「怖くないよ」
トワは目じりを下げて柔和に微笑んだ。
「そうか。飛龍島には新人種が大勢いるから驚くぞ。間違えても目をえぐるようなことはするなよ」
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「初対面で目をえぐられそうになったのは初めてだ」
「綺麗だったから、つい、その」
「ありがとう」
お礼を言われて、小毬は首を傾げた。何をするんだと罵られこそすれ、お礼など言われる理由はない。
トワの手が頭から離れ、トワは来た道を戻るように歩き出す。
小毬はしばらく意味を考えていたが、トワに着いてくるように促されると慌てて駆けだした。
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