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第二十二話 情事のあと

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 フィリアは、痛みによろけながらベッドから降りようとした。
 腰と膣にぴりっと刺激が走り、よろけて床に座り込んでしまう。
 その瞬間、膣から白濁がこぼれて、慌てて秘部をぎゅっと手で押さえた。

 ソードは今、厨房へ水を取りに行ってくれている。
 何度かフィリアが水瓶を使っているのを見ていたから、場所はわかるだろう。

 情事を終えたソードは血まみれのシーツに驚き、これまでに見たことがないほど慌てていた。
 やりすぎたと繰り返し謝罪してきたので、フィリアは自分が望んだことだと言い、けれども、もしよかったら水を一口欲しいと頼んだのだ。

 今のうちに、せめて秘部についている血だけでも拭えないかと布を探し、先ほど脱ぎ捨てた下着でとりあえず拭っておこうと、拾うためにベッドから降りたところだった。
 シーツの血は誤魔化せないが、秘部についた血はまだ見られていないはずだから、隠せるだろう。
 せめてこの血だけでも拭って隠せば、ソードはこれ以上慌てなくて済むはずだ。

(……でも、身体に力が入らない)

 情事が、こんなに体力を消耗するものだなんて、思わなかった。
 世の中の夫婦は、よく頑張ってるなと他人事のように関心する。

「よいしょ、と……あれ。なにこれ」

 ベッドの下に、本があった。
 簡易の本棚を置いているわけではなく、この本一冊だけ、ぽつんと置いてあるのだ。
 ソードが、今読み進めている愛読書だろうか。

 何気なく手に取ったフィリアは、本の題名が卑猥すぎて固まった。

「これって……所謂、エロ本?」

 世の男性がこぞって見ては自慰行為にふけるという、例のあれなのか。
 ソードは女に興味がなさそうだったが、あくまで匂いや雰囲気が駄目なだけで、絵や文章なら勃つのかもしれない。
 興味本位で本を開いたフィリアは、予想と違った内容に、こぼれんばかりに目を見張る。

「これって……男性向けの指南書? 情事の? あ、付箋がついてる。初夜について? 余裕を持つ方法? なに、これ」

 何気なく文章を目で追っていたが、思っていたよりも興味深い。
 こんな本が世の中にあったなんて。
 これの女性向けがあれば、フィリアだって今日に備えて準備が出来たのに。

(ソード様、私のためにこれを読んでくださったんだ)

 ところどころ付箋がついていたり、覚えるために書き写したメモが挟んであったり、彼の努力と真面目さが伺える。
 嬉しさに、ほっこりと胸を温めていると。

 がしゃん、と背後で何かが落ちる音がした。
 振り返るとソードが立っており、足元で水差しが転がっている。

「……お、お前」
「あ、すみません。勝手に。ソード様いっぱい勉強して下さったんですね、すごく嬉しいです」
「こ」
「こ?」
「こういうものは、見て見ぬふりをしてくれっ。恰好がつかないだろうが!」

 真っ赤になって言ったソードに、フィリアは首を傾げた。
 また失言をしてしまったらしい。

(怒らせちゃった……かな)

 フィリアは不安になって、なんと声をかければいいのか迷った。
 ソードはがしがしと頭を掻いて傍へやってくると、優しくフィリアを抱き上げる。どこか諦めたような、けれども少しだけ嬉しそうな、複雑な表情でため息をついた。

「……もういい。お前の前では、恰好をつけても意味がない気がしてきた」
「ソード様はいつも恰好いいです」
「そんな風に見てくれるお前になら、俺の恰好悪いところも全部見せられる気がする……すでに、これ以上はないほどの醜態をさらしてきた気もするが」

 ベッドに横たえられて、ソードはフィリアの身体に薄手の布団を掛けてくれる。
 持ったままだった本を取り上げたソードは、少し迷ったあと、ベッドの下に戻すのではなくて枕元に置いてくれた。

「無理はするな。また水を持ってくる。そのあと身体を清めるための準備もするから、お前はここで寝ていろ。必要なものがあれば俺が動く」
「ありがとうございます」

 ソードが再び部屋から出て行くのを見送ったフィリアは、もうベッドから無理に動こうとは思わなかった。少しでも血を拭おうとしたことで、さらにソードに心配をかける結果になってしまったためだ。
 これ以上心配をかけたくなかったし、予想より身体がだるく、睡魔も襲ってくる。

 布団に包まれて、ソードの匂いに微笑んだ。

(ソード様、恰好悪いところも全部、見せてくれるんだ)

 貴族はやたら気位が高いから、恰好悪い姿を見せるのを嫌う。
 そんな常識を知っていたこともあって、ソードの気持ちがとても嬉しい。

 うとうとし始めた頭のなかで、フィリアは思う。

 ソード様の格好悪い姿って、どんな姿だろう?
 例えどんなソード様であっても、全部受け止めたいな、と。

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