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第三話 知られてしまった、禁断の想い
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夢を見た。
卑猥な夢だ。
夢のなかで、フィリアはリーゼロッテに抱きしめられ、キスをされ、優しく乳房をいじられる。
――私の可愛いフィリア
彼女はそう言って、フィリアの全身にキスをしていく。
夢から覚めても、身体の熱が冷めなかった。
身の程知らずな、願望だけが露わになった夢だ。
貴族である実の姉を、愛してしまった愚かな使用人。
ただ姉の幸せを願っていると思い込むようにしているのに、定期的に夢が欲望を突きつけてくる。
フィリアの想いは、敬愛や家族愛よりも、恋慕に近い。
そしてそれがどれだけ罪深いことかも理解している。
なんとか夢を忘れようと早朝から食事の準備に取り掛かり、給仕の仕事をこなし、そして出かける伯爵夫妻を見送ったあと、洗濯をする。
ソードがこの屋敷に着てから一人分の洗い物が増えたのでこれまでよりも時間はとられるが、屋敷を掃除する時間と箇所を減らし、日割りで分担すれば問題なかった。
洗濯は、慎重丁寧に。
生地によって洗う方法も違うし、汚れや匂いが残ると、衣類自体使い物にならなくなってしまう。
まずは生地別に分けて、と衣類を分類していると、リーゼロッテのネグリジェがあった。
どくん、とひと際大きく心音が鳴る。
香しいリーゼロッテの甘い香りと、寝汗の匂いに、身体が熱くなる。
昨夜見た夢が、脳裏を過った。
駄目だとわかっているのに、我慢できずにリーゼロッテの衣類に顔を埋める。
身体が熱い。
まるでリーゼロッテに抱きしめられているような錯覚を覚えて、頬が朱色に染まる。呼吸もやや粗くなり、駄目だと思うのに下腹部へ手が伸びた――。
けれど、さすがに思い留まった。
夢を見るのは仕方がないと諦めているけれど、自分の妄想でリーゼロッテを穢すなんて出来ない。したくない。
(……名前、呼んでほしい)
ソードと結婚してから、リーゼロッテの関心はソードばかりだ。
もともとフィリアに関心があるわけではなかったが、最近はまた名前を呼んでくれない。
「……こんなに、好きなのに」
一層強くネグリジェを抱きしめて、呟いた。
そのとき、すぐ傍で息をのむ音がして、慌ててネグリジェを離して顔をあげる。
出勤前の白いシャツ姿のソードがこぼれんばかりに目を見開き、フィリアを見下ろしていた。
(しまった!)
見られてしまった。
知られてしまった。
「お前、実の姉を」
「い、言わないで!」
それ以上は、言葉に出してほしくない。
フィリアの言葉をどうとったのか、それともフィリア自身に嫌悪したのか、ソードは顔をしかめて踵を返した。
手に持っていたシャツだけ、投げ捨てるように置いていく。
ソードはもう振り返りはしなかった。
フィリアは愕然と、床に座り込む。
(……終わった)
リーゼロッテに、密かに想いを寄せていることを知られた。
ソードはリーゼロッテに、いや、伯爵夫妻にも告げるかもしれない。
そうなれば、フィリアはもうここにはいられない。
それだけならいい。
リーゼロッテに軽蔑され、嫌われてしまうのだけは耐えられない。
(いっそ、逃げてしまおうか)
リーゼロッテに侮蔑の顔を向けられる前に。
伯爵から勘当を言い渡される前に。
けれど、ここを去って自分はどこへ行けばいいのだろう。カネもなければ、行く当ても頼る人もいない。
そっと、目を閉じる。
(私、馬鹿ね。逃げるって、そういうことじゃないでしょ)
フィリアにとって逃げることは、ここを離れることではない。
リーゼロッテへ邪な想いをもってしまった自分を戒めるために、自ら命を絶つことだ。
もし、リーゼロッテに嫌われたら――潔く、この世を去ろう。
そう、心に決めた。
◇◇◇
脅えながら、夕食の給仕をしていた。
その日の緊張は、これまでの比ではない。正直、リーゼロッテの挙式以上に緊張していた。
けれど、いつも通り伯爵夫妻とリーゼロッテが談笑し、ソードは黙って夕食を食べる。数時間にも感じたその時間が終え、皆それぞれの部屋に戻っていく。
そこでやっと、自分の想いが誰にも知られていないことに気づいた。あんなことが知れれば、ファルマール伯爵は間違いなくフィリアを勘当するはずだから。
(黙っていてくれた?)
ソードは、この家の身分を欲している。
身内による、醜聞になりそうな無駄な争いは避けたいのかもしれない。
何にせよ、助かった。
フィリアはそっと安堵のため息をつき、床に座り込む。緊張から力が抜けて、そっと息をついた。
ほんの少しだけ、ソードに好感を持つことができた。
卑猥な夢だ。
夢のなかで、フィリアはリーゼロッテに抱きしめられ、キスをされ、優しく乳房をいじられる。
――私の可愛いフィリア
彼女はそう言って、フィリアの全身にキスをしていく。
夢から覚めても、身体の熱が冷めなかった。
身の程知らずな、願望だけが露わになった夢だ。
貴族である実の姉を、愛してしまった愚かな使用人。
ただ姉の幸せを願っていると思い込むようにしているのに、定期的に夢が欲望を突きつけてくる。
フィリアの想いは、敬愛や家族愛よりも、恋慕に近い。
そしてそれがどれだけ罪深いことかも理解している。
なんとか夢を忘れようと早朝から食事の準備に取り掛かり、給仕の仕事をこなし、そして出かける伯爵夫妻を見送ったあと、洗濯をする。
ソードがこの屋敷に着てから一人分の洗い物が増えたのでこれまでよりも時間はとられるが、屋敷を掃除する時間と箇所を減らし、日割りで分担すれば問題なかった。
洗濯は、慎重丁寧に。
生地によって洗う方法も違うし、汚れや匂いが残ると、衣類自体使い物にならなくなってしまう。
まずは生地別に分けて、と衣類を分類していると、リーゼロッテのネグリジェがあった。
どくん、とひと際大きく心音が鳴る。
香しいリーゼロッテの甘い香りと、寝汗の匂いに、身体が熱くなる。
昨夜見た夢が、脳裏を過った。
駄目だとわかっているのに、我慢できずにリーゼロッテの衣類に顔を埋める。
身体が熱い。
まるでリーゼロッテに抱きしめられているような錯覚を覚えて、頬が朱色に染まる。呼吸もやや粗くなり、駄目だと思うのに下腹部へ手が伸びた――。
けれど、さすがに思い留まった。
夢を見るのは仕方がないと諦めているけれど、自分の妄想でリーゼロッテを穢すなんて出来ない。したくない。
(……名前、呼んでほしい)
ソードと結婚してから、リーゼロッテの関心はソードばかりだ。
もともとフィリアに関心があるわけではなかったが、最近はまた名前を呼んでくれない。
「……こんなに、好きなのに」
一層強くネグリジェを抱きしめて、呟いた。
そのとき、すぐ傍で息をのむ音がして、慌ててネグリジェを離して顔をあげる。
出勤前の白いシャツ姿のソードがこぼれんばかりに目を見開き、フィリアを見下ろしていた。
(しまった!)
見られてしまった。
知られてしまった。
「お前、実の姉を」
「い、言わないで!」
それ以上は、言葉に出してほしくない。
フィリアの言葉をどうとったのか、それともフィリア自身に嫌悪したのか、ソードは顔をしかめて踵を返した。
手に持っていたシャツだけ、投げ捨てるように置いていく。
ソードはもう振り返りはしなかった。
フィリアは愕然と、床に座り込む。
(……終わった)
リーゼロッテに、密かに想いを寄せていることを知られた。
ソードはリーゼロッテに、いや、伯爵夫妻にも告げるかもしれない。
そうなれば、フィリアはもうここにはいられない。
それだけならいい。
リーゼロッテに軽蔑され、嫌われてしまうのだけは耐えられない。
(いっそ、逃げてしまおうか)
リーゼロッテに侮蔑の顔を向けられる前に。
伯爵から勘当を言い渡される前に。
けれど、ここを去って自分はどこへ行けばいいのだろう。カネもなければ、行く当ても頼る人もいない。
そっと、目を閉じる。
(私、馬鹿ね。逃げるって、そういうことじゃないでしょ)
フィリアにとって逃げることは、ここを離れることではない。
リーゼロッテへ邪な想いをもってしまった自分を戒めるために、自ら命を絶つことだ。
もし、リーゼロッテに嫌われたら――潔く、この世を去ろう。
そう、心に決めた。
◇◇◇
脅えながら、夕食の給仕をしていた。
その日の緊張は、これまでの比ではない。正直、リーゼロッテの挙式以上に緊張していた。
けれど、いつも通り伯爵夫妻とリーゼロッテが談笑し、ソードは黙って夕食を食べる。数時間にも感じたその時間が終え、皆それぞれの部屋に戻っていく。
そこでやっと、自分の想いが誰にも知られていないことに気づいた。あんなことが知れれば、ファルマール伯爵は間違いなくフィリアを勘当するはずだから。
(黙っていてくれた?)
ソードは、この家の身分を欲している。
身内による、醜聞になりそうな無駄な争いは避けたいのかもしれない。
何にせよ、助かった。
フィリアはそっと安堵のため息をつき、床に座り込む。緊張から力が抜けて、そっと息をついた。
ほんの少しだけ、ソードに好感を持つことができた。
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