13 / 27
第三章 ホテルで過ごす夜
【4】※
しおりを挟む穏やかな心地だった。
一日働いたあと、湯舟でひと息ついたときのように、今にも眠ってしまいそうだ。
(……違う。私、寝てたんだ)
微睡みから、ゆっくりと現実へ意識を向ける。
熱い吐息をはいて、快感にしびれる身体をくねらせた。
「ん……ぁ」
無意識にこぼれる声は、快感の色で塗られている。自分の声とは思えないけれど、身体を駆け抜ける快感に突き動かされるまま、有希は嬌声をあげた。
「あ、ふぅ、ん。きもち、いい」
「……目が覚めましたか?」
聞き覚えのある声に、ゆっくりと視線を向ける。
慎一郎が、すぐ隣で横になっていた。彼の長い指が、有希の乳房の先端をくにくにと弄っている。
すでに硬く尖った突起は、更なる刺激を欲してぷっくりと膨らんだ。
有希は、穏やかな表情で見つめてくる慎一郎に、笑みを返す。夢ではなかった。起きたときに慎一郎が傍にいてくれた嬉しさと、寝顔を見られた恥ずかしさから、有希は慎一郎の胸にすり寄った。
慎一郎はシャツを着ていて、有希だけが裸の状態だったが、シャツ越しでも慎一郎の身体が熱をもっているのがわかる。
「変な起こし方しないでくださいよ」
「何が、変なんです?」
すり寄ってきた有希を抱きしめた慎一郎は、有希の臀部を撫でると、後ろから秘部へ指を滑らせた。
「あっ」
「先ほど、ここを沢山触りましたが、痛くはありませんか? ……この、ぬるりとしたものは、血では?」
「――っ、ち、ちがっ」
「では、一体なんでしょう?」
なんてことを聞くのだろう、とねめつけた有希を、慎一郎が不敵に笑いながら見下ろす。慎一郎は、子どものような意地の悪そうな笑みを浮かべている。半面、嬉しくてたまらないといった好奇心と歓喜の感情もみせていて、有希は怒るに怒れない。
こんなふうに、楽しむ慎一郎の姿を見れたことが、嬉しかった。
「ちゃんと言えたら、ご褒美をあげましょうね」
慎一郎は、指を動かして、太ももの間にこぼれた愛液を指にこすりつけると、割れ目にそって、恥丘を撫でた。表面だけなんども往復する指は、じれったいほど、触れてほしいところを避けていく。
「有希?」
「……いじわる」
「有希が可愛いからですよ」
額にキスをされて、まるでお姫様のような気分になった――ところで、割れ目のなかへ、指が侵入してきた。お姫様ならば、もっと潔癖な目覚めのような気もするけれど、指の動きが優しくて、有希は悦びから頬を染めて顔を慎一郎の胸にすりつけた。
「まだ溢れてきますね」
「もっ、それ」
「これは、なんです? あまりこういったことに興味がなかったので、わからないことが多くて」
(う、嘘だっ)
ついさっき、有希が疲れて寝てしまうほどに、慎一郎は有希を悦ばせた。
舌や指、唇を巧みに使い、気持ちいい部分を探し出しては、大人の余裕でじっくりと攻め立てたのだ。さらに、優しい言葉をかけて心身ともに包み込むという手管は、かなり慣れているように思えたけれど。
顔をあげると、慎一郎が微笑んで有希をみていた。
有希が拒絶するとは考えていない、ある意味で純粋無垢な表情だ。ただじっと、有希の返事を待つ彼は、健気にさえみえた。
「……そ、それは」
「これは? なんです?」
「か、片瀬さんが、触るから……溢れてくるんですっ。つまり、その。そ、そういうやつです」
「……ふ。ふふふっ」
ふいに、慎一郎が笑みを深めた。
声に出して笑い始めたことにむっとするけれど、彼のまなざしが愛しみを灯していて、有希はまた、言葉を飲み込んだ。
寝ているときから触れられていたのか、全身は火照っていて、下腹部はじんじんと甘くしびれている。早く続きが欲しくて、有希は唇をきゅっと結び、慎一郎を上目遣いでみた。
慎一郎は笑顔のまま有希を強く抱きしめると、割れ目のなかに挿入れていた指を引き抜いた。
「あ」
喪失感にも似た寂しさに、思わず有希は声をあげる。
慎一郎は身体を起こしてベッドから降りると、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して蓋を軽く開け、有希へ差し出した。
「はい、ご褒美です」
「……え?」
「喉、乾いたでしょう?」
そう言って、慎一郎はベッド脇に座った。
有希は頷いて起き上がると、勘違いをしてしまった自分が消えたくなるくらいはずかしくて、俯きながらペットボトルを受け取る。
一口飲むと、思っていたよりも喉が渇いていたことがわかって、一気に半分近くの水を飲んだ。
「まだ、夜の八時です。何か食べに行きましょうか。それともルームサービスを頼みますか?」
「ルームサービスは割高なので、却下です」
「有希は、地に足がついてますね」
慎一郎は有希からペットボトルを取り上げると、小棹に置いた。半分弱ほど残っていた水が、ちゃぷりと音をたてる。
慎一郎の腕が有希の首の裏に宛がわれた、そう思った瞬間、ゆっくりと横たえられて、慎一郎が覆いかぶさってきた。
強く抱きしめられて、有希も抱きしめ返した。
「ずっと、有希とくっついていたいです。私が、こんなことを思うなんて」
「私も、くっついて、いたいです」
大きなぬくもりに包まれた有希は、慎一郎に喜んでほしくて、素直に返事を返した。
そのとき。
ぱっ、と慎一郎が顔をあげた。
「そうですか! よかった」
慎一郎は手を伸ばして、床から四角いビニールに入った避妊具を取り出した。
「……こんどーむ? え? どうして」
「買ってきました」
「ええ⁉ 今ですか!」
「はい。車でドラッグストアまで」
なんたる行動力。
驚いた有希だが、少し遅れて、慎一郎が車をとばしてまで避妊具を買ってきた意味を理解すると、頬を真っ赤にした。
そんなに、したいと思ってくれているのだ。
(これは、かなり……嬉しすぎて、やばい)
「片瀬さん、ありがとうございます。その、とても、嬉しいです」
「どうしようもなく肌を合わせたくて買いに行きましたが、有希が嫌ならやめるつもりでした。でも、先ほどの様子からしても、嫌ではなさそうですね」
「先ほど、って」
「指をひきぬいたとき。あなたから離れて水を取りに行ったとき。……寂しそうな表情を、していましたよ?」
「気づいていたんですかっ」
頬を赤くする有希を見て、慎一郎がくすりと笑った。
「有希のことを、もっと、知りたいのです。だから、よく見ることにしました。……まぁ、気づけば意識しているのですが」
「恥ずかしいことを堂々と言わないでください。反応に困ります」
「嫌、ですか?」
「嬉しいから、困るんですっ」
慎一郎が、唇を合わせてくる。
当然の成り行きのように、舌が挿入されて、じっくりと口内を愛撫された。有希も答えて、お互いの唾液を混ぜあうように、濃いキスを繰り返す。
やっと顔が離れたとき、慎一郎の上気した頬と緩んだ表情が見えて、有希は胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。
ぺろ、と慎一郎が、有希の唇についた唾液を舐めた。
「夕食は、どうしますか?」
「え? あ」
夕食のことなど忘れていた有希は、このあと夕食にするはずだったことを、思い出した。
「どこかへ食べに行くんでしたっけ。それとも、買ってきましょうか。私は、どっちでも大丈夫です。片瀬さんは、何か食べたいものがありますか?」
来る途中、ホテルの近くに、コンビニがあるのが見えた。あそこなら、徒歩でもいける距離だろう。
「それは、有希以外で、という意味ですか?」
「はい?」
コンビニならおにぎりがいいな、と考えていた有希の思考は、一瞬にして消えた。今、慎一郎はなんと言ったのか。
「私以外で、って……あ」
慎一郎が軽く笑って、太ももに下半身を押し付けてきた。慎一郎の昂ったものが、彼の服越しに熱を伝えてくる。
(あれ、さっき、もしかして片瀬さん、イケなかった? 最初に確か一度……どうしよう、そのあとは、私ばっかり気持ちよくなってたってこと?)
もしかして、避妊具を買いにいったのも、先ほどの情事では足りなかったのかもしれない。こんなに硬くそり立たせているのだから、少なくとも慎一郎は、食事よりも有希を求めているのだ。
「わ、私も、含めて、です」
勇気を出して、遠回しに誘い文句を言ってみた。お腹は減っているけれど、今は胸がいっぱいで、是が非でも食事にありつきたいわけではない。
「ならば、あなたが食べたいのですが」
また、慎一郎は自身の昂りを押し付けてくる。
「ほら、こんなになってしまっています。あなたが欲しくて、我慢がそろそろきついのです」
「どうしたら、いいですか?」
慎一郎がまた、有希の唇へ自身の唇を合わせた。
ついばむだけのキスを繰り返して、軽く上唇をはんだ慎一郎は、有希の首筋へ唇を滑らせた。
「私のことだけ、考えてください」
「は、ぁ、いっ……んっ」
慎一郎の唇が、首筋を降りていき、胸の先端で止まる。咥えるなり強く吸い上げられて、背中を仰け反らせた。意識が乳房に集中し、先ほど与えられた快感で潤んでいた下腹部が蜜をあふれさせる。
まるでそれを読んだように、慎一郎の男らしい硬い指が、有希の秘部に触れた。
泥濘へ指を差し入れられて、ビクッと身体が小さく跳ねる。さらに深い部分へ指が挿入っていき、内側から有希へ快感を与えた。親指が、感触を楽しむように女芽に触れる。指の腹で表面をこすられて、さらに愛液を溢れさせながら、有希の身体は快感に震えた。
「ひっ、ぁっ!」
「ここ、さっきとても可愛らしい反応をしてくれましたね」
ぐり、と指がナカで動いて、息をつめた。ぶわりと熱が腹の底から広がって、身体が弛緩する。じらされるように愛撫され続けた身体は、驚くほど簡単に絶頂を迎えた。
荒い呼吸を整えながら、ぼんやりと、服を脱ぐ慎一郎を見つめた。
ほっそりとした体格は、女性のような顔立ちと同じように線が細い。けれども、うっすらとついたしなやかな筋肉や広い肩幅は、男性のものだ。
見惚れていると、うっとり微笑んだ慎一郎と目が合った。
慎一郎は、有希の両足を広げて、自身の身体を間にいれる。熟れて蜜を垂らす秘部をじっくり見つめ、指先で割れ目を撫でた。
「ここに、挿入れますよ」
いつの間にか、避妊具が入っていたゴミがベッド脇に置いてある。あ、と思った瞬間、硬いそれが割れ目に押し付け割れた。
「いいですか?」
余裕そうに見えた慎一郎だが、その声はかすれている。額に浮かぶ汗も、乱れた呼吸も、彼が全身で有希を求めているのがわかった。
それだけで、有希はまた、蜜をこぼす。
「はやく、ください。奥に、片瀬さんの――ぁ、あっ」
言い終えるや否や、硬いものが押し付けられた。そう思った瞬間、割れ目を押し広げて、硬く熱い怒張がナカへと挿入ってくる。指とは比べ物にならない質量の熱に、無意識に腰が引いてしまうけれど、引いた分以上に慎一郎が距離をつめた。
「ひっ、ぁあっ」
ゆっくりと奥へ挿入ってくる熱に、シーツを掴んだ。
痛みはないけれど、圧迫感と、それ以上に擦れる快感があった。
欲しかった奥へ、さらに奥へと、慎一郎のものが侵入する。
「ああ、全部、はいりましたよ。……ほら」
ぐっ、と腰を押し付けられて、有希は声をあげた。有希の、快感と悦びの声を聞いた慎一郎の怒張は、さらに質量を増し、ゆるゆると、奥へこすりつけ始めた。
下腹部の奥が、慎一郎でいっぱいになる。
(嬉しい、嬉しい、嬉しい――)
繰り返される抽挿が、有希の思考を蕩けさせた。慎一郎と一体となって、目の前で自分の乳房が揺れるのが見える。
「か、たせ、さっ」
名前を呼んだ。
「かたせ、さんっ」
何度も。何度も。
ふと、慎一郎が有希の両足から手を離して、さらに深く、腰を押し付けた。
「ひっ!」
身体を仰け反らせた有希に、慎一郎が覆いかぶさった。押し付けられた唇を受け入れながら、下から力強く突かれる動きを全身で感じる。先ほどまでとは違う、奥で早く抽挿される動きに、呼吸がこれまで以上にあがっていく。
「有希っ、あっ、気持ちいいっ」
熱のこもった声が、すぐ傍で聞こえる。
「わたしも、すごく、いいっ」
両手を慎一郎の背中に回すと、汗ばんだ肌がしっとりと手にふれた。
それが合図のように、慎一郎は動きをさらに早めて、うわ言のように有希の名前を繰り返した。有希の意識もまた快感にぼやけて、慎一郎の背中に必死にしがみつく。
「有希っ、あ、もう、ああっ、有希っ」
力強く、奥を突かれたその瞬間。
有希の奥で、硬い熱が狂ったように膨張して、びくびくと痙攣した。避妊具越しに、吐き出された熱すぎる熱を感じて、有希の意識は真っ白に染まる。
「ひぃっ、ぁ――っ」
有希は、慎一郎にしがみついた。
ふたりで身体を硬直させて、快楽の渦のなか、お互いの存在だけを確認しあう。身体が弛緩したころ、どちらともなく目があって、唇を重ねた。
これまでよりも、一層はげしく、舌を絡ませあう。
「有希っ、ふぅ、足りませんっ、もっと」
もっとください、と慎一郎が繰り返す。
有希は、求められるままに受け入れた。体勢を変えて、何度も何度も、お互いの全身を知り合った。
途中で水を飲み、ひと息ついてからも、ベッドで肌を合わせて。空腹に気づいてコンビニで夕食を買い、食べたあとにも、またお互いを感じあった。
夜が更けて、朝になり、チェックアウトの時間を延長ぎりぎりまで伸ばしてから、ホテルを出た。
1
お気に入りに追加
552
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる