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第二章 少女失踪事件

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「このナップザック、中身は体操着でござるよ」
「ものすごく堂々と触ってるけど、いいのそれ」
「別段、事件現場というわけでもないゆえ、問題ないかと。……名前があるでござる。む、沙賀城美咲、と」
「沙賀城美咲⁉」
 思わず声をあげた私は、反射的に姫島屋先生をみた。
 姫島屋先生は、少し離れたところでしゃがんでいる。視線の先には、靴が一側だけ、転がっていた。
「放置されたタオル、体操着、一足だけの靴……傍には、池。まずいよ、すぐに警察を呼ばなきゃっ」
「落ち着くでござる、先生。考えはお察しするが、まだ結論には早いでござるよ」
「いやいや、落ち着きすぎでしょ。結論とかは警察が出せばいいよ。とにかく、行方不明の美咲さんの私物が見つかったんだから、連絡しなきゃ」
 携帯電話を取り出して、ダイヤルをぷっしゅ。
 手が震えてうまく押せず、何度かやり直して、やっと通話をかけた。
「……なんで、繋がらないの!」
「県外だぞ」
 冷静な姫島屋先生の声に、えっ、と携帯電話を見ると、県外表示になっていた。
「いやーっ、すぐに警察呼んでくるーっ!」
「先生、落ち着くでござる」
「落ち着け、ばかめ」
 二人から言われて、私の焦りは少しだけ収まった。
 さりげなく姫島屋先生に、ばかめ、と言われたけれど。
「なんで二人とも落ち着いていられるの? 沙賀城さん、池に落ちたかもしれないんだよ?」
「先生は、なぜそう思うでござる?」
「だって、不自然じゃない。こんな場所に、私物だけ落ちてるなんて。靴も一足だし」
 空閑くんは、眼鏡を押し上げて、散らばっている品々と、池と、そして姫島屋先生をみた。
「姫島屋先生は、どうお考えか拝聴しても?」
「考え、というと?」
「池に落ちた、とお考えでござるか?」
「いや」
 姫島屋先生は、きっぱりと否定した。
 驚く私と反対に、空閑くんは頷いている。
 まるで示し合わせたような二人の反応に、酷く置いてきぼりを食らったような気がした。
「そもそも、沙賀城美咲は、自室から姿を消したでござる」
「そう聞いてるけど……え、なんで知ってるの⁉」
「拙者、こう見えて情報の入手ルートが確立しているでござるよ」
 いや、ちょっと意味がわからない。
 けれど、そこを突っ込む時間も惜しくて、話の続きを促した。
「考えられるのは、家出。自分から部屋を出た、と。その後何かしらの事件に巻き込まれたとしても、なぜ体操着がここにあるのか。不自然でござる」
「着替えとして、持ち出したんじゃない?」
「……着替えなら、他にあるでござろう。自室から出たでござるよ」
「じゃあ、部屋にいるところを誘拐されたとか。犯人は沙賀城美咲さんのストーカーで、体操着も持ち去った。そういう趣向だから!」
「神崎先生の思考は、面白いでござるなぁ」
 空閑くんは、考えるように頷いたあと、眼鏡をくいっと押し上げた。
「仮にそうだとして、戦利品を放置する理由がわからぬでござる」
「え……犯人が、興味を失ったから、とか」
「なぜでござる?」
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