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第十七話 望み、望まれる関係【後編】※

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 フィリアはベッドから降りると、ソードの前に回り込んだ。

 ソードのシャツ越しに逞しい胸に触れると、彼はびくりとして身体を引く。
 後ろ手をついて倒れ込む姿勢になったソードは、自分の股間を見せつける格好にに気づいて、慌てて身体を起こそうとした。
 そんなソードの膝の間に身体を割り込ませて、再び彼の胸に手を置き、そのままベッドへ押し倒す。

「フィリアっ?」
「これまでいっぱい気持ちよくしてくださったから、私にもさせてください」
「何を、言ってる」
「でも、ソード様は私に触れちゃ駄目ですよ。私、ちゃんと我慢しますから」

 フィリアはソードのスラックスに手を掛ける。
 男性用の衣類は毎日洗濯しているが、着脱の仕方はよくわからない。ソードが以前寛げていた様子を思い出しながら、見様見真似でスラックスの前を大きく広げた。

 ぶるっ、と勢いよく飛び出してきた昂りは雄々しくそそり立ち、血管が浮き出ている。スラックスを変色させていただけあって、先端にあるへこんだ箇所からは常に透明な液体がこぼれていた。

「待て。というか、見るな、いや、先に離れ――」
「見たいです、ソード様の」

 ぎゅ、と昂りの根元を握り締めた。

「ああっ」

 ソードが身体を震えさせる。
 フィリアは、ソードのそこが更に質量を増したことに驚いて、手のひらに伝わる火傷しそうな熱に目を見張った。

「すごいです、ソード様の。大きくて、熱くて、硬くて、すべすべしてるけど、先走りのせいでぬるぬるになってます」
「そういうことを言うなっ」

 どうすれば気持ちよくなって貰えるんだっけ、と思い出しながら、昂りを握り締めた手を上下させた。
 手のひらにビクビクと生き物のように動く昂りを感じて、少しずつ扱く速度を速めていく。

「ああっ、フィリアっ」

 破裂してしまうんじゃないかと不安になるほど膨張した昂りを握る手に、力を込めた。
 ソードの様子を確認しながら、しゅっしゅっと搾るようにして扱いていく。頬を真っ赤にして瞳を潤ませる姿を見ていると、フィリアはさらに茂みの奥で蜜が溢れるのを感じ、太ももとすり合わせる。

「駄目だっ……本当にっ! フィリアっ、もうっ」
「気持ちいいですか。気持ちよくなって貰えてますか」
「聞くな、頼むからっ。……もう、止めてくれ。お前にこれ以上、恰好悪いところを見せたくないっ」

 これ以上、とはどういう意味だろうか。
 フィリアはソードの格好悪い姿など、見たことがないのに。

 駄目だっ、とソードはうわ言のように繰り返す。
 どろどろと先走りはこぼれてくるけれど、射精はしないようだ。

(気持ちよくないのかな……こういうの、初めてだし。気持ちよくなってもらいたいのに)

 扱くたびに震えるソードの身体は、快感を示しているのではなく、不快感を示しているのかもしれない。

「やめてくれっ、頼むっ、フィリアッ」

 それにさっきから、止めてほしいと懇願されている。

「ごめんなさい、ソード様。私、こういうの慣れてなくて。でもそんなの言い訳になりませんよね。あんなに気持ちよくして頂いたのに」

 フィリアはそう告げる間も扱く手は休めない。どうしたら気持ちよくなって貰えるかともう一度考えて、主婦の井戸端会議で聞いたことを思い出した。

(……口でしたら、気持ちいいって言ってたっけ)

 ガチガチに硬く膨れ上がった彼の昂りを見つめ、少し身体の位置をずらす。
 フィリアの様子に気づいたソードが、訝しげな視線を向けてきた。

「フィ、フィリア? 止めてくれるのか? だ、だったら、その手をっ、止めて……はぁっ、あっ……本当に限界なんだ。もう、気を抜いたらっ……いや、抜かなくても、もうっ」
「こうしたら、気持ちいいですか?」

 昂りに顔を近づけるフィリアに気づいたソードが、ぎょっとした顔をした。

「お前に、そんなことっ……や、やめっ」

 彼の太くて逞しい肉棒の裏筋に舌をくっつけて、勢いよく先端まで撫で上げた。

「ひっ、あっ」

 腰を大きく揺らしたソードの昂りを追って、そっと先端に口づける。そのまま、透明な液体が溢れてきている場所を、ぐりぐりと舌で刺激した。

「あっ、ああああああっ」

 勢いよく、白濁が吐き出された。
 大きくぶるっと跳ねた昂りがフィリアの口から飛び出て、滑って手から離れてしまう。昂りはびくんびくんと揺れながら射精を続け、フィリアの顔や夜着にも、白濁をまき散らした。

(……すごい、こんなに)

 沢山吐き出したと思っても、まだ、ソードの腹のうえでびゅるびゅると少しずつ射精を続けている。
 フィリアは口のなかの精液を飲み込み、顔についたものは汚れてしまった夜着でぬぐった。

 荒い息を繰り返すソードの上にかぶさり、彼の汗でぐたぐたに寄れたシャツに顔を埋めて抱きついた。うっすらと滲んだ汗と鼻につく生臭い匂いを感じながら、フィリアはうっとりと呟く。

「……ソード様は、どうしてそんなに恰好いいんですか」
「それは、俺を馬鹿にしているのか」
「えっ」

 予想外の返事に、慌てて顔をあげる。
 ソードの顔を見上げると、彼は真っ赤な顔を右腕で隠していた。

「もしかして、気持ちよくなかったですか」
「……あまり、好きな女に恥ずかしい姿を見せたくない」
「恥ずかしい? 肌を見せることがですか?」

 フィリアの問いに、ソードは何も言わない。
 フィリアは急に不安になってきた。

「す、すみません。そうですよね、……私、ソード様にも気持ちよくなって頂きたくて……」

 もしかして嫌われてしまったかもしれない。
 平民主婦の井戸端会議では、夫は妻に結構いやらしいことをねだってくるし、それを実行すると悦ぶと聞いていたから。
 てっきり、男性はそういうものだと思っていた。
 ソードは元平民とはいえ今では貴族だし、こういう女性が積極的な行為は嫌なのかもしれない。

 落ち込んで、しゅんとするフィリアを見たソードが、フィリアの頭をぽんと撫でた。

「……違う。肌を見せるとか、そういうのは、情事をするうえでお互い見えるだろう。そういうことじゃなく」
「はい?」
「だから……いや、もういい」

 ソードが、フィリアの背中に手を回した。
 温かく大きな手に抱きしめられて、フィリアは心から安堵する。

「……本当に、お前から見て俺は、その、恰好いいか?」

 じと、と睨まれて、フィリアは満面の笑みで頷いた。

「はい!」
「……こんな、俺でもか」

 こんな、とはどういう意味だろうか。
 首を傾げると、ソードはまた「もういい」と言い、だらりと身体から力を抜いた。
 大きな手がフィリアの頭を優しく撫でる。

「フィリア」
「はい、なんですか」
「フィリア、俺の傍にいてくれ」

 フィリア、とソードは繰り返す。
 名前を呼んでもらうたびに、心が温かくなる。
 フィリアもソードを強く抱きしめた。

「……俺には、お前が必要だ」

 どくん、と大きく胸が高鳴る。
 身分や素行など関係なく、むしろそれらも含めて、フィリア自身を見てくれる。
 望んではいけないと思っていたものを、望んでいいのだと聡し、与えてくれる。

「こんなに幸せでいいんでしょうか」

 うっとり呟いたフィリアの言葉に、ソードが軽く笑った。
 彼の笑い声も嬉しそうだったので、フィリアの心は、益々温かくなった。
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