上 下
54 / 76
第四章 隠された真実

5-1、

しおりを挟む
 空は快晴で、ぽかぽかと天気がよい。
 明日からゴールデンウィークだし、本来ならばあらゆるものから解放された気分で、やたらテンションがおかしくなる私だけど。
 午前中の仕事を終えて、体操着に手袋という完全装備で待ち合わせ場所に立つ私のこころは、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
 実際に、解放された気分はある。
 けれど、金魚になって自由に泳いでいたら、尾ひれに透明の紐がついていたような、何かに引っ張られているような奇妙な感覚がするのだ。それは私を絡めとって、身動きできなくさせてしまう……そんな、自分でもよくわからない、錯覚に背筋が震えた。
 待ち合わせたのは、校舎裏にある細道。
 その南側だ。なだらかな山裾に農業通路があるのだが、その道路の途中から、廃病院へ通じる道が開拓されているという。
 開拓、というのは、この村へ夜な夜な遊びに来ている「外」の人が、行きやすいように作ったらしい。しかも見つかられないように器用に隠しているから、彼らしかしらない道筋だという。
 以上が真理亜ちゃんからの情報で、私たちはその道を通っていくことになった。
 農業通路の砂利道に立ち、そわそわする私は完全なる不審者だろう。いい歳した女が、色気のないジャージ姿でぽつんと農業通路に立ち尽くしているのだから。
 せめてスコップとか持っていたら、近所のおばちゃんとして誤魔化せたかも。いやいや、この辺りは皆知り合いだから、私が移住者なのは知れ渡ってるし。
 知られてるなら逆に大丈夫か。と思ったけれど、基本移住者は「外」の人扱いされるので、信頼度としては高くない。不審者と間違われたら、どう対応するかなぁ。
 そんなことを考えていると、姫島屋先生がやってきた。
 青空の下で見る姫島屋先生は、やはり影を背負っているけれど、いつもより肌色が明るく見えた。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。……随分と、行動を弁えた格好だな」
 そう言って、同じような姿をした姫島屋先生が苦笑する。変かな。前に沈め池へ行ったときも、同じような格好だったからこれでいいと思ったんだけど。
「変、ですか」
「いや。明るいところで見ると、新鮮だと思ったんだ」
「新鮮、ですか」
 姫島屋先生は、ああ、と言って頷く。
 頷いたきり、理由は教えてくれないようだ。そこはかとなく頬を染めているように見えるから、理由を聞きづらい。
 そこへ、空閑くんと真理亜ちゃんも合流して、真理亜ちゃんの案内で農業通路から伸びる細い道を探した。
 見事に見つからないよう、笹や大木で隠してあった細道は、沈め池へ向かったときに登った獣道より、遥かに歩きやすかった。
 地面は踏み固めてあり、日常的に使用されているのがひと目でわかる。肌をひっかけるような枝は折ってあり、目印がなくても登っていけるくらいに、道の姿を成していた。
 私たちは一列になって、黙々と歩いた。
 先頭を姫島屋先生が、続いて真理亜ちゃん、私、空閑くんの順番になっている。
 それにしても。と、私は真理亜ちゃんの長袖長ズボン姿をみた。
 長袖のシャツは真っ白い色をしており、無駄な柄がない分、デザイン性が際立っている。背中にはひび割れたガラスのような線を区切りに、白系統のカラーが配置されたデザインになっている。
 そんな背中に、小さな羽根がふたつ描かれていた。リアリティがあるイラストで、平面なのに触りたくなるほど、もふもふに描かれている。
 真理亜ちゃんは、そんな天使の羽根シャツと、ミニスカートにジーパンという姿だ。スレンダーな彼女にとても似合っている。
 女子力という、私が忘れつつあったものが目の前を歩いているのだ。嫌でも自分と比べてしまう。
 ちら、と自分の全身をみた。
 そして、真理亜ちゃんの背中をみる。
「神崎先生は、とても素敵な女性でござるよ」
 私の後ろを歩いていた空閑くんが、唐突に言った。
 やばい、姿を気にしているのがバレてしまった。恥ずかしくて赤くなってしまう私を、先頭を歩いていた姫島屋先生が軽く睨む。
「す、すみません。集中します」
 浮ついた気持ちでは、怪我をするぞ。
 睨まれたのはそういう意味だろう。
 姫島屋先生は何か言いたそうだったが、雷は落ちることなく、また歩みを再開させる。ほっと息をついた私に、空閑くんはこそっと私にだけ聞こえる声で言った。
「姫島屋先生と、うまくいってないでござるか?」
「えっ」
 なんてことを聞くのか。返事に困る。
「うまくいってない、ってことはないと思うけど」
「先日からお付き合いを始めたのでござろう? 結構進んだでござるか」
「す、すすんだって、なにが⁉」
「両親に挨拶する日程を決める、とか」
「いやいやいや、それは進みすぎでしょ!」
「じゃあ、どこまででござる? 勿論、大人なおふたりのこと、大人な関係の詳細を聞いているわけではござらんよ。とっくに、そういうことは終えているでござろうから。そういう肉体的なつながりではなく、気持ちとして……あ、婚約はしたでござるか?」
「してないからっ。いやもう、ほんと、なにも……なにも、ない、し」
 自分で言ってて、落ち込んできた。
 生徒である空閑くんに話すことじゃないから、と思って自主規制をしようとしたけれど、隠すような事柄は一切ない。
 手さえ繋いでいないのだから。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...