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終章

3、

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「これ、もってって。あげるからっ」
「え、待って。よくわからないけど、払うよ?」
「バイト代でたとこだから、大丈夫!」
 それから、みこちゃんは「石井先生見損なった!」など、一人でぶつぶつ不満を言っている。そうやって呟く辺り、須藤先生と似ていて、なんだかほんわかする。
 みこちゃんとは途中でわかれて、私は今日も、須藤先生のアトリエに向かう。
 今日も、奈良の街並みは変わりない。
 ゆったりとした街並みのなか、迷い鹿がのそのそと歩いていく。町行く人々は、鹿に道を譲りながらも、騒いだりせず、日常の一部として受け入れている。
 なんの変哲もない、ならまち。
 アトリエにつくと、作業場でアクセサリーを加工している先生がいた。
「ただいまかえりました」
「おかえり」
 休憩室を見て、ちらかり具合を確認する。
 私がここで暮らし始めてから、散らかり具合が少しだけましになったのは、私が休憩室を片すタイミングが増えたからだ。
 掃除と洗濯を済ませて、買いだしておいた材料で夕食をつくる。
「大体終わりましたが、ほかにやることはありますか」
「今はない。新しく不用品が出たから、それも使っていいぞ」
 先生が私に「使ってもいい」と分けてくれた、材料の入れ物を取り出した。百円均一で購入したプラスチックの容器には、新しく天使の姿をかたどったパーツが入っている。ブラスパーツのようだ。
「芸術的な天使ですね。年代物っぽい」
「ドイツから取り寄せたんだが、実物が好みではなかった」
「たっかいやつじゃないですか!」
「だから捨てられないんだ。きみが使えばいい」
 先生は、作品に関して妥協を許さない。おかげで、このプラスチックの容器には、様々な素材が入っている。なかでも、お気に入りは変わらずドラゴンブレスだ。
 先生のように上手にアクセサリーを作れるようになったら……いや、先生ほどは無理でも、もっと上達したら。そしたら、ドラゴンブレスを加工してみよう。
 深紅の石のなか、炎が揺らめくように輝く不思議な石――ドラゴンブレス。いつかこれを、私好みのアクセサリーに加工をすることが目標だ。
 そして、それができたら。
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