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第六話 初めての経験 ※微
しおりを挟む童貞か、と女の――それも、年下の少女に聞かれたのは初めてだった。
男として、そういうことはあまり知られたくない。
テオスバードのように女を口説くのに長けているのなら、軽く交わしてむしろ相手を虜にする言葉くらい吐けそうなものだが、ソードはこれまでそういう道を歩んでこなかったし、むしろ避けていた。
リーゼロッテは、今年で二十三歳だったはずだ。
その妹は、確か彼女の二つ年下。
となれば、二十一歳か。
ソードからすると、あの娘は七つも年下ということになる。
確か、名前はミルといった。
テオスバードにそう自己紹介していたことを思い出す。
そしてそれを聞いたとき、それまでミルの名前さえ知らなかった自分に気づいた。
ミルは先ほど、厨房を出て行った。
食べたので寝ますね、と軽く告げて。
元々彼女の食事に邪魔をしたのはソードなのだから、ミルが食べ終えたのならそれを止める権利はない。
だが、決死の思いで「童貞か」と問われたことに対して返事をしたのに、ミルはろくに何も言わなかった。
あんな恥ずかしい話題はもうしたくないし辞めたいと思ったのに、何も返事をくれなかったミルに対して苛立ちを覚える。
やや迷った末に、ソードは立ち上がった。
そしてミルが出て行った方向――二階に上がる階段がある方向とは正反対の、裏口のほうへ向かう。
そこには、向かい合わせに二つのドアがあった。
片方はどう見ても倉庫なので、もう片方がミルの部屋だろう。
少し文句を言ってやろうか、と思ったけれど、部屋まで押し掛けるのはさすがに問題な気がする。
だが先ほど蔑ろにされた矜持がじりじりと痛んで、このまま逃げ帰るのも納得ができない。
明日改めて、詰ってやろうか。
そう考えて、部屋へ戻ろうとしたとき。
「ん、はっ」
聞こえてきた色っぽい声音に、身体がしびれたように硬直した。
ぎょっとして、ミルの部屋のドアを凝視する。
思わず辺りに視線を巡らせるが、誰も姿もなければ気配もない。
唯一ある気配は、ミルのものだけだ。
「はぁ、あっ、ん、ふぅ」
また聞こえた声は、間違いなく喘ぎ声。
つい先ほどまでソードと会話をしていたのだから、男を連れ込んでいるとは考えにくい。
そもそもここはファルマール家の屋敷だ、そんな大それたことをあの娘がするとは思えない。
ということは――。
(……自分で、シテいるのか)
知らずのうちに、生唾を飲み込んでいた。
いつもならば気持ちが悪いと耳を塞ぎたくなる声だ。
テオスバードが頻繁に女を連れ込んでいるので、こういった声は聞きなれているし、これまで聞いた女の喘ぎ声はただただ嫌悪の対象でしかなかった。
なのに、身体が――主に、下腹部がしびれて動かない。
一言も聞き逃すまいと耳をそばだて、ドアぎりぎりまで顔を近づけている自分がいた。
この奥で、ミルが自分でシテいる。
あの細く小さな娘が、いやらしく身体をくねらせ、自分の気持ちいいところを擦っている。
その姿を想像した瞬間、痛みに身体を曲げた。
その先に見えた、己自身の膨らんだ股間にぎょっとする。
分厚いスラックスを穿いているのに、窮屈そうに押し上げてくるソレはひと目でわかるほどに膨張し、熱を吐き出したいとばかりにびくびくと動いていた。
(なんだ、これは。こんなこと、今までなかったっ)
無意識に右手でスラックスのうえから股間を撫でた。
下腹部に直接突き刺さるような、驚くほどの快感に眩暈を覚えて、こぼれそうになった声を、唇を噛んで堪える。
繰り返しスラックスのうえから己自身を撫でた。
服越しでも伝わる己の熱と質量が、ミルの声を聞くたびに増すのを感じた。
手つきは徐々に早くなり、スラックスにはっきりとした染みが出来てきたころ、我慢の限界がきてスラックスの前を寛げた。
現れた自身は驚くほど大きく膨らみ、びくびくと血管を浮きだたせて脈打っている。
それを本能のままに扱いた。
「はっ、はっ……あっ」
漏れる声は、最小限に堪える。
自分の吐息に、ミルの声が重なる。
「あっ、駄目っ、イッちゃうっ」
彼女の声に合わせて、しごく手を強めた。
(ああっ、駄目だっ、イクっ、俺も……出るっ、出るっ!)
「ひゃっ、あああっ」
ミルの絶頂を示す可愛い喘ぎ声とともに、白濁をまき散らした。
びゅくびゅくと勢いよく飛んだ欲望はミルの部屋のドアを濡らして汚し、だらだらと垂れ始める。
繰り返し、吐き出した。
やがて白濁は止まり、己をしごいて最後の一滴までしぼりだす。
肩で荒い息をつきながら、ソードはその場で立ち尽くした。
誰かくるかもしれないのに。
ミルにいつ気づかれるともわからないのに。
こんなところで自慰行為をしてしまうなんて。
だからだろうか。こんなに気持ちがいい自慰は、これまでに感じたことがない。
しかも、生まれて初めて、女に欲情した。
(……ミル)
今すぐこのドアを開けて、ミルを抱きしめたい衝動に駆られた。
けれど、そんなことができるはずもなく、ソードは散らかした白濁を時間をかけて片づけると、自室に戻った。
着替えてベッドに入ったあとも、ミルの声が頭から離れず、あれだけ射精したのにまた己自身が固く反り勃っていくのを感じる。
(落ち着け、駄目だ。……駄目だ)
何が駄目なのか自分でもよくわからないが、これはいけないことのような気がして、自分に言い聞かせた。
そして無理やり眠ることにする。
下半身は興奮したままだったが、先ほど射精したせいか、身体はぐったりと疲れている。
このまま眠ってしまおう。
ソードは射精後の心地よさに身をゆだねながら、眠りについた。
眠る間際、どうしてミルに対してだけあんなに反応してしまったのか疑問に思ったが、その疑問も眠りに入る瞬間にはどうでもよくなって、思考に溶けるように消えていった。
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