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①世間
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「災難だな、ハインリヒくん」
馬車から降りてくるなり、ウッドテイル伯爵は笑った。
来訪者たる彼を出迎えた長身の執事――ハインリヒは無表情で一礼する。
濃い金髪に灰色の瞳をしたハインリヒをちらりと見て、ウッドテイル伯爵は鼻を鳴らした。
「きみの忠誠心には感服するよ。あの愚鈍な四女を妻になど、財産をやると言われてもごめんだからね」
ハインリヒは無言のままだが、ウッドテイル伯爵は気分を害した様子はない。
ハインリヒが無口で最低限のことしか話さないのはいつものことだからだ。
ウッドテイル伯爵は、膨らんだ腹を撫でながら歩き出す。
屋敷は馬車を降りて十メートルとないのに、彼は汗だくになっている。息を切らしながらも、彼は話を続けた。
「しかし、きみにとってはよいことなのかもしれんな。なにせ、孤児だったきみが、ディライト家に名を連ねることができたのだから。……といっても、四女の婿養子か。はは」
屋敷に着くと、中央の半螺旋階段からディライト家当主である、ディライト伯爵が降りてきた。
旧友であるウッドテイル伯爵を見るなり両手を広げ、軽い抱擁を交わす。
「ロイ、また太ったんじゃないか?」
「はは、この時期は食事が進むものでね」
「きみはいつもだろう」
「まぁまぁ、いいじゃないか。食事といえば、今も話していたんだが、きみの四女の結婚式、その食事を楽しみにしていたのだよ」
ウッドテイル伯爵の声音は沈んでいた。
彼は食べることが大好きで、長女から三女まで、そして五女の結婚式では、持参した大層な祝儀に見合うだけの食事を堪能して帰ったのだ。
ビュッフェのほとんどが、彼の胃袋に入ったといってもいい。
ディライト伯爵家は、伯爵家のなかでも有数の資産家だ。
親戚も皆優秀で、国王の覚えもめでたく、官職に就いている者も多かった。
そんなディライト伯爵家が催すあらゆる式典は、珍しい食事や見世物が多く用意され、多いに客人を楽しませるのだ。
そういった意味では、ウッドテイル伯爵ががっかりするのも無理はなかった。
なにせ、長女、次女、三女、そして五女と、皆それぞれ盛大な結婚披露宴をひらいてきたのだから。
ディライト伯爵は鼻を鳴らした。
「そう言ってくれるな。わしとしては、極力あの馬鹿娘をひと目に晒したくないのだよ」
「ははは、大変だなきみも。できの悪い子を持つと苦労する」
「まったくだ。ハインリヒに嫁がせたからな、やっとこれで肩の荷が下りる」
ディライト伯爵の四女は、つい先月結婚した。
相手はディライト伯爵家に忠誠を誓っている執事のハインリヒだ。
彼は今年三十九歳になる男で、四女は十九歳。
二十も歳の差があったが、些細なことだった。ディライト伯爵からすれば、問題児である四女が嫁いでくれればそれでよかったのである。
伯爵令嬢ともなれば、通常ならば嫁のもらい手はいくらでもいるものだ。
持参金目当ての貴族、爵位が欲しい商人、若い妻を望む老齢の男――。
しかし、四女はそうもいかなかった。
それは、彼女に纏わる噂のせいだ。
一つ、四女はとても愚かである。
人の名前も覚えられず、算数も満足にできない。
二つ、四女は挨拶ができない。
顔を合わせるなり、相手が気にしていることをあげ連ねて馬鹿にして、相手が激怒している姿を見てキャッキャと笑うのだ。
三つ、この世のものとは思えない醜女である。
猿のように小さく、姦淫の罪を犯した者と同じ短い髪をし、顔は痘痕だらけで、肌はあちこち爛れている。目はヒラメのように細長くて、鼻は豆を詰めているように膨らみ、頬は骸骨のように痩せこけている。
そんな噂がまことしやかに囁かれ、それらが決して嘘では無いという噂まで広がっていた。
実際、四女は幼少期から変わり者として、何かと騒ぎを起こしては貴族社会で話題にされてきたため、彼女についての悪評はすんなり信じられたのである。
そうしたことがあり、四女は、五女が嫁に行っても、十八を過ぎても、嫁のもらい手がなかった。
しかしながら、どのような噂があろうと四女は資産ある伯爵令嬢。
なかには、ぜひ妻に欲しいと、名乗りをあげた者もいたにはいたのだ。
だが、なぜか本決まりに至る前に辞退する者ばかりだった。貴族の婚約は、正式に決まる前に破談することが多いものなのだが、なにせ、相手はあの四女だ。
ついには四女を嫁に迎えようとすると不幸になるという、よくわからない噂まで流れる始末だった。
そうなると、ディライト伯爵の生活にも支障が出てくる。
出掛けるたびに四女の結婚はどうなっただの、婚約はまだかだの、そればかり聞かれるようになった。それだけならば、笑って流すくらいの社交で済むことだが、四女が嫁に行けないのは、家柄が関係しているのではないかと言い出す者が現れたのだ。
誰が言っていたという具体的なことではなく、どこからともなくフッと現れた噂だった。
そこまで行くと、四女の噂はもはや止まることを知らない。
ディライト家の過去を面白おかしく調べる者や、ねつ造する者、実際の醜聞を掘り返して笑う者やわけの分からない『呪い』などと結びつける者まで現れて、社交界ではディライト家の話で持ちきりになってしまった。
そうなると、事業や投資といった仕事面にも影響が出てくる。
ディライト伯爵は、早急に噂を鎮めなければと考え、誰でもよいから四女を嫁がせてしまえばよいと思い至ったのである。
そうして、本来ならば結ばれるはずのない、もと孤児であるディライト家の執事と、ディライト伯爵令嬢が婚姻を結んだのであった――。
◇◇◇
ハインリヒは深々と頭をさげて、ディライト伯爵の執務室をあとにした。
「はは、今日も疲れたね。ゆっくり休みたまえよ」
そう言ったのは、ディライト家長女ユリアの夫であるフランツだ。
彼は次期ディライト家伯爵として、他家から婿養子にきたのである。ディライト家は五人の娘に恵まれたが、ついに男児は生まれなかったのだ。
フランツは現在、ディライト伯爵の補佐として日々仕事に励んでいる。
気さくに微笑んで、ぽんとハインリヒの肩に手を置いた。
今年で三十になるフランツは、いかにも色男といった風体で長女とは三つ歳が離れている。貴族社会では珍しい恋愛結婚だが、野心家のフランツにとって、ディライト伯爵家の当主ほど魅力的な立場はなかった。
伯爵家の三男坊として生まれたフランツは、博識で勤勉、あらゆる方面で優れていたが、三男というだけで家長になれなかったのである。
そんなフランツが、ディライト家の長女と恋に落ちた。
その『恋』が事実かどうかなど、ディライト伯爵にはどうでもよかった。
家を立派に継ぎ、ディライト家の名を名乗るに相応しい人物かどうか見極めることだけに重点を置き、長女婿を見定めたのだ。
そうして、フランツはディライト伯爵の眼鏡にかなったのである。
野心家なフランツは、幼少からディライト家で働いているというハインリヒと仲良くなりたいと考えていた。
というのも、フランツはもともとハインリヒを高く買っていたのだ。
貴族位こそ持たないが、執事を任されるだけあってハインリヒは有能だ。ディライト伯爵も彼には多くのことを任せており、信用も厚い。
しかもつい先月ディライト家の四女を妻に貰って婿養子に入ったため、はれてハインリヒもディライト家の一員となったのである。
次女、三女、五女はそれぞれの家に嫁いだため、ディライト家に残っているのは、長女と四女だ。二人の夫がディライト家のあとを継ぐ権利を持つが、その点において、フランツは心配していなかった。
なにせ、ハインリヒは驚くほど無欲なのである。
求められている以上のことを行う能力があるにも関わらず、彼は決して自分を売り込んだり、威張ったり、驕ったりしない。
手柄は譲り、彼自身は生活に必要な範囲の給料さえあればよいといったふうなのだ。
清々しいほどさっぱりしたハインリヒに、養子に来た当初こそ警戒していたフランツも今は気を許している。
むしろ、仲良くなって自分がディライト家を継いだあとも、多いに手腕を振るってもらいたいとさえ考えていた。
その際は、彼に見合った地位と財産を与えるつもりだ。
フランツは、相手がもと平民だからと馬鹿にしない。
むしろ、それなりの教育を受けてきたにも関わらず使えない貴族のほうが愚かだと考える。
「そうだ、ハインリヒ。今度、遊びにいかないか? 仕事で紹介して貰ったんだが、花街のほうにとてもよい郭があってね」
「せっかくですが、ご遠慮致します」
「たまには遊ぶことも大切だよ。もちろん、家庭を持つ身としての自覚は絶対に必要だがね」
「そうですか」
気のない返事に、フランツは肩をすくめた。
年上の義弟は今日も堅物である。
眉一つ動かさないこの男が、果たして四女のような気難しい女性を相手にどのような新婚生活を営んでいるのか、まったくもって想像ができない。
とはいえ、フランツは四女のことをよく知らないのだ。
もとより四女は、一度も社交界に姿を見せていなかった。フランツが四女と顔を合わせたのは、この屋敷に越してきた当日と、その翌日だけである。
姿こそ噂のような醜女ではなかったが、物静かで、話しかけても控えめに微笑むだけなのだ。付き合いにくい娘だという印象を受けた。
「……私は、こちらですので」
「あ、ああ」
踵を返して立ち去る後ろ姿は、彼の表情と同じように何も語らない。
ハインリヒは、結婚と同時に四女夫婦が与えられた離れに続く渡り廊下に、消えて行った。
馬車から降りてくるなり、ウッドテイル伯爵は笑った。
来訪者たる彼を出迎えた長身の執事――ハインリヒは無表情で一礼する。
濃い金髪に灰色の瞳をしたハインリヒをちらりと見て、ウッドテイル伯爵は鼻を鳴らした。
「きみの忠誠心には感服するよ。あの愚鈍な四女を妻になど、財産をやると言われてもごめんだからね」
ハインリヒは無言のままだが、ウッドテイル伯爵は気分を害した様子はない。
ハインリヒが無口で最低限のことしか話さないのはいつものことだからだ。
ウッドテイル伯爵は、膨らんだ腹を撫でながら歩き出す。
屋敷は馬車を降りて十メートルとないのに、彼は汗だくになっている。息を切らしながらも、彼は話を続けた。
「しかし、きみにとってはよいことなのかもしれんな。なにせ、孤児だったきみが、ディライト家に名を連ねることができたのだから。……といっても、四女の婿養子か。はは」
屋敷に着くと、中央の半螺旋階段からディライト家当主である、ディライト伯爵が降りてきた。
旧友であるウッドテイル伯爵を見るなり両手を広げ、軽い抱擁を交わす。
「ロイ、また太ったんじゃないか?」
「はは、この時期は食事が進むものでね」
「きみはいつもだろう」
「まぁまぁ、いいじゃないか。食事といえば、今も話していたんだが、きみの四女の結婚式、その食事を楽しみにしていたのだよ」
ウッドテイル伯爵の声音は沈んでいた。
彼は食べることが大好きで、長女から三女まで、そして五女の結婚式では、持参した大層な祝儀に見合うだけの食事を堪能して帰ったのだ。
ビュッフェのほとんどが、彼の胃袋に入ったといってもいい。
ディライト伯爵家は、伯爵家のなかでも有数の資産家だ。
親戚も皆優秀で、国王の覚えもめでたく、官職に就いている者も多かった。
そんなディライト伯爵家が催すあらゆる式典は、珍しい食事や見世物が多く用意され、多いに客人を楽しませるのだ。
そういった意味では、ウッドテイル伯爵ががっかりするのも無理はなかった。
なにせ、長女、次女、三女、そして五女と、皆それぞれ盛大な結婚披露宴をひらいてきたのだから。
ディライト伯爵は鼻を鳴らした。
「そう言ってくれるな。わしとしては、極力あの馬鹿娘をひと目に晒したくないのだよ」
「ははは、大変だなきみも。できの悪い子を持つと苦労する」
「まったくだ。ハインリヒに嫁がせたからな、やっとこれで肩の荷が下りる」
ディライト伯爵の四女は、つい先月結婚した。
相手はディライト伯爵家に忠誠を誓っている執事のハインリヒだ。
彼は今年三十九歳になる男で、四女は十九歳。
二十も歳の差があったが、些細なことだった。ディライト伯爵からすれば、問題児である四女が嫁いでくれればそれでよかったのである。
伯爵令嬢ともなれば、通常ならば嫁のもらい手はいくらでもいるものだ。
持参金目当ての貴族、爵位が欲しい商人、若い妻を望む老齢の男――。
しかし、四女はそうもいかなかった。
それは、彼女に纏わる噂のせいだ。
一つ、四女はとても愚かである。
人の名前も覚えられず、算数も満足にできない。
二つ、四女は挨拶ができない。
顔を合わせるなり、相手が気にしていることをあげ連ねて馬鹿にして、相手が激怒している姿を見てキャッキャと笑うのだ。
三つ、この世のものとは思えない醜女である。
猿のように小さく、姦淫の罪を犯した者と同じ短い髪をし、顔は痘痕だらけで、肌はあちこち爛れている。目はヒラメのように細長くて、鼻は豆を詰めているように膨らみ、頬は骸骨のように痩せこけている。
そんな噂がまことしやかに囁かれ、それらが決して嘘では無いという噂まで広がっていた。
実際、四女は幼少期から変わり者として、何かと騒ぎを起こしては貴族社会で話題にされてきたため、彼女についての悪評はすんなり信じられたのである。
そうしたことがあり、四女は、五女が嫁に行っても、十八を過ぎても、嫁のもらい手がなかった。
しかしながら、どのような噂があろうと四女は資産ある伯爵令嬢。
なかには、ぜひ妻に欲しいと、名乗りをあげた者もいたにはいたのだ。
だが、なぜか本決まりに至る前に辞退する者ばかりだった。貴族の婚約は、正式に決まる前に破談することが多いものなのだが、なにせ、相手はあの四女だ。
ついには四女を嫁に迎えようとすると不幸になるという、よくわからない噂まで流れる始末だった。
そうなると、ディライト伯爵の生活にも支障が出てくる。
出掛けるたびに四女の結婚はどうなっただの、婚約はまだかだの、そればかり聞かれるようになった。それだけならば、笑って流すくらいの社交で済むことだが、四女が嫁に行けないのは、家柄が関係しているのではないかと言い出す者が現れたのだ。
誰が言っていたという具体的なことではなく、どこからともなくフッと現れた噂だった。
そこまで行くと、四女の噂はもはや止まることを知らない。
ディライト家の過去を面白おかしく調べる者や、ねつ造する者、実際の醜聞を掘り返して笑う者やわけの分からない『呪い』などと結びつける者まで現れて、社交界ではディライト家の話で持ちきりになってしまった。
そうなると、事業や投資といった仕事面にも影響が出てくる。
ディライト伯爵は、早急に噂を鎮めなければと考え、誰でもよいから四女を嫁がせてしまえばよいと思い至ったのである。
そうして、本来ならば結ばれるはずのない、もと孤児であるディライト家の執事と、ディライト伯爵令嬢が婚姻を結んだのであった――。
◇◇◇
ハインリヒは深々と頭をさげて、ディライト伯爵の執務室をあとにした。
「はは、今日も疲れたね。ゆっくり休みたまえよ」
そう言ったのは、ディライト家長女ユリアの夫であるフランツだ。
彼は次期ディライト家伯爵として、他家から婿養子にきたのである。ディライト家は五人の娘に恵まれたが、ついに男児は生まれなかったのだ。
フランツは現在、ディライト伯爵の補佐として日々仕事に励んでいる。
気さくに微笑んで、ぽんとハインリヒの肩に手を置いた。
今年で三十になるフランツは、いかにも色男といった風体で長女とは三つ歳が離れている。貴族社会では珍しい恋愛結婚だが、野心家のフランツにとって、ディライト伯爵家の当主ほど魅力的な立場はなかった。
伯爵家の三男坊として生まれたフランツは、博識で勤勉、あらゆる方面で優れていたが、三男というだけで家長になれなかったのである。
そんなフランツが、ディライト家の長女と恋に落ちた。
その『恋』が事実かどうかなど、ディライト伯爵にはどうでもよかった。
家を立派に継ぎ、ディライト家の名を名乗るに相応しい人物かどうか見極めることだけに重点を置き、長女婿を見定めたのだ。
そうして、フランツはディライト伯爵の眼鏡にかなったのである。
野心家なフランツは、幼少からディライト家で働いているというハインリヒと仲良くなりたいと考えていた。
というのも、フランツはもともとハインリヒを高く買っていたのだ。
貴族位こそ持たないが、執事を任されるだけあってハインリヒは有能だ。ディライト伯爵も彼には多くのことを任せており、信用も厚い。
しかもつい先月ディライト家の四女を妻に貰って婿養子に入ったため、はれてハインリヒもディライト家の一員となったのである。
次女、三女、五女はそれぞれの家に嫁いだため、ディライト家に残っているのは、長女と四女だ。二人の夫がディライト家のあとを継ぐ権利を持つが、その点において、フランツは心配していなかった。
なにせ、ハインリヒは驚くほど無欲なのである。
求められている以上のことを行う能力があるにも関わらず、彼は決して自分を売り込んだり、威張ったり、驕ったりしない。
手柄は譲り、彼自身は生活に必要な範囲の給料さえあればよいといったふうなのだ。
清々しいほどさっぱりしたハインリヒに、養子に来た当初こそ警戒していたフランツも今は気を許している。
むしろ、仲良くなって自分がディライト家を継いだあとも、多いに手腕を振るってもらいたいとさえ考えていた。
その際は、彼に見合った地位と財産を与えるつもりだ。
フランツは、相手がもと平民だからと馬鹿にしない。
むしろ、それなりの教育を受けてきたにも関わらず使えない貴族のほうが愚かだと考える。
「そうだ、ハインリヒ。今度、遊びにいかないか? 仕事で紹介して貰ったんだが、花街のほうにとてもよい郭があってね」
「せっかくですが、ご遠慮致します」
「たまには遊ぶことも大切だよ。もちろん、家庭を持つ身としての自覚は絶対に必要だがね」
「そうですか」
気のない返事に、フランツは肩をすくめた。
年上の義弟は今日も堅物である。
眉一つ動かさないこの男が、果たして四女のような気難しい女性を相手にどのような新婚生活を営んでいるのか、まったくもって想像ができない。
とはいえ、フランツは四女のことをよく知らないのだ。
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姿こそ噂のような醜女ではなかったが、物静かで、話しかけても控えめに微笑むだけなのだ。付き合いにくい娘だという印象を受けた。
「……私は、こちらですので」
「あ、ああ」
踵を返して立ち去る後ろ姿は、彼の表情と同じように何も語らない。
ハインリヒは、結婚と同時に四女夫婦が与えられた離れに続く渡り廊下に、消えて行った。
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