須藤先生の平凡なる非日常

如月あこ

文字の大きさ
上 下
124 / 128
終章

1、

しおりを挟む
「このあと、遊びいかなーい?」
 三学期が始まった。
 今日は、三学期に向けての簡単なオリエンテーションだけだ。久しぶりの教室で、帰る準備をしていた私に、みこちゃんが声をかけてきた。にやにやしているみこちゃんは、私の返事を聞かずに身体を寄せてくると、額がくっつくくらい顔を寄せてきた。
「なーんて、今日もバイトでしょ?」
「まぁ、うん」
「あたしねぇ、見ちゃったー」
「見ちゃったって、なにを?」
「とげっちゃんが、石井先生と寄り添って歩くところ」
 ひそめた声には、たっぷりとした好奇心が混ざっている。私は目を瞬いて、みこちゃんを見た。
「寄り添って?」
「うん」
「どこだろ。猿沢池? 大仏殿? あ、二月堂かな」
「……そんなに覚えがあるんだ」
「先生の気分次第だから」
「それって遊ばれてない? 大丈夫?」
「え? うん、大丈夫?」
「なんで疑問形なの! まぁ、でも、とげっちゃんが大丈夫なら、大丈夫なんだろうけど」
 みこちゃんは、リュックを背負った私を見ると、促すように歩き出した。隣を一緒に歩き始める。今日は、ほかのお友達はいないのだろうか。
「あとで合流するの。現地集合ってやつ」
 私の考えを読んだように、みこちゃんが言う。私は、ふぅんと返事をする。
「でも、まさか矢賀先生が急に退職するなんてねぇ。びっくらしたよね」
「そうだね」
「それも、一方的な辞職でしょ? 何かあったのかなぁ」
「矢賀先生にも、いろいろあるんじゃない?」
「だろうけどさー。結構お世話になったし」
 みこちゃんは、唇を尖らせる。残念そうな表情に、罪悪感を覚えないわけではない。
 今日、副担任から、矢賀先生が辞職されたと聞いた。手続きはすでに終えており、矢賀先生本人家族も海外へ引っ越したという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

まほろば大戦

うさはら
ファンタジー
ぼくは人の考えがわかる。 頭の中が読めるのだ。 でもそれは、ある大きな役割を全うするために与えられたものだった・・・。 聖徳太子、法隆寺。 僕たちの知る歴史は真実なのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...