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第二章 少女失踪事件
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彼女は、ややのち、プレハブ内の片付けに入った。薄手のリュックに、食料やパジャマを押し込んでいく。
「怪我とか、ない?」
「あるわけないでしょ。……残念、もっと心配させてやろうと思ったのに」
不満そうに、沙賀城美咲は呟いた。
「それで、池に落ちたみたいに偽装したの?」
「うん。池に落ちたかも、なんてなったら、大規模な捜索が行われるでしょ? でも、私はただの自作自演だった。あの威張り腐った両親の顔に、泥を塗ってやろうと思って」
「威張り腐った、って。お母さん、心配されてるみたいだったけど」
「全部演技。やつは、自分を褒めてくれる取り巻き侍らせて、人より優位にたつことしか頭にないんだから」
沙賀城美咲は、ため息をつく。
切なさを帯びた、諦めたような横顔に、私の胸が締め付けられる。
「……家が、つらいの?」
沙賀城美咲は、驚いたように振り返ったあと、肩をすくめた。まぁね、と答えてから、リュックを肩にかけた。
「心配させたかったって、言ったけど。それって、愛されてる自覚があるから、出来ることだと思うよ」
歩き出した沙賀城美咲は、ふと、足を止めた。
動かなくなった彼女へ、ゆっくりと、近寄る。
「家まで、送っていくから」
「……私、愛されてる?」
「自分でわかってるんじゃないの? 答え」
沙賀城美咲は、唇をかんで俯くと。
やがて、こくりと頷いた。
ぽろっ、と流れた涙を皮切りに、声をあげて泣き始める。
私は、そんな彼女の肩を抱き寄せて、強く抱きしめた。
「怪我とか、ない?」
「あるわけないでしょ。……残念、もっと心配させてやろうと思ったのに」
不満そうに、沙賀城美咲は呟いた。
「それで、池に落ちたみたいに偽装したの?」
「うん。池に落ちたかも、なんてなったら、大規模な捜索が行われるでしょ? でも、私はただの自作自演だった。あの威張り腐った両親の顔に、泥を塗ってやろうと思って」
「威張り腐った、って。お母さん、心配されてるみたいだったけど」
「全部演技。やつは、自分を褒めてくれる取り巻き侍らせて、人より優位にたつことしか頭にないんだから」
沙賀城美咲は、ため息をつく。
切なさを帯びた、諦めたような横顔に、私の胸が締め付けられる。
「……家が、つらいの?」
沙賀城美咲は、驚いたように振り返ったあと、肩をすくめた。まぁね、と答えてから、リュックを肩にかけた。
「心配させたかったって、言ったけど。それって、愛されてる自覚があるから、出来ることだと思うよ」
歩き出した沙賀城美咲は、ふと、足を止めた。
動かなくなった彼女へ、ゆっくりと、近寄る。
「家まで、送っていくから」
「……私、愛されてる?」
「自分でわかってるんじゃないの? 答え」
沙賀城美咲は、唇をかんで俯くと。
やがて、こくりと頷いた。
ぽろっ、と流れた涙を皮切りに、声をあげて泣き始める。
私は、そんな彼女の肩を抱き寄せて、強く抱きしめた。
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