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第三章 歩く死体

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 来週から、ゴールデンウィークに突入する。
 連休前は、やることがありすぎて心身ともに疲労困憊になるのだが、大型連休目前だと思うと頑張れるから不思議だ。
 今年度に入って、やっと一息つける時間になるだろう。
 女生徒失踪事件に、緑川先生の「元彼のような振る舞い」に関する周囲の反応、なによりミコ先生の悪女のごとき私への接し方、そういったものによって、私の心労はつもりにつもっていた。
 まえの職場は、大御所感漂う中学校で、堅物な上司が多かった。対人関係で苦労をしたのは、苦い経験になっている。
 今の職場は、そこまで堅苦しくはない。
 けれど、昨年度に中高一貫となった新設校のため、ひとりの負担が凄まじかった。これ本当に教師の仕事? というようなことまで、やっている気がする。
 まぁ、ここが田舎で、職員が少ないためでもあるんだけど。
「神崎せーんせ」
 パソコンとにらみ合いっこしていた私の前に、ミコ先生がひょっこり現れた。
 彼女は対人関係に関してラフで、軽いノリと真面目な表情を切り替えてうまくやっている。
 これだけ見た目が可愛かったら、私も優しくされたのかなぁと思ってしまう。
 ぽってりとした唇は、柔らかそうだし。柔和な笑顔は、女性らしいし。顔も小顔で、目は小動物みたいに大きいし。
 私が新人だった年は、激務だったよ。
 ある意味パワハラかってくらい、上司にこき使われたよ。
 ミコ先生みたいに、年配の男性教員に甘やかされるなんてこと、天地がひっくり返って藻ありえない状況だったなぁ。
「どうしたんですか? あ、お疲れです?」
「まぁ、うん。それで、なに?」
「さっき生徒から聞いたんですけど、この学校で幽霊がでるんですか?」
「はい?」
 思わず、聞き返してしまう。
 ミコ先生が、「もう、神崎先生ったらおばあちゃんなんだから」と笑う。さらりと馬鹿にされながらも、もう一度問うと、ミコ先生は詳しく話し始めた。
「なんでも、夜中に校舎から声がするらしいですよ? 聞いた人がいるって、生徒が言ってました」
「生徒が聞いたんじゃなくて?」
「生徒の知り合いが、聞いたみたいです。ちょっと遠いですけどね。だから、幽霊でも出るのかなって思ったんです」
 なんでそれが幽霊になるの、とジト目をした瞬間。
「ああ、それなら私も聞いたわよ」
 中等部一年二組担任の、早良先生が話に入ってきた。
 私の母と同じほどの歳をした早良先生は、つねに堂々としている、てきぱきと仕事をこなす女性だ。わからないことへの質問の返事も明確で、相手に伝わる言葉を選べるひとでもあった。
 早良先生のような人が担任なら、保護者も安心だろう。
「早良先生もですか? 幽霊がでたって?」
「さすがに飛躍しすぎよ、宝田先生。私が聞いたのは、深夜に学校から人の声がするって話。うちのクラスの子が話してるのを聞いたの」
「あれ、私が聞いたのは、二年の子からでしたよ」
「何件か証言があるのかしら。もし、深夜に誰か学校に忍び込んでるなんてことがあったら、一大事よ。教頭に連絡しなきゃ」
「それなら、私が行ってきます」
 私は、ふたりの話に入って、席をたつ。
 早良先生が、ありがとうと言うのを聞いてから、教頭先生の方へ向かった。なぜか、ミコ先生もついてくる。
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