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第五話 縮まる距離 ※微
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厨房で自分の分の夕食を準備していたフィリアの心は、踊っていた。
今日、伯爵夫婦とリーゼロッテは外出していたのだが、その外出先で楽しいことがあったらしく、皆上機嫌で帰ってきた。
帰ってきてすぐ、リーゼロッテは久しぶりにフィリアの名前を呼んでくれた。
フィリア、着替えるのを手伝って。
それだけの言葉だったが、心の底から湧き上がる喜びに感涙さえした。
そしてその後ソードが帰宅し、皆で夕食をとる間も、いつもより笑顔で、優しい雰囲気に包まれていたのだ。
ソードと結婚し、理想から離れた夫婦関係になってからリーゼロッテの笑顔はいつもどこか寂しそうだった。
それが、今日は女神エレンが降臨したのかと思うほどに可愛らしく、そして愛しい笑みをしていた。
「……リーゼロッテ様」
彼女の笑みが脳裏から離れず、ほう、と息をつく。
いつもあんなふうに微笑んでくれたらいいのに。
ソードのことはリーゼロッテを奪った敵とみなしていたけれど、彼には彼の事情があると知った今、二人ともうまくいけばいいのにと思うようになってきている。
勿論リーゼロッテの清らかな身を男に任せるのは嫌だが、テオスバードいわくソードは真面目な男らしいので、浮気の類は心配しなくていいだろう。
フィリア自身、ソードが生真面目な男であることは察している。
元々リーゼロッテはソードを愛しているのだし、あとはソードさえその気になれば、夫婦関係は円満だ。
けれど。
仲睦まじい二人の姿を想像し、胸がえぐれるような痛みを感じるのは何度目だろうか。
何度想像しても一向に慣れないし、痛みも消えてくれない。
それでももう結婚してしまった二人なのだから、仲が悪いよりはいいほうが良いに決まっている。
リーゼロッテが今日のような笑みを常に見せてくれるのなら、フィリアも嬉しい。
(そう、私が願うのは、リーゼロッテ様の幸せのみよ!)
固いパンにかぶりついたとき、ふいに厨房のドアが開いた。
以前も似たようなことがあったが、皆が寝静まった深夜だということもあり、何度もされても驚いてしまう。
足音も気配もなく現れたソードは、眉間に深い皺を刻んでいた。
「あんな顔をしていたら、好意を寄せていることがバレるぞ」
「へ?」
「夕食のとき、常にリーゼロッテを見ていただろう。とろけるような笑みで」
「え!」
「恋した乙女そのものだった」
「ええっ!」
それはまずい。
青くなって頬を抑えるフィリアは、あわあわと口を開いたり閉じたりした。
せっかくソードが黙ってくれているのに、自分の態度が原因でばれたら馬鹿もいいところだ。
ここ何年も密かに育み、隠してきた想いなのに。
こほん、と露骨な咳払いに、顔をあげる。
また以前と同じ、向かい側の椅子にソードが座っていた。
「……昼間のことだが」
「昼間? ああ、酒場でのことですか」
「誰にも言うなよ」
「ソード様が勃起不全だってことですよね、大丈夫です言いません」
「ち、違う。勃起はする。ただ、女に欲情しないというだけで生理的には……待て、待て。そういうことを言うな、女としての慎みを持て。ぼっ……き、などという言葉を使うな」
またデリカシーのないことを言ってしまったようだった。
すみません、と謝ろうと口をひらいたとき、目の前に大きな手がぬっとあらわれた。
剣を持つ者独特の節くれだった手は、ごつごつとした男性のそれである。
何も言うな、という意味だろうか。
言おうとしていた謝罪の言葉を飲み込んだ。
「すまない」
「なんでソード様が謝るんですか?」
「いいんだ、そのままで。お前は、別に、がさつでもないし、そこまでデリカシーがなくもない。と思う」
ソードはそう言って、気まずげに視線を反らした。
気を使われているらしいと察し、ふいに笑みがこぼれた。
優しいところもあるのだ、この人も。
リーゼロッテは、ソードのこういう不器用な優しさに惹かれたのかもしれない。
ぐぅ、とふいにフィリアのお腹が鳴った。
静まり返った深夜なだけに、腹の音は部屋にやたら響く。
恥ずかしくて、誤魔化すように頬を掻いた。
ソードはおかしそうに目を細め、「俺に気にせず食べろ」と促してくる。
お言葉に甘えて夕食を再開した。
そして予想通りの沈黙がやってくる。
食べながら話すのはあまりよくないと思いながらも、ソードに話しかけた。
「世継ぎはどうするんですか?」
「養子をとる」
「はぁ、なるほど。朝方に強引に抱いてみてはどうです? 男性は朝方に生理現象で勃起するんですよね」
「……なんでそんなことを知ってるんだ」
「貴族の令嬢なら、そういう話には無縁かもしれませんけど。わりと平民は、そういう下世話な話が好きなんですよ。うちの旦那がどうとかっていう井戸端会議にたまに参加するんです、買い出しのときとか」
そういう主婦同士の会話は、かなりえげつない。
自慢と貶す言葉が同時に紡がれ、それを皆で羨ましがり、褒めたたえ、最後に笑うのだ。
旦那はまさか自分の情事が、女たちの格好の話題になっているとは思ってもいないだろう。
ソードは顔をしかめて、ため息をついた。
「朝方とかいう問題じゃない。気持ち悪いから嫌だ。女の身体は……気持ちが悪い」
「あ、女性の身体を知ってるってことは、童貞ではないんですね」
「お前っ……いや、そういうことを……ぐ、いや、言ってもいい。言ってもいいが」
「童貞なんですか?」
首を傾げて問うと、ソードは顔をしかめて俯いてしまった。
これもまた、聞いてはいけないことだったのかもしれない。
蝶よ花よと育てられた貴族令嬢はそちらに疎いが、庶民に馴染んでいるフィリアは逆にそちら関係の情報に詳しすぎて、どれが下品で言ってはいけない言葉なのかいまいち判断できなかった。
いつも、言ってしまってから相手の反応を見て後悔してしまう。
かなりの沈黙ののち、フィリアが夕食を食べ終えようとしたころ。
「……童貞の何が悪い。別に、童貞でも死にはしないだろう。女が誘惑してくるから嫌なんだ。香水や白粉の匂い、露出した肌、色目を使ってくる言動、何もかもが気持ち悪い」
やっと絞り出したような声音は、どこか苦しそうでもある。
やはり、彼は彼なりに悩んでいるのだ。
女性を食べ物に例えるのは失礼かもしれないが、苦手すぎる食べ物を無理やり食べさせられても吐いてしまうことがある。
それと同じで、ソードにとってリーゼロッテと関係を持つこと自体が、嫌悪の対象なのかもしれなかった。
ふと、閃く。
もし、ソードが心からリーゼロッテを愛したら。
そしたら、自然と身体の関係に発展するのではないだろうか。
愛する人を振り向かせるには、時間を共有するのが有効な手段だと聞いたことがある。
ソードも、リーゼロッテと過ごすうちに、リーゼロッテのよいところを知るはずだ。
フィリアは食器を流し台に置くと、ソードに向かってにっこり微笑んだ。
「じゃあ、食べ終えたので寝ますね」
「……おい、俺の話はまだ」
「おやすみなさーい」
そもそも、この時間さえ勿体ない。
ソードがフィリアといる時間をリーゼロッテに使えば、二人の心の距離も縮まるかもしれないのだ。
リーゼロッテが幸せならば、フィリアにとってそれ以上の幸福はない。
何度目だろうかわからないけれど、そう思い込もうとする。
けれど、夜になると欲望がもたげて、理想を妄想してしまう。
リーゼロッテの傍にいるのがフィリアで、愛し愛され、夫婦になれたら。
湯あみは夕食前に済ませていたし、フィリアは部屋に戻るなりベッドに入った。
一度浮かんだ妄想はなかなか消えてくれない。
リーゼロッテ。
愛する人。
身体が熱く火照ってくる。
なぜこの時間帯は、こうも身体を熱くさせるのだろう。したくないのに、身体が勝手に動いてしまう。
左手を寝着のなかに入れて、自分の小ぶりな胸を揉む。
繰り返し揉みしだくと、次第に突起が現れて、そこを重点的にいじった。
「んっ、あっ」
駄目なのに。
こんなことをしてはいけない。
リーゼロッテに肉欲を求めているわけではない。
抱きしめてほしいし、いい子だと頭を撫でてほしいと思う。
けれど、夜中になると身体が熱を持ち、行き場のない欲望が身体のなかで暴れ狂うのだ。
昼間なら理性が勝ってこんな行動は決してとらないのに。
一人でする行為は、ただの自慰行為だ。
そこにリーゼロッテは関係ない。
けれど、フィリアは繰り返し謝った。
(ごめんなさい、リーゼロッテ様)
右手は下腹部に伸びて、下着のうえから秘部を撫でた。
すでに湿っているそこを、下着のうえからぐりぐりと擦りつける。
「あっ、そこっ、ふ、うんっ」
ここに、男性器が入る場所があることは知っている。
けれど、そこに触れたことはない。
夜中にする密やかな一人遊びは、下着の上から軽く突起や割れ目を撫でるだけ。
これ以上はしてはいけないと、自分のなかの何かが抑制していた。
それでも、ここ以外の場所なら。
ほんの少し、触れるだけなら。
自慰という行為で、苦しい感情をひと時でも和らげることが出来るのなら、よいのではないか。
(ごめんなさい、ごめんなさい……はしたない子で、ごめんなさい、リーゼロッテ様っ)
今だけは、この欲望の快感に浸りたかった。
そうしたら、この胸の奥にぽっかりと空いた虚無感を、埋めてくれるはずだから。
今日、伯爵夫婦とリーゼロッテは外出していたのだが、その外出先で楽しいことがあったらしく、皆上機嫌で帰ってきた。
帰ってきてすぐ、リーゼロッテは久しぶりにフィリアの名前を呼んでくれた。
フィリア、着替えるのを手伝って。
それだけの言葉だったが、心の底から湧き上がる喜びに感涙さえした。
そしてその後ソードが帰宅し、皆で夕食をとる間も、いつもより笑顔で、優しい雰囲気に包まれていたのだ。
ソードと結婚し、理想から離れた夫婦関係になってからリーゼロッテの笑顔はいつもどこか寂しそうだった。
それが、今日は女神エレンが降臨したのかと思うほどに可愛らしく、そして愛しい笑みをしていた。
「……リーゼロッテ様」
彼女の笑みが脳裏から離れず、ほう、と息をつく。
いつもあんなふうに微笑んでくれたらいいのに。
ソードのことはリーゼロッテを奪った敵とみなしていたけれど、彼には彼の事情があると知った今、二人ともうまくいけばいいのにと思うようになってきている。
勿論リーゼロッテの清らかな身を男に任せるのは嫌だが、テオスバードいわくソードは真面目な男らしいので、浮気の類は心配しなくていいだろう。
フィリア自身、ソードが生真面目な男であることは察している。
元々リーゼロッテはソードを愛しているのだし、あとはソードさえその気になれば、夫婦関係は円満だ。
けれど。
仲睦まじい二人の姿を想像し、胸がえぐれるような痛みを感じるのは何度目だろうか。
何度想像しても一向に慣れないし、痛みも消えてくれない。
それでももう結婚してしまった二人なのだから、仲が悪いよりはいいほうが良いに決まっている。
リーゼロッテが今日のような笑みを常に見せてくれるのなら、フィリアも嬉しい。
(そう、私が願うのは、リーゼロッテ様の幸せのみよ!)
固いパンにかぶりついたとき、ふいに厨房のドアが開いた。
以前も似たようなことがあったが、皆が寝静まった深夜だということもあり、何度もされても驚いてしまう。
足音も気配もなく現れたソードは、眉間に深い皺を刻んでいた。
「あんな顔をしていたら、好意を寄せていることがバレるぞ」
「へ?」
「夕食のとき、常にリーゼロッテを見ていただろう。とろけるような笑みで」
「え!」
「恋した乙女そのものだった」
「ええっ!」
それはまずい。
青くなって頬を抑えるフィリアは、あわあわと口を開いたり閉じたりした。
せっかくソードが黙ってくれているのに、自分の態度が原因でばれたら馬鹿もいいところだ。
ここ何年も密かに育み、隠してきた想いなのに。
こほん、と露骨な咳払いに、顔をあげる。
また以前と同じ、向かい側の椅子にソードが座っていた。
「……昼間のことだが」
「昼間? ああ、酒場でのことですか」
「誰にも言うなよ」
「ソード様が勃起不全だってことですよね、大丈夫です言いません」
「ち、違う。勃起はする。ただ、女に欲情しないというだけで生理的には……待て、待て。そういうことを言うな、女としての慎みを持て。ぼっ……き、などという言葉を使うな」
またデリカシーのないことを言ってしまったようだった。
すみません、と謝ろうと口をひらいたとき、目の前に大きな手がぬっとあらわれた。
剣を持つ者独特の節くれだった手は、ごつごつとした男性のそれである。
何も言うな、という意味だろうか。
言おうとしていた謝罪の言葉を飲み込んだ。
「すまない」
「なんでソード様が謝るんですか?」
「いいんだ、そのままで。お前は、別に、がさつでもないし、そこまでデリカシーがなくもない。と思う」
ソードはそう言って、気まずげに視線を反らした。
気を使われているらしいと察し、ふいに笑みがこぼれた。
優しいところもあるのだ、この人も。
リーゼロッテは、ソードのこういう不器用な優しさに惹かれたのかもしれない。
ぐぅ、とふいにフィリアのお腹が鳴った。
静まり返った深夜なだけに、腹の音は部屋にやたら響く。
恥ずかしくて、誤魔化すように頬を掻いた。
ソードはおかしそうに目を細め、「俺に気にせず食べろ」と促してくる。
お言葉に甘えて夕食を再開した。
そして予想通りの沈黙がやってくる。
食べながら話すのはあまりよくないと思いながらも、ソードに話しかけた。
「世継ぎはどうするんですか?」
「養子をとる」
「はぁ、なるほど。朝方に強引に抱いてみてはどうです? 男性は朝方に生理現象で勃起するんですよね」
「……なんでそんなことを知ってるんだ」
「貴族の令嬢なら、そういう話には無縁かもしれませんけど。わりと平民は、そういう下世話な話が好きなんですよ。うちの旦那がどうとかっていう井戸端会議にたまに参加するんです、買い出しのときとか」
そういう主婦同士の会話は、かなりえげつない。
自慢と貶す言葉が同時に紡がれ、それを皆で羨ましがり、褒めたたえ、最後に笑うのだ。
旦那はまさか自分の情事が、女たちの格好の話題になっているとは思ってもいないだろう。
ソードは顔をしかめて、ため息をついた。
「朝方とかいう問題じゃない。気持ち悪いから嫌だ。女の身体は……気持ちが悪い」
「あ、女性の身体を知ってるってことは、童貞ではないんですね」
「お前っ……いや、そういうことを……ぐ、いや、言ってもいい。言ってもいいが」
「童貞なんですか?」
首を傾げて問うと、ソードは顔をしかめて俯いてしまった。
これもまた、聞いてはいけないことだったのかもしれない。
蝶よ花よと育てられた貴族令嬢はそちらに疎いが、庶民に馴染んでいるフィリアは逆にそちら関係の情報に詳しすぎて、どれが下品で言ってはいけない言葉なのかいまいち判断できなかった。
いつも、言ってしまってから相手の反応を見て後悔してしまう。
かなりの沈黙ののち、フィリアが夕食を食べ終えようとしたころ。
「……童貞の何が悪い。別に、童貞でも死にはしないだろう。女が誘惑してくるから嫌なんだ。香水や白粉の匂い、露出した肌、色目を使ってくる言動、何もかもが気持ち悪い」
やっと絞り出したような声音は、どこか苦しそうでもある。
やはり、彼は彼なりに悩んでいるのだ。
女性を食べ物に例えるのは失礼かもしれないが、苦手すぎる食べ物を無理やり食べさせられても吐いてしまうことがある。
それと同じで、ソードにとってリーゼロッテと関係を持つこと自体が、嫌悪の対象なのかもしれなかった。
ふと、閃く。
もし、ソードが心からリーゼロッテを愛したら。
そしたら、自然と身体の関係に発展するのではないだろうか。
愛する人を振り向かせるには、時間を共有するのが有効な手段だと聞いたことがある。
ソードも、リーゼロッテと過ごすうちに、リーゼロッテのよいところを知るはずだ。
フィリアは食器を流し台に置くと、ソードに向かってにっこり微笑んだ。
「じゃあ、食べ終えたので寝ますね」
「……おい、俺の話はまだ」
「おやすみなさーい」
そもそも、この時間さえ勿体ない。
ソードがフィリアといる時間をリーゼロッテに使えば、二人の心の距離も縮まるかもしれないのだ。
リーゼロッテが幸せならば、フィリアにとってそれ以上の幸福はない。
何度目だろうかわからないけれど、そう思い込もうとする。
けれど、夜になると欲望がもたげて、理想を妄想してしまう。
リーゼロッテの傍にいるのがフィリアで、愛し愛され、夫婦になれたら。
湯あみは夕食前に済ませていたし、フィリアは部屋に戻るなりベッドに入った。
一度浮かんだ妄想はなかなか消えてくれない。
リーゼロッテ。
愛する人。
身体が熱く火照ってくる。
なぜこの時間帯は、こうも身体を熱くさせるのだろう。したくないのに、身体が勝手に動いてしまう。
左手を寝着のなかに入れて、自分の小ぶりな胸を揉む。
繰り返し揉みしだくと、次第に突起が現れて、そこを重点的にいじった。
「んっ、あっ」
駄目なのに。
こんなことをしてはいけない。
リーゼロッテに肉欲を求めているわけではない。
抱きしめてほしいし、いい子だと頭を撫でてほしいと思う。
けれど、夜中になると身体が熱を持ち、行き場のない欲望が身体のなかで暴れ狂うのだ。
昼間なら理性が勝ってこんな行動は決してとらないのに。
一人でする行為は、ただの自慰行為だ。
そこにリーゼロッテは関係ない。
けれど、フィリアは繰り返し謝った。
(ごめんなさい、リーゼロッテ様)
右手は下腹部に伸びて、下着のうえから秘部を撫でた。
すでに湿っているそこを、下着のうえからぐりぐりと擦りつける。
「あっ、そこっ、ふ、うんっ」
ここに、男性器が入る場所があることは知っている。
けれど、そこに触れたことはない。
夜中にする密やかな一人遊びは、下着の上から軽く突起や割れ目を撫でるだけ。
これ以上はしてはいけないと、自分のなかの何かが抑制していた。
それでも、ここ以外の場所なら。
ほんの少し、触れるだけなら。
自慰という行為で、苦しい感情をひと時でも和らげることが出来るのなら、よいのではないか。
(ごめんなさい、ごめんなさい……はしたない子で、ごめんなさい、リーゼロッテ様っ)
今だけは、この欲望の快感に浸りたかった。
そうしたら、この胸の奥にぽっかりと空いた虚無感を、埋めてくれるはずだから。
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